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君の隣を先約します。  作者: ゆきうさぎ
<第11章>
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それってセンチメンタルジャーニー?(5)

「…こんなことするくらいなら勉強しろよ、特に加藤」


どうやら高坂は最後まで悪態をつくらしい。それでも私たちが怒らずに笑っているのは、聞こえてくる先生の声はなにかをこらえているようだった。こっちも全然向かない。見なくてもわかる、高坂が泣いている。私たちはお互いに目を合わせてガッツポーズをした。高坂を泣かせよう作戦(←こんな名前はついてない)は成功したのだ。


「感謝状、授与」


陽斗のバリトンボイスが響いた。返事は返ってこないけど反応はしたから、私たちは陽斗に先を促す。


「高坂千鶴」

「は?」


やっと高坂はこっちを振り向いてくれた。見た目にはわからないが、少しだけ赤くなった目がそこにはあった。


「あなたは我々第38期生に対してかけがえのない3年間と思い出を与えてくれました。よってここに表彰するとともに今後ともに大いに活躍されることを期待します、第38期生代表、谷口陽斗。先生、受け取ってよ」


陽斗は高坂に両手に持った紙を差し出す。その隣で美弥が作り立てほやほやのアルバムを前に差し出した。高坂はおそるおそる前に来て、その感謝状を見て立ち止まった。急きょ思いついて即席で作ったにしてはいい出来栄えだと思う。


「…生徒にここまでされるとはな、」


高坂はそう言って、ふてぶてしさは相変わらずだが、陽斗の持つ賞状と美弥の持つアルバムを受け取ってくれた。


「問題児を持つのも悪くない」

「へへっ」


やっと笑ってくれた高坂の顏は、見たこともないくらい綺麗な笑顔だった。


「なんつー先生思いの生徒もったんだか」


私たちの後ろから聞こえてきた声に振り向くと、2年生の数学担当の遠藤先生が立っていた。


「職員室から6時前に追い出したものの、ここに来てなかったらどうしようかと思った」

「あー、報告するの忘れてた」


梨央はてへっと笑って顔の前で両手を合わせて謝った。その様子に遠藤先生は呆れた笑いを見せた。遠藤先生もなんだかんだいって爽やかなイケメンさんだからこんな表情をしても様になっている。この学校、若い先生イケメン多くない?


「やっぱり悟が一枚噛んでたか」

「いーじゃねぇの。こんな先生思いな生徒なかなかいねぇよ?俺の教え子たちは同じようなことになったときこんなことしてくれねぇ気がするなぁ」

「それはお前の普段の行いだろーが」

「ひっどいなぁ。俺これでも千鶴より生徒思いだと思うんだけどな」


遠藤先生と話しているうちに高坂はいつもの高坂に戻っていく。さっきの感動していた姿は今じゃ微塵もないくらいだ。持ち直しが早いっていうか、なんていうか。


「じゃ、私たちはこれで帰るねー。勝手に来てるから卒業生で制服着てるって言ってもこれでも部外者だし」


美弥の言葉にみんな顔を合わせて思いだした。そういえば、こっそり入ってきたんだった。‥のわりに堂々と正面玄関から入っちゃったけどね。窓から外見てる先生からしたら丸見えだからね、私たちが来たの。


「間違いない。今日の巡回増田だ!さ、退散だ!」

「…なんでお前らが巡回担当しってんだよ、」


それは巡回担当が巡回するまで学校に残って遊んで怒られていた経験があるからだよ!という高坂の疑問に心の中で答えて、私たちは手を振って一目散に走って学校から出た。まぁ、出るのも正面玄関からだったんだけど。


「問題児ども!」


真っ暗な空から、私たちを呼ぶ高坂の声が聞こえた。振り返ると、正面玄関にその姿はなくて、ちらりと上を見ると、窓から顔をのぞかす高坂がいた。相変わらず、やることが学生と一緒だ。あれ、私たちもよくやって増田たちに怒られたんだ。叫ぶな、みっともないって。巡回、増田なんだから見つかったら怒られちゃうよ?


「‥サンキュ。こっちこそありがとうな!お前らの学年がもてて俺もよかった!」


…!!


「先生もまだ若いなぁ」

「ほんとに。泣かせに来たのに逆に泣いちゃうじゃん」


泣いちゃうじゃんと言ってるそばから、奈津子や梨央の目にはもう涙が流れてたりして。旬の目も潤んでいる。やっぱり別れっていうのはつらくて寂しいものなんだねってしみじみ感じたり。


「センセー!「「「「「「またな(ね)!!」」」」」」」


さよならじゃなくて、またね。だって会えるんだもん、また。だから寂しくない。そういう思いもこめて、私たちは笑顔で言って、高坂の言葉に返した。


「あー‥やりきったー」


校門をくぐってすぐ。私たちは笑いあいながら歩く。1月頃からつるみだしたくせに、どうしてこんなにも仲が良くいられるのかは謎だが、おそらく高坂のおかげっていうのもあるんだと思う。


「先生、泣いてくれたね」

「実は裏で目薬さしてたりして」

「うわ、ありうる!」

「目、うさぎさんみたいになってたじゃん!」

「うさぎさんって。そんな可愛らしい小動物じゃないでしょ」


どっちかって言ったら、あれは狼とかそんな類だ。ひとりぼっちだと死ぬとか言ってるうさぎじゃないでしょ。


「まーまー。今日はさ、パーッとカラオケでも行こう!美弥は勉強もあるからどっちでもいいけど」

「だから、そうやって私をはぶらないで!行くに決まってるでしょ」

「そうやって意地張って落ちてたらシャレになんないからな」

「谷口うっさい」


この関係性は相変わらずみたいだ。おそらくこれは続いていくんだろうな。旬が言っていたこともあながち間違いじゃないんだと思う。


「よし、じゃあこのままカラオケに流れ込もうか!‥って制服で行ったら追い出される?」

「あ、もしかしたらありうるかも。どーする?卒業してからも迷惑かけちゃう?」

「いやさすがにそれはまずいだろ。これ以上悪ガキのレッテル貼られたら母校に帰ってこれねぇ」


それはさすがに言いすぎだと思うけど。でも確かに母校行ったときに紹介されるのに変な武勇伝だけは話されたくない、うん。


「じゃあ一旦解散して、7時に駅の東口に集合ね」

「おっけ!」


奈津子の言葉にみんな頷いて、各々帰路についた。





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