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君の隣を先約します。  作者: ゆきうさぎ
<第8章>
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おかえり現実、さよなら浅き夢(3)

「痛いです、」

「思いっきりビンタ食らったもんなー。良い音したよ。近所に響いてなきゃいいけどな」


なんでこうなったのか。どうして送ってもらうだけの時村を家に上げ、姉貴に叩かれたほほに湿布を貼られているのか。いや、もとはと言えば、どうしてもという時村を断りきれなかった私に問題があるんだけど。というか、私にしか問題はないんだけど。


「これ邪魔」

「あ、こら、はがすな!腫れてんだから今日はそれで過ごせ!」


はがそうした手を掴まれて、ぺろっとはがれた部分を時村に貼りなおされた。また、ひやりとした感覚がほほを伝った。


「ビンタとかされてるやつ久しぶりに見た」

「そりゃどーも」

「褒めてねぇよ。馬鹿だって言ってんの」

「知ってる」


そんなこと、誰に言われなくてもわかってる。でも、そうでもしてはぐらかしてないと、無理にでも笑ってないと、どんどん暗くなる。どんどん辛くて泣きそうになる。


「はい、コーヒー」


机に置いて、私は時村の前に腰を下ろす。ちらりと見えた時計は10時手前をさしていた。時村、帰らなくていいのかな、なんて心配をしたけれど、よくよく考えれば高坂と2人だし、男の子なのだから別にいつ帰ったっていいじゃんという結論に結びついて、野暮な心配したな、なんて思ってしまった。そんな時村は静かに、さっきから何も言わずにコーヒーをすすった。なんだか異様に重たい沈黙が流れる。


正直、耐えられない。いや、本当に。


なんて思いながら、気を紛らわすために周りを見渡す。ちょうど首を一周さしたくらいにふと目に入った本棚。参考書や文庫に紛れる場違いな冊子にすぐに目がいった。1冊しかないそれは、大した場所もとっていないのに、やたらに存在感を放っている。まぁ、周りが参考書とかしかないからだろうけど。


そういや、時村に見られたんだっけか。てーことは、姉貴のことも見たんだよな。


ちらりと時村を盗み見る。時村は難しそうな顔をしてコーヒーを飲んでいた。何を考えているのかは知らないが、今時の高校生が考えるような進路云々といった考え事じゃなさそうだ。眉間に刻まれたしわが美少女に似合わない。なんならブサイクにしか見えない。こんなこと美少女に言っちゃあなんだが。


「‥時村、なんにも聞かないんだ?」


視線はあくまでアルバムに向けたままだ。それでも時村が息をのむのがわかった。ちらりと、ガラス張りの棚から時村の表情を確認する。やはり、難しい顔をしていた。なんだかこっちが、なにをそんなに迷ってるんだと聞いてしまいたくなるほど。あー、今なんか高坂の気持ちわかった気がする。先生ってこんな感じなんだー。てーことは、私たちって今の時村みたいな感じってこと?…いやいやないない。うん、ないない。


「聞いていいもんなの?」

「さぁー、どーなんだろーね」


なんてテキトーな返事。自分でしといてなんだけど。別にからかってるわけじゃないけどね。こうでもして軽い感じにしておかないと、私がつらいんだろうなって。まぁ、危機管理だな。


「少し前アルバム見て聞こうとしたとき、雪瀬「聞かないで」って言ったじゃん。だから聞かないつもりでいたんだけど」

「あれ、私そんなこと言ったっけ?」


うっわ、記憶ない。ってそんなこと言ったら時村怒るかなー。うん、怒ってんな、今。


「美少女に眉間のしわって似合わないよ?」

「うっせぇ!」

「うわ、ちょ、暴力反対!」


それ私の家のスリッパ!


「いいから殴らせろ!」

「むりむりむり!時村本気で叩くもん!」

「じゃあ手加減するから叩かせろ」

「いやいやいや、そんな言葉が信じられるわけないでしょ。そういうやつに限って、捕まえたら本気で叩くもん」

「わかってんなら叩かせろ!」

「叩かせろって言われてわかりましたって叩かせる馬鹿がいるか!痛いものはみんな嫌だ!私はMじゃない!」

「…っち、」


舌打ちって!なんかひどくないですか?

時村はあきらめてくれたみたいで、座りなおしてスリッパを床に置いた。でもホッとしたのもつかの間で、次の瞬間にはクッションが豪速球で飛んできた。

いやいや。これが女子に対する態度か。たいがいの女子泣いてんぞ。


「女の子いじめないでよ」

「どこに女がいるって?」

「私、れっきとした女ですけどー!」

「はっ、美青年がほざいてんじゃねぇ」


なにそのさっきの美少女の仕返しみたいな理屈。こいつも子供か。


「いやでもクッションは投げんな。コップに当たったら中身こぼれるから。さすがにそれだけはやめてほしい」

「なら今のうちに飲み切れ」

「いやだからさ。なんでもう投げる前提なのかな。ここ、人んちなんだけど」

「んなもん知るか」

「…先生、教育なってないなー。これじゃ教育者の立場としてだめでしょーに」

「三つ子の魂百までだ」

「なにそれ。自分の親が悪いって公言してるように聞こえるんですけどー」

「間違ってねぇから心配すんな」

「人のせいにすな」

「なら今までの環境のせいだ」

「だーかーら、自分の非を認めろって」

「三つ子の魂だって」

「あーはいはい。氏より育ちってよく言ったもんだな」


昔の偉人はなんつー言葉を残してくれたんだか。





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