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剣風 三

「手ぇ出すなっつでんだろがッ!」

 源龍は龍玉と虎碧に吠えながら、香澄に突っ込んでゆき大剣をうならせる。

 その言葉を受けてか、香澄も龍玉と虎碧には手出しせずに源龍の大剣を七星剣で受けると咄嗟に力を抜いて受け流しざまに左へと身をずらす。

 そうすれば大剣の切っ先は七星剣に操られるようにして地を強くたたいた。

 大剣の切っ先が地に着くと同時に香澄は軽やかに跳躍しまるで風に乗っているかのような動きを見せ、七星剣の切っ先を源龍の顔面に向けた。

「くッ」

 脇に入られて七星剣は顔面に迫って。万事休すかと思ったが、おもむろに源龍は大口を開くや。迫る七星剣の切っ先を上下の歯をもって挟んで噛んで受け止めた。

 ぎりり、という不快な音が源龍の脳髄で聞こえたようだった。

「な、なんちゅう……」

 龍玉はそれを見て驚くやら呆れるやら。

 顎の力は相当なもののようで、ふつうならそのままうなじまで突かれそうなものだが。源龍の歯と顎は見事七星剣を受け止めていた。

「……」

 これには香澄も少しは驚いたようで、一瞬動きが止まった。それからすぐに目を見開けば、左耳のあたりまで足のつま先が迫って。すかさずに柄から手を放して後ろに跳躍してこれをかわした。

 そうすれば源龍と香澄の間を虎碧が飛んで行って、着地する。香澄の動きが止まったその一瞬を突いて蹴りを繰り出したが、惜しくもかわされてしまった。

 源龍はぺっと唾と一緒に噛んで止めた七星剣を放り捨てれば、七星剣は軽く音を立てて地に落ちる。

 はっと閃いて龍玉は素早い動きで駆けて七星剣を拾うと、源龍の後ろまでさがった。

「うふふ」 

 この連携した動きに、第六天女は感心するように微笑みながら頷く。

 無手となった香澄だが、動揺する様子は見せず。変わらずにとらえどころのない無表情な顔を見せている。

「てめえら、手ぇ出すなと言ったろうが!」

 源龍が怒りをあらわにふたりに吠える。しかし龍玉と虎碧は動じない。

「よく言うよ。虎碧が蹴りを出さなきゃあんたやられてたんだよ!」

「知るか! 俺は香澄とサシで勝負してえんだ!」

 源龍は鋭い視線で龍玉と虎碧を睨みつけた。それからはっとすれば、香澄は無手のままで源龍に向かって駆け出してくる。

「いいか、今度こそ手を出すな。言うことを聞かねえとお前らの頭をかち割ってやるからな!」

 吠えながら源龍は駆け出しざまに大剣を上段にかまえて、香澄の頭に照準を合わせて思いっきり振り下ろした。

 大剣はうなりをあげて香澄の頭上まで迫ったが、これまた風に乗るような軽やかな動きを見せて右にかわせば。さっきまで香澄の頭のあったところに大剣が振り下ろされた。が、腕の力の込め具合を変えて、振り下ろす大剣をすかさずに持ち上げ斜め上に走らせれば、大剣は香澄の脇腹めがけて大剣が迫った。

 大剣が香澄の胴をぶった斬る、かと思われたが。大剣はそのままむなしく空を切るのみ。ふと見上げれば、香澄は高く跳躍して剣をかわしていた。

 そこへもさらに大剣が迫ったが、香澄は素早く脚を伸ばすと、なんと迫る剣を蹴ってその勢いを借りてさらに高くへ飛んだではないか。

「んなッ!」

 これには源龍もさすがに驚き、己の頭上を飛び越してゆく香澄を見上げるしかなかった。

 龍玉も虎碧も呆然とそれを見るしかなかった。

 衣をはためかせて、まるで風に乗るように、自由に宙を舞う天女を思わせずにはいられなかった。

 宙を舞う香澄の目は、龍玉に向けられていた。

「これが欲しいのかい?」

 香澄と目が合った龍玉は己の手に握られる七星剣を香澄が取り戻そうとしているのを察して、自身も跳躍しざまに己の剣を香澄向けて突き出した。

 龍玉の剣が香澄を貫く、わけもなく。さっきと同じように脚を伸ばせば。剣先を跳躍台にするようにして香澄はまた跳躍した。

 虎碧も咄嗟に跳躍して剣を香澄向けて突き出す。だがそれも、軽やかにつま先に蹴られて、香澄はまた飛ぶのであった。

「なんで軽技なの」

 着地した虎碧は相手の剣すらももてあそび天女のように宙を舞う香澄の軽技にただただ驚くばかりだった。

 先に着地していた龍玉も悔しそうに香澄を見上げるしかできなかった。

「あたしらは、ほんとうに天女を相手にしているっての!?」

 さすがに龍玉の胸中に動揺がうごめきはじめる。

 だが源龍は毅然としたものだった。いや、その目はらんらんに光って、口元はゆがんでおり。毅然を通り越してなんだか楽しそうに笑っているような顔をして、宙を舞う香澄を見上げていた。

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