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屍魔 二

「俺だよ魯仁!」

「金陽、正気に戻って!」

 死せるはずの村人は突然生き返って、屍魔の村人と一緒になって村人たちに襲い掛かる。

 そうかと思えば、刎ねられた首が突然飛んで村人に食らいつく。

 それは龍玉と虎碧にも来る。

「な、なんだいこれは!」

 飛来する首を剣で打ち返しながら龍玉は思わず絶叫してしまう。

 虎碧も唖然としながらも掌で襲い来る屍魔の胸板に掌を打つが、効き目がなく。少しよろけるとすぐに体勢を立て直して再び襲ってくる。

「屍魔に噛まれた人が、屍魔になった?」

「なんだって?」

 虎碧のつぶやきに、龍玉は耳を疑った。屍魔に噛まれた人間が屍魔になる。しかも、首を刎ねてもくたばらずにまた襲ってくる。

 もはやこれは常軌を逸している。

 なぜこんなことに、など原因を考える余裕などなく。ふたりは迫りくる危機に対処するのがやっとで。その間も村人は次々と屍魔の餌食になってゆき。

 ついには、生きている人間は、龍玉と虎碧のみとなってしまった。

「な、なんてこと……」

 迫りくる屍魔を追い払いながら、龍玉と虎碧は愕然とする。自分のことで精いっぱいで、村人を守る余裕がなかった。

 龍玉は歯噛みして舌打ちし、虎碧は胸がひどく痛んだ。

「くっそ……」

 龍玉は眉をしかめながら飛来する首を西瓜すいかを割るように縦に割った。が、その割れた首はもう襲ってはこないものの、脳味噌を垂らしながら芋虫のようにもぞもぞと動き続け。龍玉は生理的な嫌悪感を覚えざるを得なかった。

「虎碧、逃げよう!」

「逃げるですって?」

「そうだよ。急所を突いても死なないような屍魔を相手にしてもきりがないよ!」

「……」

 虎碧は少しの間押し黙ったが、やがて「わかったわ」とうなずき。

 ふたりは横並びになって、全速力で駆けて屍魔どもの間を突破しようとする。

 屍魔どももふたりを追って駆ける。

「振り返らないで、とにかく走るんだよ!」

 龍玉絶叫。それは虎碧に言っているのももちろんだが、自分にも言い聞かせてもいた。

 駆けて駆けて駆けて、村から出て。それからも駆けて駆けて駆けて。とにかくふたりは駆けた。

 屍魔どもも駆ける。しかし必死のふたりには少しかなわないようで、距離は徐々に開いてゆく。

 このまま振り切れるか、と思ったとき。目の前に人影が見えた。

 旅人かと思ったが、違った。

「お前はッ!」

「無間道士!」

 立ちはだかる者の姿をみとめて、ふたりは思わず足を止めてしまった。

 あろうことか、龍玉がしとめたはずの無間道士がふたりの前に立ちはだかっているのだった。

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