反魂玉 Ⅵ
龍玉といえば突如あらわれた謎の少女に防戦一方で反撃のはの字もできない。
それどころか、剣を防ぐのに夢中になって。その隙を突かれて、目にもとまらぬ早さで脚が蹴り出されて龍玉の腹をしたたかに打った。
「ふ、ぐッ」
後ろへ吹っ飛び剣は手からはなれて、地に背中をしたたかに打って。起き上がろうとしたが、あまりの衝撃と苦痛に、片手をついて起き上がろうにも起き上がれず。もう片方の手は腹をおさえていた。
「龍お姉さん!」
龍玉が倒れるのが目に飛び込み、動揺から虎碧の動きが鈍り。そこへ、無間道士の熊のような拳が迫った。
「いけない」
あまりの早さによけられない。咄嗟に後ろへ跳躍しながらもろ手を交差させて顔の前にかざして顔面を防御し。そこに拳がぶつけられた。
「ああッ!」
両腕に骨のきしむ激しい衝撃と痛みを覚えながら後ろへ吹っ飛んで剣は手からはなれて、龍玉同様背中を地面にしたたかに打ち付けて、これまた起き上がろうにも起き上がれなかった。
もし咄嗟の跳躍で衝撃をやわらげなかったら腕の骨は粉々に砕かれていたかもしれなかった。が、それはなぐさめにはならないほどに虎碧は力量の差を痛感させられてしまった。
それぞれ相手のそばまで来て苦痛にゆがむ顔を見下ろして。少女が七星の剣をかざし、無間道士は虎碧の首ねっこをつかんで頭上にかかげた。
第六天女は艶やかな笑みを浮かべて満足そうにしている。
「冥土の土産に教えてやろう。お前たちの察した通り、この玉には死者を蘇らせて操る魔力がある。名付けて反魂玉という」
そう言われても、龍玉も虎碧も応えられない。それにかまわず第六天女はつづけた。
「その無間道士も、その娘、香澄もそう。死んでいたのをわらわが蘇らせて玉の魔力をもって操っておるのじゃ」
そうだったのか、と心の中で思っても、もうどうしようもなく。ふたりともこれ以上ないという悔しさや無念さを胸に抱いて死を覚悟せざるを得なかった。
「その碧い目も、わらわがもとめているものじゃ。はるか西方の異人の血を引く者の碧い目は、煎じて飲めばわらわの魔力が増す。じゃからどうしてもほしいのじゃ」
虎碧の目をそんなことに! 最期をさとった虎碧の脳裡に幼いころからの日々が思い起こされる。
虎碧はさる女侠の娘だが、父親が誰かわからなかった。母親も教えてくれなかった。その母親は虎碧が十五の年に突如行方をくらましてしまった。そのため自分の碧い目の由来を知ることができず、母親を探す旅をしていた。
龍玉とはその旅の最中に出会った。
ともあれ、よくわからぬが、碧い目は魔力を秘めているのだろうか。だから第六天女は碧い目をもとめていたのだろうか。
第六天女はふたりの無様さを可笑しそうに眺めている。それから「やっておしまい」と始末をする、かと思われたが。
「待て」
と、意外な言葉を発した。
その視線の先に人影がある。それを見て口元がにやりとゆがむ。
人影の方もこちらに気付いたようで、歩みを止めてこちらを見やっている。その背中には、大剣があった。
「源龍。来たかえ」
と、第六天女は目を輝かせて言った。




