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君の隣を先約します。  作者: ゆきうさぎ
<第11章>
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それってセンチメンタルジャーニー?(4)

真っ暗な視聴覚室からは、ぼやーっとした淡い光だけが見えた。これだけ見ていれば、ただの怪奇現象なのだが、俺はたった今まで教え子という名の問題児を追ってきたのだと思うと、この先にあいつらがなにか馬鹿をしているに違いないと思えた。意を決して中に入ると、映写機が大きなスクリーンに映像を映していた。大きな数字でカウントダウンされて、1が終わった瞬間に映し出されたのは、『ふさけんじゃねぇよ、このやろう』というでかい文字。いや、こっちがふざけんじゃねぇよ、コノヤロウなんだが。そう思いながら続きを見ると、すぐに画面は切り替わり、生徒たちが映し出された。


『3年間ありがとう、先生!』

『おめでとうくらい言いやがれ!北海道でも頑張れよ!』

『先生がいなくなるの寂しいけど、先生のこと忘れません!』

「先生、ありがとう!大好きです!』


次々と変わっていく画面に映し出されるスケッチブックに書かれたメッセージ。どれも俺にあてられたもので、生意気なことを言ってくる教え子もいるが、そのほとんどがすごく温かな言葉たちだった。


「…なんだよ、これ」


ほぼ卒業生全員が映っていて、ほぼ全員が俺に言葉を残してくれていた。こんなの、大変だったんじゃないだろうか。240人近い卒業生の言葉が終わったあとに、また画面は切り替わり、まるで制作秘話みたいなそんな風景が映し出されていた。


『直、また寝てるし!』

『こいつここに来てからずっと寝てね?』

『仕方ないよ。直、昨日寝てないみたいだし』

『ちょ、旬あんたなにしてんのよ?』

『なにって落書きに決まってんじゃん』

『ぶっ(笑)!おま、それ置いたら雪瀬に怒られるぞ!』


楽しそうに話している風景が映っていた。それはこの映像を作るまでの制作過程の話で。あいつらはただ笑っているだけだけど、見ているこっちからしたら、泣いてもおかしくないくらい嬉しいもので。してやられたと思う反面、こいつらが教え子でよかったと心から思った。映像はそこで終わって、最後にでかい文字で『かっこつけんじゃねぇよ、馬鹿』と書かれていた。多分これは雪瀬の言葉だろうなと容易に考えられた。こんな風にしてもらえて、俺は思わず涙がこぼれた。






-------------------------------------------


高坂が視聴覚室に入ったのを確認して、そっと映像を見る高坂を見つめる。映像もそこそこいいのができて、これは泣かせられるとぐっとこぶしを作った時だった。画面が切り替わって、作成過程の話になった。


「って、なんであれが使われてんのよ!?」

「いや、だって面白くしようとしたらやっぱりああいうの必要じゃん?」


旬は悪びれることもなくしれっとそう言って私を宥めた。しぶしぶ諦めて時村の様子を見ていると、最後の最後に文字で私の言葉がでかでかと書かれていた。


「あれは?」

「最後のオチ。さ、ムービーも終わったしいざ出陣!」


旬の言葉にみんなが小さな声で「おー!」と言って、勢いよく扉を開けた。高坂はわかっていたのかこちらを振り返らない。時村が視聴覚室の電気をつけて、私たち全員は部屋の中に入る。


「これ、作ったのお前らか?」

「さぁ、誰だろうな」

「最後の言葉、雪瀬のセリフだろ」


げ、ばれてる。


「やっぱばれちゃったか。けっこうどこにでもあるようなセリフ使ったつもりだったんだけどな」

「俺をここに連れてくるのに頭使いすぎだろ。わざわざ悟を使うなよ」

「ありゃ、そこまでばれてたの?でも遠藤先生快く引き受けてくれたよ?」

「あいつこういうの好きだからな」


そこで会話はいったん終了した。少しの沈黙と少しの重たい空気。


「ねぇ、先生、しんみりするの好きじゃないって言っても、さすがに何にもなしに行っちゃうのはやっぱりずるいんじゃない?みんな先生言いたいことたくさんあったんだって」


そう言えば、周りにいるいつメンはくすくすと笑った。高坂は相変わらず私たちに背を向けている。


「私、先生のクラスですごくよかったよ。いつも不機嫌で私たちの扱いもどうなのって思う時もあったけどさ、思い返したら、先生のクラスが一番楽しかったもん」

「俺も先生がもってくれた2年生のクラスが一番楽しかったかな。ぶっきらぼうなくせになんだかんだいって生徒思いだし。やっぱ先生がどっか行くのって寂しいよな」

「そんなに楽しかったんだー。私も先生のクラスだったらよかったなー。あ、でも私先生の現代文の授業すっごく好きだったな!楽しくて、わかりやすくて」

「これ教えたとき、泣く子もいたんだよー。先生ひどいことするよね。私たち、先生のことけっこう好きだったんだよ。一言くらい残していきなさいよ」

「2年の時、すげぇ世話になった。母校に帰ってきたときにあんたがいねぇの寂しいけどさ、向こうでも頑張ってよ。でさ、俺らが酒飲めるようになったら、また一緒に飲もう」


奈津子、旬、梨央、美弥、陽斗の順に先生に映像には映さなかった言葉を告げていく。


「俺はあんまり言うことないかなぁ。まぁ3年間一緒にいたから寂しくはなるだろうけど。今までに戻ったと思えばいいだけだし。俺らがそっちに行くの、あんまりないと思うけどさ、兄貴、時間出来たらいつでもこっち帰ってきてよ。あ、でもお土産なかったら中に入れないから」


時村は、身内なだけあって、ほかの5人よりは軽い感じだった。確かに一番会う確率が高いのは時村だと思うし、これはこれでいいんだと思う。時村の言葉が終わると、みんなから次は直だってと背中を押されたり叩かれたりした。言葉が正直見つかっていない私は、少し言いよどむと、耳元で美弥が「素直な気持ちでいいよ」って言って肩をぽんと叩いた。

…素直な気持ちって。


「…先生、…‥3年間あってしゃべってたのってほんの半年くらいだけど、ごめんね、いっぱい迷惑かけた」


おもに進路とかで。何回も呼び出されたし、何回も増田たちに庇ってもらったし、何回も怒られた。


「でも、ありがとう。誰よりも感謝してる。今の私がいるのって、先生のおかげだと思う。…ほんとに、ありがとう」


あの時の高坂のように、頑張れとかさよならは言わない。湿っぽいの嫌いだって言ってたから。さよならってすごい寂しい言葉だし。





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