剣士 一
大陸の東方、幾多もの国が覇を競う戦乱の時代を帝国・辰が終止符を打ち。天下を統一して、十年が経とうとしていた。
大陸のはるか西方より東の海へと大河は流れる。大河は、悠久の大地の、悠久の歴史を見守ってきた……。
広大な領土を治める辰の中の、どこかの町のことだった。
いかつい形相をしたごろつきが五人、肩で風を切って町を練り歩いていた。
町の人々は、目を合わさぬように顔をそらし、身を縮めてごろつきたちをやりすごす。
それが面白くて、ごろつきたちはまわりをきょろきょろと眼光鋭く見て回り、人々を威嚇する。
「なんかおもしれえことねえかなあ、斉涜怪よ」
「そうだなあ、一杯ひっかけてえところだな、零志頭無」
ごろつきの頭らしいふたりはまわりを見渡しながらつぶやきあうと、さる居酒屋に目をつけて。五人そろってどかどかと入り込んで、適当な席を見つけて椅子に座ると、
「おい親父、酒だ酒だ!」
と、吠えた。
店の親父はおそれおののきながら、酒を出せば。
「腹がいっぱいになるような、そうだな、肉を出せ!」
と、鋭い目つきで親父を睨みながら斉涜怪は言い。店の親父はふるえながら「へ、へい」と言うと厨房へ駆け込み肉料理をつくって出せば。
五人のごろつきどもは酒をぐいとのどに流し込みながら、肉をがつがつと食らった。
その食いっぷりはまるで餓えた狼のような食い散らかしようであり。親父は店の隅でそれを心細く見守っていた。
五人は食い終わってげっぷをして、椅子を立ちあがって店から出ようとする。
「あ、あの、お代は」
「ああん?」
零志頭無が親父をぎろりと睨みつける。
「俺たちから金を取ろうというのか?」
「ああ、それは……」
もごもごろ口ごもりながら代金を求める親父の顔面に、拳がぶつけられて。親父は鼻柱をへし折られて鼻血をまき散らしながら、どおと尻もちをついた。
「ひゃっはっは」
五人は親父をせせら笑いながら店を出て、さっきと同じように肩で風を切って町を練り歩く。
酒を飲み、いい具合にほろ酔い気分になって心地が良い。
町の人々は恐れおののいて道を開けて五人をやりすごすしかなかった。
「ん?」
斉涜怪が何かを見て、続いて零志頭無もそれを見る。
それは、一人の剣士であった。
ぼろい黒装束に身を包み、背は高く、顔の下半分を髭が覆い。その様は、荒野をさすらってきたことをあらわしているようだ。
なにより、五人の目を引いたのは、剣士の背中にかけられた大剣であった。
鞘はなく、抜身のままのその大剣は男の背丈と同じくらいの長さがあり。重さも相当ありそうだったが、剣士は軽々と担いでいるように見える。