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君の隣を先約します。  作者: ゆきうさぎ
<第7章>
47/83

trick or treat. ※お菓子はいらないのでいたずらします。(5)

「じゃあ直には欲情するの?」

「……は?」


さっきまで俺をからかっていた加藤は、顏は笑顔なんだけど、目は据わっていて、本気で聞いてきているとすぐにわかった。本気な加藤をどう受け流そうかと思案しいてると、クラスの女子と珍しく話をしている雪瀬が目に入った。いつもとは違う雪瀬に、確か綺麗だと感じたし、見惚れたのも事実だ。いつもはショート髪が、背中まであって、いつもしているナチュラルメイクとは違って、少し濃いめで目を大きくしているみたいで人形みたいだ。普段は見ない肩を出していて、日に当たっていない白い肌が扇情的で、男にとっては目の毒でしかない。ドレスも丈が長くて、おまけにウエストがきゅっと締まっていて、すごくスタイルが良く見える。いや、実際にいいんだと思うけど。


「先生見すぎ」


加藤にそう言われて、俺が雪瀬をずっと見ていたことに気づかされる。生徒にこんなことを注意されるのもどうかと思うが、そもそも、生徒をこんな目で見てる自分もどうなんだろうか。


「やっぱり直には欲情するんだ?」

「なんで見てただけでそうなるんだよ」


確かに扇情的だと思うし、官能的だとも思う。だけど、それを欲情すると言ってしまっていいのか。まぁ、あながち間違いでもないとも思うが。


「やっぱり大人っぽいほうがいいのかなー」

「はぁ?」

「だってさ、直って大人っぽいじゃん。まぁあの子の場合は大人っぽく見えて、まぁ実際にドライで冷めてて無関心で大人なところはあるんだけど、子供っぽいところあるでしょ?負けず嫌いなところとか、計画性ないところとか。でも男からしたらそのギャップがいいんだって」


なんじゃそりゃ。まぁ男がギャップに弱いってのは事実だけどな。


「先生はそれだけじゃなさそうだけどね」

「なにが言いたいんだよ」


なんでこの俺がこんな10近く年が離れたやつにコロコロ転がされなきゃならねぇんだよ。


「今日の直、すっごく綺麗で可愛いよね」

「だから、」


なんでこんなに脈絡がねぇ話ができるんだ、とは自分のことを棚に上げてるみたいで言えないけど。


「見惚れてたね、先生も、男子も。まぁ一部の女子も」

「…っち」


ばれてんじゃんよ。


「舌打ちつかないでよー。ね、今日の直、綺麗だよね?」

「それは俺にそう言わしてぇのか?」

「うん」

「‥強要かよ」


それ言わせてるだけで俺の意思とか俺の気持ちじゃなくね?とか単なる言わせじゃね?とかそんな疑問が浮かんでくるが、当の本人はそんなことはお構いなしだという風に、俺の次の言葉を待っている。


「はっ、誰が言ってやるか。ガキにゃ興味ねぇって何回言わすんだ」

「嘘ばっかり」

「あ?」

「先生、直のこと好きじゃん。直にばっかり気かけてるし。そりゃあいつけっこう問題児だってのもあるけどさ。なんで本気になんないの?」


……。

加藤の目をじっと見る。ときたま思う。こいつはどうしてこんなにも洞察力があるのかと。どうしてこんなにも人の気持ちを察するのかと。人の何みてんだよとか。


「ガキにはわかんねぇだろうよ。大人の事情なんてもんは」


この世界に入ったら嫌でも考えちまう、大人の事情。


「ふうん。別に先生が直を狙う気がないならいいけどさ。捕まえちゃうなら早いところ捕まえちゃわないと時村君に取られちゃうよ?」

「は?‥なんでそこであいつの名前が出てくるんだよ」


意味がわかんねぇといった風に言ってやれば、あからさまなため息をつかれた。

それが教師に対する態度かっつーの。


「時村君、なんだかんだで直のこと好きなんだと思うんだよね。けっこう直のこと気にかけてるし、体育祭の時だって谷口君に妬いてたっぽいし」

「谷口?」

「そ。谷口君って直の元彼なんだけどね。私の情報によると、谷口君、直のこと諦めてないみたいだし。まぁ直はもう付き合うつもりはないって言ってるけど」


「そんなのわかんないじゃん?」そう言って、加藤は俺の前から消えて雪瀬のところまで行った。それを目で追っていたら、こちらをみた雪瀬と一瞬だけ目が合った。何とも言えない感情が込み上げてきて、さっき加藤に言われたことを思い出す。気に入ってるとか、好きだとか、俺を振り回すことばばかりで。それがなんだって一蹴したいが、一蹴するには俺は弱くて。


「散々ですねー」

「…今度は橘か、」


狼姿をした、受け付け嬢ならぬ受け付け坊やは、笑いながら先ほど加藤が座っていたところに腰を下ろした。

だから、なんだってお前らは教師の前で普通に教壇に座れるんだ。


「つーか聞いてたのかよ。盗み聞きが趣味だなんてどーかと思うぞ」

「失礼ですね。こんな教室で話してたら嫌でも聞こえてくるでしょうが。攻めるなら加藤を攻めてくださいよ。俺だって好きで聞いてたわけじゃないですから。ある意味、騒音ですよ」

「‥言いたいことはそれだけか」

「先生も素直じゃないですよね」

「余計なお世話だ。お前には関係ない」

「‥大人の事情ですか?」


そう言った橘の顏はどこか寂しそうだった。だけどそれは一瞬で、またいつものような明るい顏に戻って俺を見た。


「なんなんですかね、大人の事情って。俺たちだって、もう先生たちが思ってる以上に大人なんですけどね」

「そういうもんだ。俺たちからしたら、お前らはいつまでたってもガキのままだ」

「それって、いつまでたっても大人の事情ってやつを知れないままじゃないですか」

「それはまた違うな。成長して知ったとしても、俺たちからしたらガキなんだよ。つか、言いたいことはこれか?」


暗に違うだろうということを込めて、橘を睨んでみた。つーか、


「お前俺を茶化しに来たの?そか、相談でもしにきたの?」

「どっちだろーね?」

「ほんっとくえねぇやつ。まぁ大人の事情を振りかざしてる俺が言えたくちじゃねぇが、大人が言う大人の事情ってのは、たいていがしょーもねぇプライドとか後ろめたさだ。気にすることねぇんじゃねぇの?」

「ほんと、先生が言えたことじゃないね」


うっせぇよ。


「でもまぁ、そう簡単に崩れもしねぇのが大人の事情ってやつだけどな。まぁ、頑張れや。教育実習生の片岡と大恋愛中の橘君よぉ」

「うぇ!?なんで知ってんの!?」

「なーんでだろうねぃ」


やっぱり俺にはこうやって人をからかって過ごしている方が、あってると思うんだ。いつまでも、こうやって。




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