屍魔 一
「村の人たち、化け物になっちまった」
龍玉がぽそっとつぶやいた。
狂乱した村人たちは身体がボロ布のようにボロボロになっていながら、立ち上がって不気味な目でふたりを見据えて囲んで、今にも襲い掛からんがばかりに殺気をみなぎらせている。
見れば、かろうじて生き残った村人らも。あるいは逃げ、あるいは家族友人の変わり果てた姿をなげいて骸にとりすがったり、あるいは家族友人が狂乱しふたりに襲い掛かろうとしているのを必死になって叫んで押しとどめようとしていたり。
「どうしたら……」
虎碧は苦々しくつぶやく。いかに狂乱していようと、村人を斬るわけにもいかず。殺さないように無手にて掌による突きや蹴りでおとなしくさせようとしても、まったく効き目がない。
生き残っている村人たちも同じで悲しみと同時にそうとうな恐怖を感じ、混乱に陥っている。
「墓から出てきて生き返ったと思ったら。人を食うなんて。禅児は屍魔になってしまったの?」
ある婦人が変わり果てた我が子を見て嗚咽する。
龍玉と虎碧はその言葉を聞いて、たいそう驚いた。
「屍魔って……」
「あの、屍魔ってこといかい……?」
耳を疑った。
屍魔といえば、死んだ人間なんらかの呪いにかかったことにより蘇って人を襲い食らおうとする魔物のことではないのか。
この村は無間道士の一味に襲われてたくさんの死者を出している。その死者が屍魔になったということなのか。
「屍魔か……」
龍玉は舌打ちし、鋭いまなざしで屍魔となったらしき村人たちをひと睨みすると、無間道士の剣を捨てるやだっと駆け出し、村人のひとりの首を刎ねた。
虎碧はたいそう驚いて制止しようとしたが間に合わず、龍玉は立て続けに村人を斬りふせてゆく。
「龍お姉さん!」
「こうなったら仕方ないよ!」
屍魔となったらしき村人たちはそれを皮切りにわっと襲い掛かってくる。
龍玉は村人たちをめった斬りにしてゆくが、虎碧は殺さないように掌の突きや蹴りでおとなしくさせようとする。しかし、効き目はなく、痛みもなにも感じずに襲い掛かってくる。
「虎碧、あんたは屍魔どもを牽制して。殺すのはあたしがするから!」
龍玉は叫んだ。手を汚すのはみんな自分が引き受ける、と。
「龍お姉さん、無茶しないで!」
その言葉も聞こえないのか、龍玉はひたすら屍魔となった村人を斬り。村人たちは、家族友人が龍玉に斬られるのを見て、狂乱したように、
「やめて!」
と叫ぶ。
そうかと思えば、
「あ、ああー」
という悲鳴。
なにごとかと見れば、死んだはずの村人が生き返って生き残った村人に襲い掛かりその肉を食らっていた。
そればかりか、龍玉に刎ねられた首が突然目を見開いて、村人に飛来して食らいついた。




