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君の隣を先約します。  作者: ゆきうさぎ
<第9章>
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勘違いダーリンと勘違いハニー(8)

「いやー、笑った笑った」


あの後、笑ってるこいつらを沈めて、帰り道が違う3人と別れて今は時村と一緒に帰り道にいる。なんでこいつが今日に限って隣にいるんだと思うが、帰り道が同じだから仕方がない。


「笑いすぎ。むかつく」

「ほんっと面白かった。あいつ前会った時あんなぶっとんでたっけ?」

「まぁ素質くらいはあったんじゃないの。昨日今日であんなのにはならないでしょ」


ほんと、頭の構造どうなってんのよ。いいように解釈しすぎでしょ。


「相馬も懲りないねー。雪瀬にあそこまで言われてへこまないんだもん。俺なら立ち直れないくらいにへこんでるわ」

「そーだね、あんたへたれだもんね」

「おいこら」

「事実でしょー。深山ちゃんになんにも言えないんだから」

「それは‥」


まただ。時村は言葉に詰まってそれ以上はなにも言わない。立ち止まって俯く時村を1メートル前からじっと見つめる。時村は何かを言うつもりはないのか、これ以上のアクションを起こさない。


「ほんと、あんたってむかつく」

「は?」


やっと顔を上げたと思えば、それはもう情けないほどの顏で。それでもむかつくと言われたことには憤りを感じているようだった。


「散々深山ちゃんにモノ言った私が言うことでもないんだけどさ、あんたあの子の気持ちなんだと思ってんの?」


あれだけ侮辱っていうか口論しといてなんだけど。

薄暗い街灯の下で、影になった時村の表情はつかめないけれど、おそらく時村は唇をかんでいた。そんな時村を見ていたら自然とため息がこぼれてしまった。


「お前にはわかんねぇよ」


やっと絞り出された言葉は小さかったけれど、私をさらにイラつかせるには十分だった。何考えてんだとか、ふざけてんのかとか、いろいろ頭には言葉が浮かんできたけれど、一番にこいつに言いたいのは、


「わかりたくもないね、そんなの」


という言葉。睨むように見上げると、ばつの悪そうな時村の目と目が合った。目をそらした時村に、またイライラが募る。


「相手を傷つけたくない?物事を穏便に済ませたい?なんなら自分も傷つきたくない?これ以上ひどいことしたくない?」

「お前になにがわかんだよ」

「なんにもわかんないね。だって時村なんにも言わないもん」

「俺はお前みたいになんでも言えるわけじゃない。はっきり物事をいえるわけじゃない」

「だから?だからってなんでもうやむやにしていいわけ?このまま深山ちゃんだまし続けてもいいわけ?」

「そうとは言ってない」

「言ってるじゃん。このまま続けるっていうのはそういうことでしょ」


もう夕飯時だというこんな時間に、住宅が並ぶ道の真ん中で大きな声で口げんかなんて、なんて近所迷惑なことだろうか。家がこの近くじゃなくてよかったなんて思う反面、どうしてこんな道端で口論を始めてしまったのかと思ってしまう。


「傷つけたくない、傷つきたくない。そういう生半可な優しさ、いらないよ」

「…、別にそういうわけじゃ」

「そうじゃん。ただ優しさを振りかざしてるだけ。そういう優しさが、一番相手を傷つけるの、知ってる?」


優しさなんて、言葉ほど生ぬるいものじゃない。時にその言葉は人をどれほども傷つける残酷な言葉に変わる。私はそれを、陽斗に教えてもらった。だから、こうやって優しさを振りかざすやつほど嫌い。


「そろそろ白黒はっきりつけたほうがいいんじゃないの?恋愛なんてもんで、誰も傷つかないなんてこと、まずありえないんだからさ」

「…俺って、そんなに偽善者かな」

「そうだね、自分で思ってるよりかは偽善者なんじゃない」

「はっきり言うな」

「だって聞いたじゃん。私、優しいだけの人って嫌いだから」


そう言って笑って時村の顏を覗けば、時村は力なく笑った。そのほほをつねって引っ張ってやると「いひゃい」と手をどかそうとするから、私はぴんっとはじいてやった。


「それけっこう痛いんだって」

「知ってる。だからやってるんじゃん」

「…雪瀬って思ってたよりSだよな」

「褒め言葉として受け取っとくね」

「いや褒めてねぇよ。……雪瀬ってさ、優しいよな」

「は?Sの次は優しい?あんた私の何見てそんなこと言えんの」


この私が優しい?生まれて初めてそんな言葉言われたんだけど。


「今の言葉、全部漏れてるけど。生まれて初めては嘘だろ。ま、かーなーり、不器用らしいけどな」


時村はそう言って、私の頭をポンポンと優しくたたいた。


「あ、そう言えばさっき相馬になんか言われてたでしょ?」

「え?あー‥相馬?ん、まぁ言われたけど、別に大したことじゃないし」

「ふうん?」


私は問いただすのも面倒なので聞き流すことにした。まぁ、相馬のことだしちょっとねじとんだ発言でもしたんだろう、と少しだけ安易に考えて家の前まで送ってもらった時村を見送って家の中に入った。





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雪瀬を家の前まで送ったあと、一人になって思いだすのはさっきまでの口論と、校門前で相馬に言われたあの言葉。


『お前に直は渡さない』


ああ、ばれてるんだって思った。まぁ別に隠してるわけでもないし、周りの奴らにはばれてるとは思っていたけど、あいつにもばれてるなんて思ってもなかった。

…てーことは、もしかしてすっごくわかりやすいってことか。しかも、当の本人は気づいてないって感じだな。

そう思うと自然とため息がこぼれた。前途多難だな、これは。見るからに自分に対する恋愛感情に対しては鈍感そうだし、けっこう敵も多そうだし。兄貴も好きっぽいし、本格的に参戦されたら勝てそうにないなぁ。


「はぁ、」


幸せ、今日でどんだけ逃がしたかな。

つか、今はそっちより深山の件か。まずこっちをどうにかしないと俺、前にすすめないよな。深山にも悪いし。

悪いと思えば思うほど、何も言えなくなる。あわよくばこのまま、向こうから願い下げですとか言って切ってくれないかな、なんて甘い考えをしてたけど淡い期待で終わりそうだし。


「とりあえず兄貴に軽く相談してみよーと、」


馬鹿にされそうだけど。

めちゃくちゃ笑われそうだけど。そんときゃ殴ればいいだろ。、うん。






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