勘違いダーリンと勘違いハニー(7)
「らちがあきませんね」
「そりゃあね。学年一の才女が、たまたま今回のテストで点数を抜かれたくらいの私を言い負かせられないからね」
「ちょ、直、それ以上煽るなって」
梨央は仲裁に入り、私の口を抑えた。勢い余ってか、私の鼻まで塞ぐもんだから、これじゃ息できないからと諦めて大人しくする。それを見た梨央は私の口から手を離してくれたけど、私がいつ深山ちゃんに食らいつくかわからないからか、じっと私を見つめる。私はそんな梨央から目をそらして、私を睨み続ける深山ちゃんを見た。相変わらず鋭い目で私を睨んでいるけれど、ふんと鼻を鳴らすと、まるで何もなかったかのように教室から去っていった。
「行ったねー」
教室から出て行った深山ちゃんを目で追って、しっかりどこかへ行ったのを確認した梨央はため息をつきながらそう言った。そして私を見ると、ただ無言で私の頭を叩いた。あまり威力はなかったけれど、ちょうど出っ張った骨の部分にあたって、すっごく痛かった。いや、間違いなくわざとだ。
「痛い」
「自業自得」
ひどいなぁ‥なんて不満を漏らしながら、ココアを一口含む。独特の甘さが広がって、そのあとに隣から大きな、そりゃあもう大きなため息が聞こえてきた。
「それ、何の後悔よ」
「いや、深山に悪いことしてるなぁって」
「はっ、なに今更?あの様子じゃ懺悔したって許しちゃくれないでしょーね」
だから私早めに対処しとけって言ったのに。ほんと、こいつ馬鹿じゃん。
「直、言葉きつい」
「いやー、でもあれが直だからね。あいつ、もんのすごい毒舌だから」
「言う時は言うからねー。しかも総攻撃みたいだから、そりゃもう刺さる刺さる。おまけに追い打ちまでかけちゃうから立ち直れないしね」
「俺今日でちょっと見る目かわったわ」
「あんたたちうるさい。そんなこと言ってる暇あったら、とっとと次の問題やりなさいよ。もう日、傾いてるんだから」
「「「「(鬼だな、)」」」」
4人は元いた場所い戻ると、各々ペンをとり勉強の続きを始める。その様子を見た後にちらりと時村を見れば、さっきと同じ漫画を手にしていたが、その表情はかなり険しかった。
…ほんと、お人よしなんだから、こいつ。
「んあー‥今日も一日頑張ったー!」
「おもに私がね」
「違いねぇな」
背伸びをする梨央に突っ込めば、旬から言葉が返ってきた。その言葉に突っかかる梨央の姿をみんなで笑いながら下駄箱に到着し、各々靴に履きかえて、また集合する。みんなが集まって帰るのも、最初は異色なメンバーすぎてなれなかったが、数日もすれば案外このメンバーでも慣れてくる。玄関を出て、校門まで向かうその途中。私たちの前に、一人の男子生徒が私たちを待つようにして立っていた。それは見覚えのある、王子様スマイルを持つ彼だった。
「げ、」
「また心の声漏れてるし」
そんな突っ込みは今は必要としていない。
目の前の男子生徒は私の姿に気が付いて、周りが爽やかと騒ぐ王子様スマイルを見せた。
「…今日は厄日か」
やっぱ災難って立て続けに起こるもんなんだな。なんて、感心してる場合じゃない。ここはとりあえず逃げないと。
「直、久しぶり」
敵前逃亡をしようとした私に、逃げるより前に声をかけてきた王子様。ぴしりと固まる私に、周りは「あーあ」と同じ言葉を口にする。‥そう思うなら助けろよ。
「名前で呼ぶなって何度言えばわかんの」
「本当に直は照れ屋さんだなぁ」
怒りさえも通り越し、呆気にとられる私。
王子様の反応に頑張って肩を揺らしながら笑いにこらえる時村と旬。‥こいつらあとで覚えてろ。
「いや、照れてるわけじゃないんだけど?」
「そうだ、直、ミスコン優勝おめでとう」
「は?」
今話飛んだ?とんだよね?ていうかミスコン?なんでミスコン?
「あの時の直は本当に綺麗だった。バラがすごく似合ってた」
「だからバラは嫌いだっつの」
何度いわせりゃ気が済むんだよ、こいつは。いい加減学習してくれ。
「そうだ、この前の期末、学年トップだったね。さすが僕の直だよ」
「いや、お前のになった覚えねぇし」
こいつの頭、どこまでとんでんだよ。いつ私がお前のになるなんて言ったよ。つーかまた話飛んだ?
「僕のバラを受け取ってくれた時からに決まってるじゃないか」
「受け取った覚えもないんだけど」
「下駄箱に置いておいたバラ、1限目の時にはいつも消えてる。あれは受け取ってくれてるからだろ?」
「「ぶっ(笑)」」
「なんで消えてるからって受け取ってるに直結すんの!?あんたらもいつまで笑ってんの!」
どんだけプラス思考!?なんで捨てられてるっていう考えにいかないの!?
「ほんとに直は照れ屋さんだなぁ。そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに」
なんかもう、なにも言えねぇ。なんで深山ちゃんといい、こいつといい、こんなに頭の中ハッピーなんだよ。どーいう思考回路してんのよ。どーしてこんなにねじとんでんのよ。
「で、直はいつまで時村とつるんでいるつもりだい?」
相馬は私から時村に視線を変えて、そして時村を睨みつけた。それに気が付いた時村も、笑うのを徐々にやめて真剣な顔で相馬を見たが、それもつかの間、さっきのことを思い出したのか、また吹いて笑った。
「こんな下品な男、直のとなりに置いてなんておけない」
「男に品求めてどーすんだっての」
女じゃあるまいし。まぁ時村の顏は女だけど。
「直に悪い影響が出る」
「いや、心配すんな。お前といるほうが悪い影響出るから」
「ちょ、直、笑わすなって」
「だからあんたらもいつまで笑ってんのよ」
笑いすぎだっての。
「直、」
「だから、何回言わせるの。名前で呼ばないで。私はあんたの女になった覚えもないし、なる気もない。わかったらそこどいて。私帰りたいの」
「なんか今日いつもより殺気立ってるね。なんかあったの?」
「「ぶっ(笑)」」
「笑ってんな!んなもん自分で考えろ!」
もうやってらんない!
私は笑う時村と旬の頭を叩くと、隣にいた時村の腕を引いて相馬をかわす。私が過ぎて、時村が相馬を過ぎようとしたとき、相馬が時村になにかを言ったようだったけど、それはとても小さな声で私には聞こえなかった。




