trick or treat. ※お菓子はいらないのでいたずらします。(6)
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「ハロウィン喫茶いかがですかー?」
「お姉さん綺麗だね。俺たちとデートしようよ」
「今忙しいんで~」
10メートル歩いたくらい。
「ハロウィン喫茶、いかがですかー?」
「君可愛いね!一緒にこの後回ろうよ!」
「ごめんなさい、仕事があるんで~」
そして10メートル歩いたくらい。
「お姉さ~ん!」
「はぁ~‥もうやだぁ~」
さっきからちょっと歩けば男の子に声をかけられ、振り払って歩けば、また声をかけられ。私はいつになったら教室に帰れるのだろうか。
「ゆきさん!」
そう名前を呼ばれて振り返れば、大きな瞳を輝かせて私を見るまこと、おそらくまこの友達だろう女の子が駆け寄ってきた。
「あ、まこ、おはよう。相変わらず元気だね」
「はい!元気だけが取り柄なんで」
それそれでどうかと思うんだが。バスケ馬鹿はこれだから困る。
「まこのクラスは劇だったっけ?何時から?」
「来てくれるんですか?やったぁ!私たちのクラスは13時からです」
「13時ね。シフトないからわかんないけど、なるべく行けるようにするね。劇、なにするの?」
「ちょっと一風変わった桃太郎です!」
「‥桃太郎?」
「はい!パンフレットに書いてあると思うんで、それ以上はネタバレになっちゃうし聞かないでくださいね!」
「あー、うん、わかった」
ようは見に来いってことね。
「それより、ゆきさんさっきからすっごい人気ですね!クラスの男子が、バスケ部の先輩がすっげぇ美人なってるって言ってたから気になっちゃって。すごい綺麗ですね!」
「ありがとう、」
いったいどこまでそんな噂が回ってるんだろうか。なんだか怖い。
「ミスコンはゆきさんで決まりですね!ね、美紀!」
「え、あ、うんそーだね、」
美紀と呼ばれた女の子は遠慮がちに、そしてまこに合わせるようにしてそう言った。今まで認識していなかったまこの隣の子を見る。伏せめがちのその表情はどこか憂いをまとっていて、儚げに見えた。綺麗な顔立ちをしていると、しっかり見なくてもわかる。
「あ、この子私の友達の早野美紀って言います!美人でしょ!高3くらいになったらゆきさんみたいになってほしいなーなんて」
私みたいにって。この子は私のどこをいつも見ているのだろうか。
「あ、私たち劇の打ち合わせあるんでもう行きますね!ゆきさん絶対来てくださいねー!」
まこはそう言って元気よく体育館の方へ向かって行く。それを追うようにして、早野さんも体育館のほうへと歩いて行った。ただ、遠慮がちに私を見たその目は、なんだか、私には睨んでいるように見えた。
「‥どっかで嫉妬買ったかなー」
高坂か?それか時村?はたまた陽斗か?なんて人の名前を出して、自分がいかに人気者と絡んでいるかに気が付かされる。それと同時に、これじゃその辺の軽い女と同じじゃんかなんてことも思ったり。やっぱりもう少し、この3人と絡むのを控えた方がいいんじゃないだろうか。なにより私のために。
「お、直見っけ!」
「…げ、」
「げってひどいなぁ」
軽い挨拶をするように手を挙げて私のそばまで来たのは、元バスケ部、そして私たちの代のキャプテンの白城梨央、通称はく。美人な顔立ちのくせに、それを残念にさせるくらいの豪快さとがさつさを併せ持つ、非常に残念な美女。周りからよく言われるのは、黙っていれば可愛いのに、だ。本当に、まさしくそれ。そしてこいつの肩書きはそれだけじゃない。
「保育園からの友達になーんて反応するかな」
そうなのだ。こいつとは保育園の年少の頃からの付き合いで、こいつといる年数=今の年齢と言っても過言じゃない。非常に残念なことに。不本意ながら、美弥よりも私のことをよく知っている。そしてもう一つ言うならば、こいつは私の2つとなりに住んでいる。
「直のそんな姿見たら兄貴何て言うかな」
「ヤメテ。それだけはやめて」
「見せるわけなじゃん。あんなくそ兄貴に」
「くそ兄貴って‥。元気にしてるの、恭平さん」
「元気もなにも、今どこでなにしてるんだか。3か月前にちょっと自分捜しの旅に出てくるとか言ってふらっと出てってから音沙汰なしよ。なにが自分捜しの旅よ。そんなことしてるくらいなら金稼げっての。そんなんだから彼女にも逃げられんのよ」
「相変わらず恭平さんに厳しいんだね」
小学校の頃は「お兄ちゃん、お兄ちゃん」って言って、いつも恭平さんの後ろひっついて困らせてたくせに。
「直ちょっと痩せた?」
私のウエストをまじまじと見ながら梨央は言った。幼馴染って本当、侮れない。
「そりゃあ現役の時と比べたらね。筋肉だって落ちただろうし。だいたいそう言うあんただって、少しやせたじゃない」
「あー‥まぁね。あのときに比べたらね。でも私、バスケ続けるつもりだし、そのために大学行くって決めてるから、ずっとボールは触ってるよ?」
「いや勉強しろよ」
そんなことドヤ顔で言われても。
「直はもうバスケしないの?」
そう聞いてきたの梨央の表情は、すごく寂しそうで、どこか哀しそうだった。まぁ、そんな表情をするのもわかる気もする。きっと私も同じ立場なら、今の梨央と同じ表情をしていただろうから。引き止める側なんて、いつもそんな感じなんだ。
「直いなきゃ、バスケしててもつまんない」
「梨央はそればっかり。バスケが好きならそのまますればいいじゃん」
「バスケは好きだよ?そんなの当たり前。でも、私がもっと一番好きなのは、直とするバスケなの」
「‥それはどーも」
「だから直と同じ大学に行ってバスケがしたい」
「……はぁ?」
だからって、こいつ何言ってんの?どんだけバスケ馬鹿なのよ?
「考えといてよ!私まだ直とバスケしたいの!」
「‥あんたそれだけでこの高校にも来たんでしょ」
「あ、ばれた?」
なんなの、こいつ。腐れ縁って本当にあると思ってたけど、こいつの捏造じゃん。腐れ縁ってこの世に存在しないんじゃん。なんか夢壊された気分。




