第2話:約束
告白が成功してから僕は幸せだった。
近くに感じていた彼女を更に近くに感じるようになった。
もちろんこの時はあんな別れが来るなんて思ってもなかった。
告白から2年1ヶ月が経ち僕達は生へとなっていた。
先輩と後輩に挟まれた1年が僕は3年間の中で1番嫌いだった。
まぁ部活動をやっていない僕にとっては関係ないことなんだけど。
どことなく違和感を感じてしまうのだ。
付き合い始めてから僕達は一緒に登下校するようになった。
朝は同じ時間のバスに決まって乗り帰りは僕は教室に残ってまった。
待つ時間は長かったけど苦に感じることはなかった。
時々、1人で帰らないといけない時はとても寂しくなった。
まるで空気を失ったような気持ちになった。
それだけ彼女は僕にとって大切な人だったのだ。
でも連続してそんな日が続くような事はなかったから良かったと思う。
そんな幸せな僕らにも時々ぎくしゃくする時もあった。
初めてそうなった時には本当に後悔して恐くなった。
彼女が僕から離れていくんじゃないかと本当に心配した。
彼女が簡単に気持ちを変える人ではないのは分かっていたけど。
そんな思いをしたのは付き合ってから2ヶ月経ったころだった。
その日は彼女の所属する陸上部は休みとなっていた。
僕達は教室で少し喋った後に教室をでて帰路についた。
話しながら歩き嫌な思い出のある喫茶店を通った時だった。
喫茶店から1人の男が出てきた。
僕と同じ年齢ぐらいで少しだけ背が高かった。
その男はだいぶ前に彼女と喫茶店にいた男だった。
その男は歩いてる僕らに気付き驚いた顔をしながら彼女の方を向き
「琴奈・・・」
そう小さな声で呟いた。
「前田君・・・」
彼女も同じぐらい小さな声でそう言った。
僕は2人の関係は何なのか凄く気になってしまった。
「久しぶりだな」
前田が彼女にそう話しかけた。
「そうね・・・」
彼女がそうやって相槌を打つ。
「彼氏か?」
「うん」
肯定の返事をした時の彼女の顔は悲しげだった。
それが僕の心を強く傷付けた。
少しの間3人の間で沈黙が流れた。
それは打破するかのように前田は
「じゃあ俺行くな」
そう言って返事も聞かずに走り去ってしまった。
その後、僕達は無言で歩いた。
何か話したかったけど言葉は見つからなかったし彼女もそんな感じだった。
そのまま歩いてバス停にたどり着く直前に僕は聞いた。
「さっきの人誰なの?」
「中学校時代、付き合っていた人」
なんとなく分かっていたけどやっぱり辛かった。
彼女に今まで彼氏がいなかったなって考えてた訳ではなかったけど。
「そう」
「うん・・・」
彼女の声は暗い。何かを思いつめてるような顔だった。
その時の僕はその顔にとてつもない不安を感じた。
そしてそのせいか僕は彼女を傷付ける一言をいってしまった。
「もしかして、まだ好きなんじゃないの?」
言った時の僕は事の重大さがまるっきり分かっていなかった。
「本気で言ってるの?」
彼女は少し怒ったようなそれでいて悲しそうな声で言った。
「悩んだ顔してたじゃないか」
僕はつい無機になって言い返してしまった。
「・・・・」
彼女は何も言わず走り出してしまった。
僕は追いかけることも出来ず1人でバス停に歩いた。
バス停に彼女の姿はなく僕の不安が更に大きくなった。
ケンカから3日経っても仲直りは出来ないでいた。
毎日夜も眠れず悩んでいたがどうしていいか分からなかった。
彼女の方は目が合ったら逸らしシカトを決め込んでいた。
「はぁ・・・」
自然にそんな溜息ばかりがこぼれていた。
今思えば、僕達はとても不器用だったのだ。
仲直りできるチャンスが巡ってきたのはケンカから一週間経った日だった。
