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反魂玉 四

「う、くッ」

 熊のような化け物になった無間道士が突っ込んでくるのを見て、龍玉も虎碧も身体がふるえて硬直し、動くに動けなかったが。すんでのところでようやく跳躍し、振り回される腕から逃れる。

 その早さ尋常ではなく、ふたりを追い腕を振るい脚を繰り出すたびに風がうなり。龍玉と虎碧の髪を揺らす。

「ちきしょう、お前なんだってあたしらにちょっかい出すんだよ!」

 無間道士の攻めをようやくにしてかわしながら龍玉は叫んだ。よくわからないが、第六天女の持つ玉になんらかの秘密が隠されているようだ。それが、無間道士を蘇らせたばかりか、あんな化け物にしてしまったようだった。

 虎碧もそれを察しているが、あまりの猛攻に攻めをかわすのがやっとで。隙を見て逃げ出したところで、すぐに追いつかれて背中から攻められかねなかった。

 第六天女は無間道士が逃げ惑うふたりを追う様を妖艶な笑みで見つめていたが、その視線の先は虎碧の碧い瞳に向けられていた。

(ようやく見つけた。碧い目の娘)

 口元がゆがむ。

「無間道士、碧い目の娘は殺しても目玉をつぶすまねをするでないぞ!」

 それにこたえるように「ぐわあ」と無間道士は吠えて、攻めを虎碧に集中するようになり。龍玉はほったらかしになった。

「私の、目?」

 虎碧といえば、驚きを禁じ得ない。この女、自分の目が欲しいようだが。その理由はわからない。

(確かに私の目は碧いけど……)

 無間道士の丸太のように太い腕が間断なく迫り、身をひねらせあるいは跳躍しあるいは剣を振るってどうにかわかしながらも、なぜ自分の碧い瞳のことに思いを巡らせて、頭の中がいっぱいになる。

「虎碧!」

 攻められることのなくなった龍玉は無間道士の背中めがけて剣先を向けて駆けて鋭い刺突を見舞おうとするが、無間道士は一瞬振り向きざまに剣に向けてぶうんと太い腕をうならせる。

「やばい」

 咄嗟にすんでのところで足を止め後ろに跳躍しながら剣を腕からかわす。このままぶつけられれば、剣は拳で砕かれかねなかった。

 その瞬間、はっとひらめき。回るだけ回った腕が行くところまで行って止まったその一瞬、龍玉はすかさずに剣を振るってその手首を斬った。

 手ごたえは十分あった、と思いたかったが。その筋肉は固く、剣は皮をいくらか切っただけにとどまった。

「な、なんて奴だよ!」

 龍玉は歯噛みする。虎碧は無間道士の注意が一瞬龍玉に向かったその隙を突いて、素早く地の石を拾い、顔面に投げつけた。

 石つぶては見事こめかみに当たった。が、しかし、石はつぶては当たると同時に砕け散って、無間道士も痛くもかゆくもなさそうにしている。

「ああ、だめか」

 効き目はなかったとはいえ、虎碧は素早く後ろに下がって無間道士との間合いをとって、剣を構えなおす。

 その次の瞬間、無間道士の動きが鈍った。どうして、と思う間も惜しみふたりは前から後ろから剣を突出し、胴に背中に剣を突き立てようとする。

「ちッ」

 第六天女が舌打ちするのと、ふたつの剣が胴と背中に刺さるのは同じ瞬間だった。どうやら砕けた石つぶての破片が目に入って、それで動きが鈍ったのだろう。

「ぐわあ!」

 無間道士は吼えた。その顔は苦痛にゆがんでいた。が、龍玉と虎碧も手ごたえの無さに顔をしかめて。咄嗟に間合いを取った。

 剣は確かに胴と背中に刺さったが、その硬い筋肉が剣先を防ぎ臓物まで届くのを妨げたのだった。

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