trick or treat. ※お菓子はいらないのでいたずらします。(7)
「あれって、白雪姫じゃない?」
「え、どこどこ?」
「白雪だ!」
梨央と話をしすぎた、なんて考えていた時だった。周りからこちらを指をさしながら声が聞こえてきた。少しだけ懐かしい響きに酔いしれていると、前の人物がクスリと笑った声が聞こえてきた。
「久しぶりだな、そんな風に呼ばれるの」
「そりゃね。私たちがバスケをしてる時以外で一緒にいることなんて滅多にないからね」
「まぁバスケ以外で会う用なんてないしね」
「でもさ、よく白雪姫なんて考え付いたと思わない?」
雪瀬の雪と白城の白で白雪姫って。姫ってのも私はどうかと思うんだよね。そりゃどっちもそれなりに顔は整ってるけど。
「じゃあなに?あんたは風神雷神とでも言ってほしかった?」
「なにそのいかつい例え。私風神のがいい」
「は?どっちかっていうと私のが風神っぽくない?」
「いや、あんたは雷神でしょ」
私鬼のような顔に牛の角なんてごめんだし。ていうか、なんつー不毛な言い合いしてるの。
「あ、そうだ、気が向いたら1組に来てよ。ワッフルとホットドッグ売ってるからさ」
「またなんでそんな組み合わせ、」
「食べたいもので募ったらこうなったの」
「話し合いしろよ、」
なんてぼやきながら、梨央から20円引きと手書きで書かれた紙を受け取って、私もしっかり宣伝してから梨央と別れた。1人になってからは、「白雪姫じゃない」とか「1人足りない」とか「ご飯どう?」とかそんなことを言われ続けて教室まで真っ直ぐ帰った。
「お帰りー」
「…相変わらず疲れてんね」
この2日間で痩せれるんじゃないだろうかと思ってしまうほどの忙しさのようだ。繁盛でけっこう。ただ、こんな引っ切り無しだと、13時前に1時間ほど抜けたいなんて、死んでも言えない。
「直の人気が半端ないであります」
「…‥そうとう疲れてんね」
「あんた覚悟した方がいいよ。これは時給出てもいいくらいに忙しい」
げっそりしている美弥に、追い打ちをかけるように狼男からの声が聞こえた。
「加藤さん、2番の部屋入ってー。もう通したから」
「…はーい、」
うわぁ、嫌そうな声。とは裏腹に、可愛らしい顏を作って中に入っていく美弥。さすが。
「あ、雪瀬は3番に入って!」
「えぇー」
「えーじゃない。あ、それから!お前昨日言ったこと忘れてんなよ?客に変な気起こさすなよ」
「心してまーす」
そう言ってから、3番の部屋の前に行く。ここでため息がひとつ。
「失礼しまーす、」
開けた扉の先にいたのは、知らない私服の男の人だった。おそらく外部の人だろう。この学校は文化祭は一般公開してるから、周りの高校や親、地域の人がよく来る。だからこんなにも人がいっぱいになるんだけどね。本当に困ったものだ。
「へぇー、写真で見るより全然可愛いね」
「はぁ、」
受け付けには写真なんていう代物があったのか。やってくれる、狼男。
「君本当に高校生?すっごく綺麗だよね」
「そんなことないですよ」
というか、そんな舐めまわすような目で私を見ないでください。鳥肌が立ちます。
「あ、なにか頼まれました?」
「いや、まだだよ」
「じゃあ、なに頼みます?えっと、メニューは、」
そこまで言ったときに、急に後ろに腕を引かれて、倒れこんでしまった。そこにどう回ったのか、男の人は私の上にいた。
…こーんなの、夏休みにも経験したような気がするなー。私、なんにもしてないんだけど、狼男さん、許してくれるかな。
「意外と静かだね。あ、もしかして、こういう展開期待してた?」
「それはないですね。ミクロほどもないですね」
「本当に?その割には大人しいじゃん。実は慣れてるとか?」
「お兄さんと一緒にしないでクダサイ」
と反発して、少しばかり抵抗してみる。だけど当たり前だけど、上に乗った男の人を女の私がどかせられるわけもなく。びくともしないというのは、まさしくこういうこと。
「なんでもいいんで、そこどいてもらえません?営業妨害です」
「君さ、なんで押し倒されてるのに、そんなに悠長にしてられるの?」
「別に悠長になんてしてないです。狼男さんに怒られるのだけは勘弁なんでどいてください」
「狼男さんってあの受付の子?あ、もしかして彼氏だったりした?確かに彼もイケメンだよね」
「彼氏じゃないです」
ていうかどけ!重い!近い!煙草くさい!こんな3拍子揃えてなにがしたいんだ!
「あの子やめて俺にしなよ」
「はぁ?」
「君きれいだし大人っぽいし俺の好みだし」
どう?みたいに聞いてくるけど、
「お断りします」
「うっわ、ざっぱり?なに、彼氏でもいるの?それか好きな人とか?」
「いませんけど」
「じゃあいいじゃん。お試しとかで。どう?」
どう?じゃねぇし。
「さっきお断りしたじゃないですか」
「かたいなぁ。いいじゃん、別に。俺みたいないい男、そうそういないよ?」
いるし。ていうか、人を押し倒すような男がいい男だなんて言うな。
「そりゃああなたみたいに自称いい男はいないでしょうけど」
「あ?」
あ、やべ。つい本音が。
「こっちが下手に出てると思ったら、」
押し倒しておいて下手とかよく言うな。厚かましいのはどっちだよ。押し倒して、恋人にこじつけようなんて。
「なんでもいいんでどいてください」
「俺の女になってくれたらいいよ」
「ずるいってよく言われるでしょう」
「で?どうするの?」
「どいてください」
「じゃあ俺の女になってくれるんだね?」
「なるわけないじゃないですか。私はあなたのために言ってるんです」
「は?何言ってんの?今この状況でどっちが優勢でどっちが劣勢かなんて一目瞭然だよね?」
「それはあなたが私しか視野に入れてないからです。周りを見てください。そこに般若みたいな顔した女の人がいるの、見えません?」
「は?…‥って有紗!?」
「一真これどーいうこと?モチロン説明してくれるわよね?」
私の上から即行でどいた男の人は、笑顔だけど目が据わっている女の人にうろたえている。
「いや、これは…、この子が、俺を誘って来て、」
「はぁ!?」
「この子が?なんだー、そうなの?」
ぱっと変わった女の人の表情。そして男の人はあからさまに安心した表情。
「って、そんなわけないでしょーが!」
女の人の怒鳴り声と一緒に聞こえたのは、教室中、下手すれば廊下まで聞こえただろう、ほほを叩く音。クリーンヒットしたのだろう、ものすごく痛そうで、そしていい音がした。その音にかけつけたのは狼男さんで。起こってしまった事態に、頭を抱えてため息をついていた。
…私悪くないからね?




