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反魂玉 三

「第六天……」

 反芻する言葉も終わらぬうちに、突如第六天女と名乗った女は駆け出し。龍玉と虎碧は剣を構える。

 しかし、第六天女は二人の間を疾風のように駆けてゆく。その早さは尋常ではなく、ふたりは剣を動かすこともできなかった。

「なッ!」

 と振り向けば、第六天女は屍肉を食らう無間道士のもとまで来ていた。

 そうかと思えば、ふところから玉を取り出す。水晶玉か、それは透明でとても美しい玉であった。

 その玉が掲げられる。そうすれば、玉は太陽のように輝きだし、そのまぶしさにふたりは思わず手で目を覆った。

 輝く玉の光は第六天女と屍肉を食らう無間道士を包み込み。光の中で何が起こっているのか、うかがい知ることはできない。

「な、なにを」 

 虎碧はようやく指の間から様子をうかがうが、玉から発する光は強く。まるで天から星が落ちてきたようだ。

(なにかの術?)

 女はあの玉をあやつり、なんらかの術を無間道士にかけているのだろうか。

 どうするべきかと思い悩んでいると、だっと地を蹴る感触が足に伝わった。龍玉が駆け出したのだ。

「ふざけんじゃないよ、この!」

 左腕で光を防ぎながら、龍玉は剣を閃かせて光に向かって突っ込んでゆく。かと思えば、突然足を止めて、後ろに向かって飛ぶのが指の間から見えた。

「龍お姉さん!」

 飛んだ龍玉は背中を地に打ち付けて、そのあとすぐに起き上がった。が、腹を左手で抑えている。なにかが龍玉の腹に打ち付けられたようだ。だが起き上がって剣を構えられているところを見ると、打ち付けられる直前に自ら後ろに飛んで衝撃をやわらげることができたようだった。

 その時に光がやんだ。

「無間道士」

 龍玉が忌々しくその名を呼んだ相手は、さっきとは打って変わってその姿を大きく変貌させていた。

 その身体はさっきの倍も大きくなり、腕も脚もなにもかもが大きくなって、すさまじいまでに筋骨隆々として服を引き裂いてあふれんばかりの筋肉をさらけ出し。さらに口からは大きな牙が生えて、

「ぐわああ――!」

 と吠えて、まるで熊にでもなったようだった。

 そのそばの第六天女は得意げに笑いながら、ふたりを眺めている。

「これは……」

「なんだか知らないけど、こいつ本当に化け物になっちまったね」

 大化けした無間道士を目にして、ふたりは身体が硬直するのを禁じ得なかった。その硬直は、恐怖心がもたらしていた。

「うふふ」

 第六天女は艶めかしく微笑むと、虎碧に視線をそそぎ、さらにその碧い目を見つめた。虎碧の碧い目にいたく感心があるようだった。

 さっと腕が上がり紫の衣の袖がひらめいて、袖から出る手はふたりを指さしている。

「やっておしまい!」 

 という叫びがあがるや、完全に化け物となった無間道士は「ぐわあ」と吠えながらふたりに向かって駆け出した――

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