剣風 一
目を輝かせる第六天女の視線の先には、源龍。
「無間道士、香澄、ふたりを解き放しておやり」
その言葉どおり、無間道士は虎碧を降ろし。香澄は剣を引いて龍玉から離れた。
それでも、龍玉と虎碧は動けず。どうにか上半身だけ起こすのが精一杯だった。
「誰?」
閉じそうな目をどうにか開いて、ふたりは源龍を見つめていた。髭を生やし黒い衣服で身をつつんで。背中には大剣をひっさげている。そして、その目はらんらんに光り、つねに殺気を孕んでいるようだった。
その視線の先には第六天女があり。龍玉と虎碧には目もくれない。
「どうした。遊びにくわえてほしいのかえ?」
第六天女は艶やかに語りかける。語りかけながら、源龍は柄を握るとぶうんと風をうならせ、両手で柄を握りしめて大剣を構える。
「人の目の前にちょろちょろと」
「ほほ。お前が逃げはしないかと気になっておったでな」
「ふん」
源龍は鼻で笑った。
「逃げているつもりだったが。もうやめた。やはり俺とお前らは悪縁があるようなのでな」
「うふふ。ようやくわかったようじゃの」
「で、この遊びに俺を付き合わせようというわけか」
じろり、と源龍のまなこが無間道士と香澄に向けられた。話を聞いていた龍玉と虎碧は驚かずにいられなかった。
(こんな目に合わせて遊びだって?)
(私の碧い目を求めていながら。もてあそばれていたのね……)
第六天女が虎碧の碧い目を求めていたのはほんとうだろうが、そのついでにおもちゃにして遊んでいたと思うと。怒りよりも身震いするものを覚えざるを得なかった。
反魂玉とは。虎碧の碧い目とは。自分の知らないところで、なにかが起こっていると虎碧は直感的にさとるのである。
「御託はもういい。ゆくぞ」
そう言うと、源龍は大剣を前に突き出す格好で駆け出す。その先にはもちろんのように第六天女。
それと同時に無間道士が腕も脚も広げて大の字になって前に立ちふさがる。
「化け物が、邪魔だ!」
そのまま大剣のきっさきを無間道士の腹に突き立てようとして駆け足を止めることはしなかった。
「ぐわあ!」
無間道士は叫んで大剣めがけて右の拳を振り上げて振り下ろした。その刹那、突き出された大剣はうなりをあげて上方向へ振り上げられ。その先の拳をかち割るかと思われた。しかし無間道士もさるもの、瞬時に手を開いて大剣をかわして腹の部位を掌で打った。
強い衝撃が走り大剣は弾かれて源龍は思わずよろけてしまった。
「うおお!」
源龍一喝。よろけながらも衝撃を利用してそのまま一回転して、勢いに任せて大剣を無間道士の脇腹にぶつけた。
「ほう」
第六天女は感心して頷き。その視線の先には大剣を脇腹に食らってえぐられて、もんどりうって血を吹き出しながら倒れる無間道士の無様な姿があった。




