反魂玉 五
「だめか」
あまりの身の硬さで剣が通用しない。どうすりゃいいんだよ、と龍玉は苦い顔をする。そう悩んでいる間にも怪物となった無間道士の猛攻。それは虎碧に集中して向けられた。
「うがあ！」
咆哮がとどろき腹をずんと打つ。
丸太のように太い腕や脚が間断なく虎碧に向けられて繰り出される。
「龍お姉さん！」
無間道士の攻めをかわしながら虎碧は叫んだ。
「私のことはいいから、龍お姉さんは第六天女の玉を割って！」
そう言われて龍玉ははっとした。そうだ、無間道士はあの玉の光を受けて蘇った。ならば、あの玉を割れば――
「がってん承知！」
龍玉は虎碧を助けに行きたいもどかしさを感じつつも、向きを変えて第六天女に向かって駆けて剣を閃かせた。
「おや」
自分に向かってくる龍玉を見つめながら第六天女はくちもとをほころばせる。碧い目の娘、なかなか目のつけどころがよいではないか。
龍玉は駆けた。第六天女との距離が一気に縮まって、手を伸ばせば顔に触れられるところまで来て、
「やああッ！」
大喝一声、剣を振り上げて玉を持つ第六天女の右手に向けて剣を振り下ろした。だが第六天女は平然としている。
このままゆけば、剣は右手を斬り、玉は地に落ちる。それを足で踏んづけるなり地に叩き割るなりしてかち割ってしまうのだ。
が、そうは問屋が卸さない。振り下ろされた剣が第六天女の右手を斬るその直前、突然なにかに止められてしまったのだった。
振り下ろされた剣が、別の剣によって止められてしまった。その剣には、紫の七つの珠が北斗七星の配列に埋め込まれている。
「あ、え、なんで」
見ればいつの間にか、第六天女の背後に若い娘がいて。その剣をもって龍玉の剣を受け止めていたのだ。
「いつの間に！」
と思う間もない。七星の剣をもつ娘は咄嗟に第六天女の前に進み出て、龍玉に斬りかかったのだ。
「う。――」
龍玉は娘の動作に戸惑い、攻めの剣を受けるのが精一杯だった。その娘、まるで風に乗っているかのように動きは軽やかでつかみどころがなく、七星の剣もひらりひらりと風のように舞って龍玉を翻弄する。
（な、なんだいこの娘は！）
わけがわからない。
死人や無間道士が屍魔になって生き返るわ突如第六天女もなる女があらわれて無間道士を怪物にしたかと思えば、この七星の剣の娘だ。
一体全体、どうして自分らはこの不条理な状況に置かれなければいけないのか。
虎碧といえば、無間道士に苦戦しながらも。己に向かう腕や脚をたくみにかわしながら一瞬の隙を見つけてわずかながら切り傷をつくってゆく。
さっきと比べて無間道士の動作が鈍くなった。腹と背中を刺されたのが少しは効いてきているか。
（でも決定的な傷を負わせられない）
いかに一瞬の隙を突こうとも、無間道士に決定的な打撃を与えられないのでは、こちらが限界を迎えてしまう。そうなれば、その腕や脚で滅多打ちに打たれれ、目をとられてしまう。
（どうしよう）
冷静になるようつとめていたが、身も心も追い込まれる一方だった。
