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君の隣を先約します。  作者: ゆきうさぎ
<第10章>
70/83

恋する乙女じゃいられない。(1)

「あーあ、暇」

「私もそんな言葉をこの受験前に言ってみたいね」


そう毒吐く美弥とただただぼーっと時間を過ごす私は、いまではいきつけのケーキ屋さんにいた。いつも同じ場所で、同じ飲み物を頼んで、オーナーさんの今日のおすすめのケーキを1つ頼んで、まるでファミレスかのように勉強している。


「あ・の・ね、前期落ちるあんたが悪いんでしょ。こっちは春休みだってのに、あんたの勉強に付き合わされてるんだから」


必要ないかもしれない車の免許も取りに行ってる最中なのに。夜中に急に電話で明日いつものとこに10時に来てって。どんだけ横暴なだっての。まぁそれで来る私も私なんだろうけど。


「わかってるわよ。だからケーキおごってるじゃない。それにどーせ家でごろごろしてるんだからいいでしょ。いーなぁ、休み」


美弥はほほを膨らませてから、わきに置いてあるケーキを食べた。


「あんたそれ2つめ。太るよ?でもって、努力の賜物よ」

「それ、世の中の大学受験してる人言ったらあんた間違いなく刺されるからね」


刺されるってそんな物騒な。確かに物騒な世の中になってきたけどね。


「あ、時村君だ」

「はぇ?」


あんた、時村にそんな黄色い声出すタイプだったっけ?


「あれ、お前らまた来てんの?そんなケーキばっかり食ってたら受験期だし太るよ?」

「お気遣いどーもー。でも余計なお世話ですー」


女の子に太るって言うの、だめなんだからね。女の子はデリケート生き物なの!


「あ、雪瀬今日俺ラストまでだけど、大丈夫?」

「ん、全然大丈夫。多分私も最後までここに居座ると思うし」

「おっけ、なら俺上がったら店の前行くし、店の前にいといて」

「りょーかーい」


最近、こうやって時村とこんな会話をすることが増えた。時村も前期で受かったから、今はバイトに明け暮れている。で、私たちはそこに入り浸っているので、必然的に会うことになって、いつも帰り、一緒に帰るようになったのだ。まぁ、帰る方向一緒だし。


「仲良いねー、相変わらず」


時村がキッチンに姿を消した後、美弥がキッチンと私を見ながら言った。とっても意味深な言葉に、私はフォークをくわえたままかたまって美弥を見た。


「だから、いつも言ってるけど仲良くはないから」

「嘘ばっか。あいつが女子とここまで仲良くしてるの初めてなんだから」

「なら気まぐれじゃない?」


どうしても認めたくない私は、それらしい理由を重ねて否定を繰り返す。すると、美弥は大きなため息をついた。

「あんたってどーしてそんなに鈍いのよ」

「は?急に何」

「ね、正直なところ、時村とどーなのよ」

「は?」


急に何を言い出すかと思えば、この子は。

いきなりの恋愛話に目を点にさせていると、「で?」と追い込まれる感じで尋問されていく。捕まった人ってこんな感じなのかな。それなら牛丼出してほしいな。


「直、時村のこと好きでしょ」

「いや、何で断定なの」


それ私の気持ちだし。気持ち断定されちゃっても困るんだけど。


「それか高坂先生。谷口はもう脈ないんでしょ?」

「陽斗はもう付き合わない。‥で、なんでそこで高坂が出てくるの?だいたいあの人先生じゃん」

「じゃあ先生じゃなかったら好きになってるってこと?」

「それとこれとはまた話が別でしょ」


だいたい、なんで時村と高坂なんだ。確かに今の私に一番近い男っていったらその2人だけど。なんか違うような気がするんだけど。


「まぁ高坂先生はいいとして。時村ってどうなの?恋愛感情、まったくないの?」

「うーん‥わかんないんだよねー、それが。確かに一緒にいる時間も長いし、好きか嫌いかって言われたら好きだろうけど‥」

「けどなによ」

「ドキドキする要因がない」

「(‥時村やっぱ不憫だわ)」

「陽斗の時とはやっぱ違うっていうか」

「谷口と比べるのはどうかと思うよ、私。過去は過去なんでしょ。…それなら私、時村狙ってもいい?」

「………は?」

「反応おそっ!」

「いや、え、は?美弥、マジで言ってる?」


ここで働くイケメンアルバイターはどーした?他校の爽やかイケメンはどーした?どっかで頭でも打った?


「いやさー、一緒に勉強会するようになってさ、時村君いろいろ勉強とか教えてもらったんだけど、すごい丁寧で優しくて。すごい気も利くし、いーなぁと思って。でも直いるし、直が好きじゃないかなら私が狙ってもいいよね?」

「‥‥……、」


それはあまりに唐突なことで、どうしていいか、なんて言っていいのかわからなかった。頭の中はぐちゃぐちゃしてて、なにひとつまとまってなくて、それなのに、感情的に言うとはっきりした気持ちがひとつだけあって。でもそれは時村を好きだという美弥には言うことはできない感情で。


「直?」


ふわりと笑う美弥は、いつにもまして愛らしかった。その顔を見ると余計に言えなくて、「いいんじゃない?」という言葉とぎこちない笑顔しか返すことができなかった。

それからどれくらい経っただろうか。美弥はずっと後期試験に向けて勉強をしていた。その前で、さっきのできごとがずっと頭の中でリピート再生される。思考と視線を彷徨わせていると、壁にかかる時計が目に入って、閉店の30分前をさしていた。


「ごめん、美弥。私もう帰るわ」

「え。でもあんた時村君と、」

「ごめんって言っといて」


私は横に置いておいたかばんとコートを手に取ると、一目散に店から出て行った。






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