表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/75

龍玉と虎碧 一

 朝日が昇る。

 その恵みの光りに照らされ、きらりと光る剣と刀。

 自分に向けて構えられる剣や刀の跳ね返した光りを受け、少女はまぶしそうに眉をひそめる。

「龍お姉さん」

 と自分と背中を合わせる女を呼んだ。

 女、龍玉りゅうぎょくはふっと笑って少女に微笑み返す。

 小柄ながら紅い服をまとい、清純可憐で人形のよう可愛らしい少女は頬をぷっと膨らませ、自分たちに向けられた剣や刀を、碧い目で睨んでいる。

 碧い目。そう、少女ははるか西方の異民族の血を引いているという。

(おやおや)

 そんな怖い顔をしちゃ、せっかくの可愛らしい顔がだいなしだよ。と、くすっと龍玉は微笑む。

「笑ってる場合じゃないと思うの」

「まあまあ。いいじゃないの」

「よくない!」

 ぷっと膨れた頬を弾けさせるように、少女、虎碧こへきは叫んで腰に帯びている剣を抜いて構え。龍玉も続いて剣を構える。

(もう)

 少し後ろを向いて、きっと龍玉を睨む。

 ほっそりとして柳の枝のような柔らかさを感じさせる身体に蒼い服を身にまとい、服からのぞく肌は色白く、紅を塗られた赤い唇が艶やかしい。また口元のほくろがいっそう艶やかさを引き立てて。つややかな黒髪がそよ風にふかれてゆるやかに揺れる。

 龍玉の口元のほくろのところに、虎碧の頭のてっぺんがくる。

 剣を構えるとき、紅蒼二色の服が剣風になびいてゆらりと揺れた。それは風に優しくなでられて舞うように揺れる花のように。

 曙光まぶしい草原で、ふたりが背中を合わせて剣を構える様は草原に生ける二輪の花のようで、まるで一服の名画を観ているようでもあった。

 それに対し、草原に突然生えたような枯れ草のようなふたりを囲む男どもは、嬉しそうに笑っている。ざっと十人ほど。

 男どもは皆粗末な身なりなくせに、目だけはやけに爛々と光って血走っている。それはまるで、獲物を狙う獣のように。

 その中で、丸い陰陽の太極図があしらわれた黄色い道士服の男だけが、異彩を放っていた。他の男どものように目を血走らせず、眼光鋭く、ふたりを見据えている。

 手に剣を握って。

「この無間道士むげんどうしさまの迦楼羅幇かるらほうに仇なすとは、恐れを知らぬことよ」

 冷笑を含めた物言い。虎碧はその冷気に飲まれまいと、気を引き締め剣を握るてに力を込める。それに対し空気を読まないのか読めないのか、それとも読んだからなのか、龍玉の減らず口が無間道士に飛ばされる。

「迦楼羅? 陰陽の太極図をかかげた道士さまが、仏の教えに出る天龍八部衆のうちのひとつを幇(組織)の名前にするなんて、ごちゃ混ぜもいいところね」

「龍お姉さん、無間道士の無間むげんも仏の教えに出る無間地獄からよ」

「おやそうだったね、ほんと節操のないこと。おまけに人も殺そうとして、名前を不戒真人さまに変えたらどうかしら」

「それが出来るくらいなら、こうしてあたしたちと剣を突きあわせていないわよ」

 天真爛漫な龍玉に、すかさず冷静に突っ込む虎碧。結局虎碧も空気を読んでなさそうで、そのあうんの呼吸の良さに、男どもは殺意をみなぎらせながら嘲笑を浴びせる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