勘違いダーリンと勘違いハニー(11)
「いつから?」
「時村がブランコからここに移動してきたくらいから」
うん、ほぼ全部だね。
「覗きが趣味だったんだ」
「は?違うし」
「違わないでしょ。あんたこれが話し合いじゃなかったらどーしてたわけ」
別にそんな可能性ないけど。
「まだ人通りのある時間帯にこんな公園で会ってるあんたが悪いんでしょーが」
…ごもっともだったりして。
「で、話は聞いた。直がバスケはしないって言った理由も、バスケをしない理由も。それをわかったうえでもう1回言うけど。私と一緒にバスケをして」
「…は?」
予想外です。とはまさにこのこと。本当に私の話を聞いてたのかと思ってしまうほど。もしや、情報処理段階でデータの改ざんでもあったか?
「直の足のけがのことはわかった。ていうか、それなんとなくわかってたし、みんな直の足の状態があんまりよくないの知ってた。それでも直なにも言わないし、頼らないし、弱音吐かないし。私らってか後輩たちもどんだけ心配してたかあんた知らないでしょ」
知らなかった。というか、ばれてるとか思ってなかった。うまく隠せてるって思ってたし。みんなもそんな素振り見せなかったし。
「でも、…私はもうバスケを続けられない」
「まーだ言うか、コンニャロ。なんであんたの思うバスケってのは、現役の時にやってたようなハードなものなのかな。頭いいのにほんっと昔から柔軟性がないよね、直の頭って。バスケはね、今までやってきたのだけじゃなーいーのっ!わかった?」
さらりとけなされた気がするけど、そこはこの際無視。そんなことより、怪我を知っていて、それでも私とバスケがしたいという梨央が嬉しかった。
「私ら卒業したら1つチーム作ろうと思ってるの。て言っても、今の卒業するメンバーくらいだけどね。直もそこに入ってさ、いろいろ見てほしい」
「それならできる!」
「ま、一緒に出来る限り動いてはもらうけどね~、私の右腕なんだから」
梨央は意地の悪そうな顔をしてそう言うと、「じゃね」と笑顔で手を振って公園の入り口の方へと向かった。多分ジャージだからランニングの途中だったんだろう。
「あ、時村」
「あ?」
「まだ直はやんないよーだっ!」
「「は?」」
あっかんべをして走り去っていった梨央の言葉に、同じ言葉を返して茫然と梨央が行った方向を見ていた。
あいつ、どこのポジション?親ポジ?あれ、でも幼馴染では?
ちらりと同じ反応をした時村を見れば、ため息をつきながら俯いて頭をかいていた。全く表情は見えないけれど、髪からのぞく耳は赤かったように思える。ま、結構暗いからそんなに見えないんだけど。それに寒いし。
「‥帰ろっか」
俯いたまま言った時村の言葉に促されて、首を縦に振った。と、振ってから気が付く。こいつした向いてるから言葉で言わなきゃ伝わんないじゃん。
「今首振ったでしょ」
「振ってない」
「いや、振ったでしょ。返事返ってこなかったもん。雪瀬ってやっぱばかだろ」
「なんでそこでばかにつながるのよ。そういう直列的な思考回路どうかと思うんだけど」
白い息を掛け合いながら他愛もない口げんかをいつものようにして、公園から出る。公園でどれくらい過ごしたかはわかんないけれど、さっきより冷え込んできたことは確かで、冬を間近に感じた時だった。
「もう冬だねー」
「だなー。そろそろ俺もしっかりしねぇとなー」
星も見えない夜空を見上げ、時村は長い手を上に伸ばした。
「雪瀬って大学どこ行くの?」
「決まってない」
「は?え?願書そろそろ出さなきゃやばいでしょ。お前本気で就職でもすんの?」
時村にこんなことを言われる日が来るなんて。‥かなり悔しい。
「催促はされてる。どーするんだって。このままいったら勝手に願書書かれそうだから何とかしないととは思ってるんだけど。どーもやる気にならないんだよね。めぼしい大学も見つかんないし。時村は?どこ受けるか決まったの?」
「俺も別にここに行きたいっていうのはないんだけど。とりあえず自分の学力でそんなに勉強しなくてもいけるようなところを受けようかなって」
「ほーんと私たち舐めてるよねー、大学受験」
「俺らだけじゃねぇけどな。今一緒に勉強してるやつらも、たいがいなめてるからな。こんだけやっときゃ通るだろ的な」
「間違いないね。まぁ高坂には迷惑かけないよ。ちゃんと大学には進学すると思うし」
どこ行くとかなんにも決まってないけど。
でも、時村がこんなに決めたるって聞いて、周りの人も志望校を決めてそこにいく努力をしている姿を見て、なんだか自分だけ、取り残されてるような気分になる。いや、実際は取り残されてるんだと思う。この時期になって、結局なにも決まってないのは、私だけだろうから。ふざけてるわけでも、やる気が全くないわけでもない。ただ、本当に、どれだけ真剣に探してみても、なにも見つからなかっただけ。まだ見つけてないだけ。そう思いたいだけだと言われればそうなんだけど、あると思わないと、自分はだめになってしまいそうなんだ。
「まだ決まってないなら俺と一緒の大学おいでよ」
「一緒の大学?」
「うん、ここから電車で2駅離れたとこにある大学。私立だけど奨学制度あるし、偏差値も60行くかなくらいだし、学部数も結構多いし。条件としてはいいと思うんだよね」
「なんて大学?」
「藍沢大学ってーの。ぐぐってみ?」
そう言われてさっそく携帯でググって大学を調べる。出てきたホームページには綺麗なキャンパスが載っていて、時村の言うとおり学部数も多くて、ここからも、駅からも近いようだ。偏差値はわからないけれど、時村がいけるといってるくらいだからおそらく問題はないだろう。
「んー‥考えとく。ありがとう、送ってくれて」
「いいよ。じゃあ、また明日、学校で」
「ん、おやすみ」
いつものように時村が角を曲がるまで見送って家の中に入った。
次の日、高坂に人生初のちゃんと記入された志望大学希望調査の書類と願書を出した。そしたら、3年生の教師陣総出で喜んだそいうな。
よかった、よかった、うん。




