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龍玉と虎碧 四

 ふたりは無間道士の骸をあとにして。村へと帰ってゆく。

 このことを村人たちはたいそう喜び。龍玉などは、ご馳走をいただけるかもしれない、うまい酒をたらふく飲めるかもしれない、と期待し。

 もうすぐ村に着こうとするとき。

「ぎゃああああ――」

 という、悲鳴が耳に飛び込み、龍玉と虎碧は驚いて顔を見合わせた。

「これは?」

「まさか、さっき逃げた連中が」

 ふたりは駆け足で村へと向かった。考えたくはないが、さっき逃げた連中が腹いせに村を襲っているとも考えられる。

 駆けに駆けて、村にたどり着けば。そこで、信じられないものを目にするのだった。

「こ、これは……」

「ありえないよ、こんなの」

 思わずふたりは一瞬唖然としてしまった。

 あろうことか、村人が村人を襲っているのだ。しかも襲っている方の村人の中には、ふたりに無間道士退治を依頼した村長がいるではないか。

 襲う者、襲われる者とで村は大混乱である。

 さらにふたりを愕然とさせたのは、襲う方の村人は武器を使わず、なんと無手で相手に噛みついていることだった。

 数人餌食になってしまったようで、地面に転がる骸が数体見受けられたが。それらことごとく身体のいたるところを噛み破られて。まるで野獣に襲われてしまったかのような、血まみれの、無残なものだった。

「どうしたってんだい、これは」

「とにかく、止めないと!」

 ふたりは駆けて、

「やめてください!」

「よしな!」

 と暴れる村人にの首ねっこをつかんだり、ひどい者には手刀を食らわせて静めようとするものの。まったく効果がない。

 それどころか、ふたりをよく知るはずの村長でさえ、ふたりがわかっていないかのように目を剝いて襲い掛かってくる。

「村長さん。ごめんよ!」

 龍玉はそのみぞおちに思いっきり蹴りを食らわせた。これで気絶しておとなしくなる、と思ったが――

「おああ!」

 と悲鳴をあげながらみぞおちに決まった龍玉の足を両手でつかむではないか。しかもその形相のなんとまがまがしいことか。

「な、なんで!」

 驚いた次の瞬間、村長は龍玉の足を持ち上げて歯を剝き出しにした大口で噛みつこうとする。

 その手の力は強く、足を引き離そうとするもしっかとつかまれて離せず。思わずこけて背中を地に打ち付けてしまった。

「ちょ、ちょっと村長!」

 呼びかけに応じるでもない、村長はすごい形相で足にかみつこうとする。その顔面に、虎碧が蹴りを食らわして。これによろけてようやくに手から力が抜けて龍玉は危機を脱して咄嗟に起き上がり。

 ふたりはすばやく背中を合わせて周囲を見渡した。

 気が付けば、狂乱した村人に囲まれてしまっている。

「これは、もう、人じゃない……」

 虎碧はつぶやき、龍玉は頷く。

 なにがどうしてこんなことになったのか。ふたりは動揺を禁じ得なかった。

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