第3話:決心
彼女はアメリカへと行った。
結局、僕は彼女が言ったとおりに見送りには行かなかった。
彼女が去っていった日は、3月の1日だった。
僕も、もうそろそろ3年生になろうとしている時だった。
僕は彼女との別れで酷く傷つき、少し塞ぎこむようになった。
それが受験勉強に影響したのだろうか僕は大学受験を一浪した。
結局、1年遅れで希望の大学に進学した。
そして、それから8年が流れた。
僕は今年から弁護士となった。
大学を卒業後、大学院へ進み司法試験を合格した。
こちらは大学受験とは違って落ちる事はなかった。
時々思うのがやっぱり彼女は影響していたんだという事。
ちなみに、彼女と別れて以来僕に彼女はいなかった。
告白されることは何度かあったのだけど断るばかりだった。
決して付き合いたくないとかそういった理由ではない。
ただ、告白されると思い出さないようにしていた彼女との記憶が、
僕の中で鮮明に思い出され苦しくなってしまうからだ。
仮に付き合ったとしても、そういう事ばっかりで、
僕は逆に彼女達を傷付けてしまう気がしたからだ。
僕が働いているのは遠山弁護士事務所という所だった。
僕の他には弁護士であり所長である遠山 健さん。
そして男女一人ずつの弁護士がいた。
ちなみにこの男女の名前は、石黒 学さんと、柳 恵理香さん。
この2人はどうやら恋仲にあるようだった。
僕は今でも時々、彼女を思い出していた。
なるべく忘れるようにしてるんだけどそれでも時に出てくる。
告白される時もそうだけど、懐かしい物を見つけた時とか。
例えば、バレンタインデーの日にチョコを見たりとか。
バスを待っている女子高校生を見かけた時とか。
彼女の面影は僕の日常の中で生きているようだった。
仕事の方は至って順調だった。
半年ほどで3つの弁護を担当して2つは勝訴になった。
といっても担当は刑事裁判でなく民事裁判だ。
遺産相続とかそういった類の問題だ。
事件が嫌いな僕にとってはそっちの方が嬉しいけど。
仕事は順調だったが人間関係はそうでもなかった。
元々、人の少ない事務所だったからだと思うけど、
僕には飲み会に行ったりする友達はいない。
それを苦に思うことはないから構わないんだけど。
そのせいか貯金と有給だけは膨らんでいった。
ある日、僕はコンビニである雑誌を見つけた。
それはいろんな国の特集で表紙はアメリカの何処かの風景だった。
当たり前の様に僕は彼女の事を思い出した。
今はどうしているんだろう。元気なのだろうか。
そんな思いばかりが頭の中に浮かんだ。
そして、会いたいという気持ちも。
家に着いた僕は予定を練ってみた。
もちろんアメリカへ行く予定だ。
あの後、どうしても会いたいという気持ちを抑えられなかった。
そして決心した。アメリカに行こうと。
会えるかなんて分からない。むしろ会えない確立が高い。
だからせめて計画だけは練っておこうと考えた。
お金は十分で休みも1週間は作れる。
僕は彼女がいそうな場所を必死に考えてみた。
勿論、そんなことをしても何も思いつかなかった。
「アメリカは広すぎるよ・・・」
ついそんな言葉さえも呟いたりしていた。
あれこれ考えながら3日が経った。
僕は今、雑誌を見つけたコンビニでそれを読んでいた。
何かを思いつくかもしれないという勘を信じてやってきた。
読んでる内、最初は何も進展はなかった。
だけど読んでいるうちにあるページで僕の手が止まった。
そしてそのページに吸い込まれるように長い間見続けた。
その結果、僕は大切なことを思い出した。
そして、それが僕に大きな自信を与え決心させた。
僕はアメリカに行くことを決めた。
会社に連絡を取り休みを貰い予定も立てた。
向こうではほとんど運任せになるが奇跡を信じようと思う。
僕は今、アメリカ行きの飛行機の中にいる。
彼女の懐かしい声が僕の耳に届いてきそうだ。
膨らむ期待を胸に抱き僕は外の景色を眺めていた。