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君の隣を先約します。  作者: ゆきうさぎ
<第10章>
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恋する乙女じゃいられない。(8)

「そーこーで、私と取引しない?」

「‥取引?」


いかにも怪訝そうに時村は私を見る。そりゃそうだろうな、取引なんて言われて明るい顔するやつなんてそういない。


「私があんたの食事を3食きちんと管理してあげる」

「え、まじ?」

「そのかーわーり、」


大事なのはここから。


「私をこの家に住まわせて」

「……はぁ!?」


少しの間を置いて、時村から発せられた言葉は想像していた通りの驚きの声。まぁ、私でも逆の立場なら同じ反応をしていたと思う。だって、仮にも異性が同じ屋根の下に住まわせてって言ってるんだもん。しかも男が女の家にじゃなくて、女が男の家に。でもってもうひとつオプションをつけると、自分の好きなやつってことだ。


「なにその交換条件!?呑めると思ってんの!?」


がたっと音を立てて時村は立ち上がる。その真剣な顔を見上げながら、私は静かに首を縦に振った。そんな私の態度に時村はため息をついた。


「なに考えてんだよ!?ここに住むって‥」

「でもあんたはご飯を作ってほしいんでしょ?」

「そりゃあそうだけど。いや、でも、」


当惑した表情で私を見続ける時村と平然とした表情で時村を見上げる私。異様な空気だけが2人の間に流れる。


「だいたいお前今の家どうするんだよ。一人暮らしでもないんだから売るわけにもいかねぇだろ」

「不動産に売り渡す。もうあの家に住んでるの私だけだもん」

「だもんって‥。お前の姉貴はたまに帰ってくるんだろ?なら売っちゃダメだろ」

「姉貴、多分もう家に帰ってこない」

「なんでそんなこと断定できるんだよ。現にこの前、家の前にいたじゃん」

「3日くらい前にね、姉貴が家に帰ってきてたの。自分の部屋にこもって今更何してんだって思ったらでっかいキャリーケースに荷物詰め込んでた。何してんのって聞いたらさ、子供出来たって。男の家に行くことになったって」

「なんだよそれ」

「本当にね。私もそう思ったけど、もう何も言わなかった。言ったって何も変わんないだろうし、代わりに家売ってもいいかって聞いたら好きにしろって言われた」

「好きにしろって…それで家を売る雪瀬もどうかと思うぞ。ローンだってまだあるんだろ?」

「知らない。でも多分もうないと思う。お母さん、そういうのきっちりしたい人だったから、多分一括で払ってると思う」

「…なんかすげぇな、それ」

「築年数は結構いってるからそんなに高くないけど、大学に行くお金にはあてられるかなって思うし、ていうかもう不動産に話しとおしてあるから時村がここに住まわしてくれないと私家ないんだよね」

「…‥せっこいな、それって」

「なんとでも。で?取引は交渉成立?それとも交渉決裂?」


時村を見据えて言う。時村はため息をついて椅子に深く座り込む。腕を組んで目を閉じて考え込む。


「意外と考えるね」

「あのな‥そう簡単に決められることでもないだろ、これは」

「そう?私はけっこう簡単にここに住まわせてもらおうって案浮かんだけど」


こんなこと言うのもなんだけど、けっこういいタイミングで高坂もここ出ていくみたいだし。部屋も1つ空くし、ラッキーみたいな感じで。


「お前は楽天家過ぎ。もう少し考えろよ」

「考えた結果だよ?」

「嘘つけ。今簡単にこの案浮かんだって言っただろ。物事を少し安直に考えすぎだろ。っていうか、思ったままに行動しすぎだろが」

「だめ?」

「もう少し考えろって言ってんだろ。つーかその売った金で部屋借りたらいいじゃねぇか。わざわざここに住まなくたって」

「それはできない。足がつくかもしれない」

「足がつくかもって…」

「ねぇなんでそんなに頑ななの?」

「なんでって…普通に考えたらこうなるだろ。あのなぁ、俺は男。お前は女。何があるかわかんねぇんだよ?」

「……、」

「ほらみろ。男と一緒に住むなんて簡単に言うな」

「…本当に、だめ?」

「だーかーら、お前もう少し危機感とかもて。‥ってなに泣いてんだよ、そんな泣くようなことじゃないだろ?」


時村はまた、さっきと同じように音を立てて立ち上がると、私のそばまで来た。すごく焦っていて、こんな時村を少し前にも見たな、なんて思いながらそばに来た時村を見上げた。


「泣くなって。なんでそんなにここに住みたいなんて言うんだよ」


私のほほを伝う涙を優しい手つきで拭いながら、時村は落ち着いた声色で言った。その声に絆されるように、縋るように、私を困ったように見つめる時村を見上げた。


「…父親が、出所したんだってこの前警察から連絡があった」

「え、父親って」

「‥あの家にいるのが怖いの。いつあそこに帰ってくるかわかんなくて。いつ見つかるかわかんなくて。そう思うと、もうあの家にいられなくて。最近、夜も怖くてろくに眠れない」

「それで卒業式一番前なのに居眠ったんだ」

「それはお互い様でしょ!」

「そう言われたらここに住めって言いたくなるけどなぁ‥同居人が俺に変わったところでなにも変わんないかもしんねぇよ?俺だって男だし」

「あの人よりマシ」

「マシかぁ。なーんかちょっとトゲがあるような言い方だな」


時村は相変わらず困ったような顔をしているけれど、私の頭を優しく撫でる。なんか表情と行動があってないんだけど。


「で。交渉は成立?決裂?」

「しゃーねぇな。住んでもいいよ。ただし、」

「ただし?」

「手ださねぇっていう約束は悪いけどできねぇ。俺も男だし、俺はお前が好きだし」

「そこに好きって関係ある?」

「は?あるに決まってんだろ」


言い切った。そんなに関係あるんだ。‥ってそこじゃないか。私今すごいことを公言されたんだった。好きって言葉に気とられてた。


「じゃ、これからよろしくね」

「軽いな、ほんと。どうなっても知らねぇからな」

「望むところってことで」


家確保!って大きな声でいったら、時村にすっごく呆れた目で見られて、おまけに大きなため息までつかれた。





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