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君の隣を先約します。  作者: ゆきうさぎ
<第9章>
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勘違いダーリンと勘違いハニー(10)

「…もう、私とバスケするの、嫌?」


それはあまりに弱々しい言葉で、聞き取るにもやっとの声量だった。また、重たい空気が流れて、次は私が何か言わなきゃいけないのに、なにも言えなくて、下唇をぎゅっと噛んだ。


「…もういい、」


何も言わない私にしびれを切らしたのか、梨央はそれだけ言うと、荷物をまとめて教室から飛び出して行ってしまった。


「‥なにこの少女マンガの主人公が彼氏と喧嘩して去っていきましたみたいな展開」

「説明長ぇな」


しかも、別にそんな展開でもないし。

だけど、旬のその言葉のおかげで、さっきまでの空気が少しだけ軽くなったのは事実で、それからみんな少し気は使っていたけれど、なんらいつもと変わらずに時間が過ぎていった。

もくもくと勉強をして、数学が壊滅的な梨央がいない分、教える手間が省けたというのもあって、さくさくと今日は全体的に進んだ。


「お前らもう帰れよー」


見回りの先生が廊下から声をかけてくれて、みんなで帰る準備をする。外はもう真っ暗で寒そうな風が吹いていた。マフラーを巻いて下駄箱に向かう。ちらりと見えた梨央の下駄箱にはもう梨央の靴はなかった。帰ったということを確認してから校門へ行っていつもと同じ帰り道を歩く。


「気にかけねぇの?」


みんなと別れて時村と2人になったときだった。別れてすぐの角を曲がった時に、足を止めた時村にそう言われた。


「なにを、とかそんなこときかねぇよな。あいつ、お前の幼馴染なんだろ?一緒にバスケやってきたじゃん。野球で言うならお前らバッテリーじゃん。なんでそんなに他人のふりしてられんの?」


ほんっと、これはこの前の仕返しかなんかだろうか。こいつはいたいところをたくさん、それも確実についてくる。


「別に気にかけてないわけじゃない」

「じゃあなに?この前の言葉を返すなら優しさ?」


…やっぱ根に持ってるな、こいつ。仕返しじゃん。


「いーや、ただの自己満足」

「もっとひでぇな」


その言葉に、乾いた笑い声が出た。

さすがに今日は住宅街を避けて、夜の公園のブランコに座って話している。高校3年生にもなってブランコかよって思うけど、案外久しぶりに乗ってみると楽しい。少し揺らすたびに軋むブランコに乗りながら、ただただ音もなく白い息を吐き出す。


「続ければいいのに、もったいない」

「…みーんな簡単にそう言ってくれるけどね、」


実際はそんなにあまくないんだよ、という後ろの言葉は呑み込んで、キィキィtと少し大きな音を軋ませてブランコをこぐ時村を見た。少し難しそうな顔をして、でもなにを考えているのかはわからなかった。


「続けたいから続けるんじゃねぇの?」

「そーだね、」

「あいつはお前とやりたいんだろ?聞いた話じゃあ、お前ら小学校からずっと一緒らしいじゃん。小学校からやってるのに、そんな簡単にばっさり捨てちまうなんてもったいねぇよ」

「…だから簡単に言わないでって」

「なんかあったの?」


ざっという土を蹴る音がして、がしゃんというブランコの音がして、隣を見ると、そこにはもう誰もいなくて、気付けば隣にいたやつは私の目の前でしゃがみこんでいた。俯いても顔が見えるだろうほどに顔を覗かせて、そらすことを許さないと言外に言われているようだった。


「なんかあったんでしょ」


先ほどの疑問文は断定形に変わっていて、時村はありもしない確信を持っているようだった。あんたには関係ないと言ってはねのけてしまいたいけれど、ぎゅっと握られた手がそうさせてくれそうにもなくて。時村はただじっと私の次の言葉を待っていた。


「別に大した理由じゃない」

「ならそこまで隠す必要もないじゃん。あのときだって問題なく言えたでしょ?」

「…なんでこういう時だけ鋭いの」

「え、いつものことじゃん」


にっこりと笑う時村の、本当の表情はわからない。だけど、その笑顔から出される言葉の下には「だから早く言え」という言葉が見え隠れしているようで。


「……私ね、…もうバスケできないの」

「うん、知ってる。だからその理由」


真面目な表情で時村はじっと私を見つめる。美少女のくせに妙に男前だなと思ってしまった。ほんと、顏取り替えてあげたい。


「そのまんまだって。選手生命絶たれちゃったの。インターハイの試合の時に。もともと足首が故障してたってのもあったんだけど、もう限界なんだって、医者に言われてたのに出たのがだめだってんだろうねー。痛みどめも効かないくらいになっちゃって。もう、…次はないよって、言われちゃった」

「…それ、本気で言ってる?」

「絶対に、誰にも言わないでね」

「なんで?あいつにはそんな大事なことだったら、言っておくべきなんじゃないの?」

「…言ったって、治らない」

「なんたってそんな捻くれた考え方してんだよ。気休めって言葉知ってんだろ」

「少しくらい捻くれてる方が、愛嬌があっていいでしょ」

「そーかぁ?」

「…それに、私はもう、梨央の思うとおりのプレーは出来ない。確かにバスケは好きだし、現役の時は、今バスケが出来れば将来歩けなくったっていいなんて安直な考えもってたけど、今はやっぱり将来のが惜しいの」

「まぁ、どっかの企業団体に入るわけでもないしな」

「自分も大事だし、私これでも自分に厳しいから、梨央の望むとおりに動けなかったら自分が許せなくなる。梨央にだって申し訳ない。あいつが私と一緒に続けたいって言ってくれるのはすごくうれしいけど、私はこんな満足のいかない自分で梨央と一緒にするなんていや」

「はー‥プライドもなかなかだけど、それ以上に意識高ぇなー。……だとよー、白城。お前どーすんの?」


…え。え?ぇえ!?

ガサガサという音が聞こえて、公園の木の下から出てきたのは、ジャージ姿の梨央だった。なんともいえない表情をしながら、私の元へとゆっくりやってきて、少し潤んだ瞳で言葉を紡がれた。


「バカ直」

「第一声それ?」


…もっとかける言葉なかったのかなーとか思ったりして。




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