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君の隣を先約します。  作者: ゆきうさぎ
<第10章>
72/83

恋する乙女じゃいられない。(3)

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「はぁ、」


前なんてほとんど見ないで走ってきて、何度目のため息をついただろう。気付いたら、少し前に時村といた公園の前にいた。街灯に照らされた薄暗い公園の中に入って、あの時と同じようにブランコに座って少しだけ漕いでみる。軋んだ音とともにやってきたのは、さっきの美弥の言葉たち。ずっと頭から離れなくて、まるで焼き付けるかのように、何度もリピート再生される。


「…なんでよ、もう」


なんであいつなのよ。

これじゃあ私があいつを好きみたいじゃない。

美弥に言われた時、なにも考えられなくて、びっくりしたっていうそんな感情だけじゃなくて、心のどこかでショックを受けていて。もやもやして、美弥には狙ってほしくないって感じて、…とられたくないって確かに思った。


「……好き、なんだろうなぁ」


散々否定していたくせに、認めてしまえば案外すんなり入ってきて受け入れてる自分がいた。なんであんなに頑なに好きじゃないって言ってたんだろうかなんて疑問すら浮かんでくるくらいだ。でも、前途多難かもしれない。美弥があんなことを言ってるんだもん。私が好きじゃないって言ったからあんなことを言ったのなら、私は身を引かなきゃならないのかもしれない。変な言い方をすると、時村を譲らなきゃならないのかもしれない。


「それってつらいなー‥」


好きだけど、諦めなきゃならないってすっごく辛いんじゃん。そんなことなら恋愛なんかしたくない。なんてこと、どこかの少女マンガに描いてあった気がする。その時、彼女はどうしたっけなぁ…。諦めなかったんだろうなーそうじゃないとハッピーエンドにならないもんね。もしこれが少女マンガだったら、恋愛成就は絶対だったのになー。


「、くしっ」


…寒い。

マフラーを巻きなおして、さっきから流れていた涙をぬぐった。ぬぐった指を見れば少しだけ黒くなっていて、化粧が落ちてるのに気が付いた。

まぁ、今更化粧がどうってならないよね。

さすがにこすらないけど、別に直す理由が見当たらなかったから、私はとれかけている化粧は放置した。


「なんか最近、涙腺弱いなぁ」


ぬぐった涙は止まらない。訳が分からず泣いていたさっきよりも、この気持ちに気が付いた今の方が溢れてくる量が多いような気がする。止めどなくってこういうことか、なんて冷静に考えている自分もいるけれど、泣きやむことはどうしても出来ない。

こんなに泣き虫だったかな、私って。

最近よく考える。私って、こんなに泣いていただろうか。こんなにも涙腺が弱い人間だっただろうか。人前じゃないからってこんなに泣いていただろうか。あいつに会ってから。会ってそんなに時間が経っているわけでもないのに、ずかずかと私の中に入ってきて、掻きまわして、その分いつも包んでくれて、きっと、あいつのせい。


「またひとりで泣いてんの?」

「…ぇ、」


俯いていた頭に降ってきたのは、一番聞きたくて、会いたくて、だけど一番聞きたくなくて、会いたくない人の声。どうしてこうもタイミングがいいのかとか。これはどこかの少女マンガみたいな展開を期待した私の夢なんじゃないかとか。ハッとして見上げた目に映ったのは、バイトの制服にコートを羽織った時村だった。


「なんでここに、」

「お前が人の約束ほっぽってどっか行くからだろ」

「それは、」

「それは?」


私を睨む時村に怯んだわけじゃないけど、思わず口を閉ざしてしまった。俯いてしまった私の顏を覗くために、時村はあの時と同じようにしゃがんで私と目を合わせた。別に睨まれているわけじゃないんだろうけど、私のうしろめたさから、怒っているような感じにすらとれる。


「美弥、ほってきたの?」

「は?」

「だから、美弥。こんな時間にひとりで帰らしたの?」


そうきちんと言えば、時村は目を丸くした後に大きなため息をついた。なんだか時村のこんなため息を最近よく聞くような気がする。私がため息つかせてるんだろうか。


「それはお前も一緒だろ」

「私、先に帰ったじゃん。美弥はまだ店にいたんでしょ?」

「そりゃいたけど、」

「じゃあなんで送ってあげなかったの?なんかあったら大変じゃん」

「あーもう。‥めんどくせぇな。あのなぁ、俺が女だったらみんな送ってくと思ってんの?」


びしっと指を下からさされて、今度は私が目を丸くさせた。そうしたらまた聞こえた大きなため息。


「思ってたんだ?」

「思ってたよ」


だって私も送ってくれてるじゃんか。あれって危ないからでしょ。ならそれってどの女の子にも当てはまるじゃん。世の中平等じゃなきゃ。


「その根本から間違ってるな。俺はお前だから送ってるの」

「私だから?」

「ここまで言ってもまだわかんねぇかな。俺はお前が好きなの」

「……‥ぇえ!?」

「時間かかったな。気付いてねぇの、雪瀬くらいだからな。あの深山ですら気づいてたから。なんでこんな鈍いやつ好きになったんだか」

「それ、仮にも好きな相手に言う言葉じゃないでしょ」


しかも比較対象が深山ちゃんってどーなのよ。私、深山ちゃん以下だって言いたいのか、こいつは。仮にも好きな相手なのに。


「それに俺、加藤に好きって言われたってごめんなさいって言うしかないしな」

「なんで。もったいない」

「好きじゃねぇのに付き合えねぇよ。俺そんなに器用な人間じゃないし、雪瀬が言ったんだぜ?そんな優しさは相手を傷つけるだけだって」

「あー‥言った。確かにそれは言った」


そういうことばっか覚えんなよ。もっとためになること覚えとけよ。





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