その日は6月の最初の水曜日だった。
僕達の学校では3年に1度の文化祭が1ヶ月前に迫っている所だった。
成り行き上、僕ら2人そろって実行委員になったのだ。
僕はこのチャンスに喜びもしたけど、少し戸惑いもした。
彼女にどうやって接すればいいのか分からなかった。
普段は長く感じた授業もその日だけは恐ろしく短く感じた。
僕が気づいた時には放課後になってしまっていた。
放課後になると多くの生徒は教室を出て行く。
残っていた生徒も少しずつ教室から出て行く。
そして結局、僕達2人だけが教室に残っていた。
2人になってからは気まずい雰囲気が流れていた。
僕も必死に話そうとしたがやはり言葉が見つからなかった。
彼女は話しかける様子すら見せないので困り果てるばかりだった。
そのまま30分の時間が流れていった。
授業の時間とは正反対に時間の流れは恐ろしく遅かった。
「はぁ・・・」
そんな溜息が自然に漏れてしまう。
それから少し時間は流れたが僕は勇気を出して話しかけた。
「琴奈」
「・・・・」
呼びかけたが彼女は返事をしなかった。
時間が経てば経つほど僕は焦り始め不安になった。
そんな焦りや不安をかき消すかのように叫ぶようにいった
「ごめん」
「・・・・」
彼女はまだ話そうとしない。
僕は自分が思ってることを口にしていった。
とりあえず彼女に何かを言わないといけない気がした。
「あんな事言って本当にごめん。
恐かったんだ。もしかしたら琴奈が離れて行くんじゃないかって思って。
だから冷たく当たってしまって・・・本当にごめん」
俺はほとんど息継ぎもなしにそう言った。
「それって私の事信じてなかったってこと?」
やっとの事で口を開いてくれたと喜んだが質問には答えられなかった。
「図星なの?」
「否定はしないよ。あんな事言っちゃったんだし・・・」
「・・・・」
彼女はまた黙ってしまった。
「でも、本当に傷付けるつもりなんかなかったんだ」
「・・・・」
「琴奈が怒るのは分かる。でもそれだけは分かってて欲しいんだ」
「分かってるわよ」
「え?」
彼女の突然の返事に僕は少し驚いた。
「あなたが人を傷付けるような事を言う人じゃないって」
「・・・・」
今度は僕が黙ってしまう番だった。
「私は分かってたわよ。でも、でも・・・」
彼女は涙を流していた。
「ごめん・・・」
僕は彼女にそう言った。
そして彼女の側へと駆け寄った。
「もう2度と傷付けたりはしないから・・・」
「ちゃんと私の事信じてよね・・・」
「分かってる」
僕は彼女の震える手に優しく手を置いた。
彼女の震えがしっかりと僕にまで伝わってきた。
彼女はその後、10分程泣きっぱなしだった。
あの後、泣き止んだ彼女と仕事を済ませ帰路についた。
「久しぶりだね。こうやって一緒に帰るの」
彼女がそんな事を言った。
僕は頷いて、
「長いケンカだったからね」
そう言った。
「でも、どんなカップルや夫婦にだってケンカはあるもの」
「大切なのは仲直り出来るかどうかってところだな」
「でも、これからはもうしたくないよね」
「うん。1人で帰るのは寂しくてうんだりだ」
「じゃあ、約束しない?」
「約束?」
「うん。これから一緒にいる中でケンカはしない」
「いつまでも仲良くいるって事?」
「うん」
「いいよ。約束するよ」
「じゃあ、指出して」
彼女はそう言って右手の小指を僕の前に出した。
僕は頷いて彼女と同じ様に右手の小指を出して。
2人の指をつなげ定番の歌をうたい約束を交わした。
僕は久しぶりに幸せな気持ちになっていた。
勿論、このときの僕は知らなかった。
彼女との約束は1年も続かず2人は離れ離れになる事を。