trick or treat. ※お菓子はいらないのでいたずらします。(1)
「~~~♪」
朝から上機嫌な美弥。
「……はぁ、」
朝から不機嫌な私。
2人で並んで教室に入る。教室はいつもと違って、文化祭のために装飾されている。扉の前には何で作ったのか、でかいパンプキンが置かれていて、周りの壁には蔦がわしゃわしゃと巻きついている。そして、廊下にはパンプキンから派生したのだろう、かぼちゃの馬車が模造紙で丁寧に作られている。
‥これコンセプト違わない?
「いつまでため息ついてんのよ。もういい加減腹くくりなさいよ!」
「そんなこと言ったって」
なんで私だけ2着も着なきゃなんないわけよ。しかも1着ドレスだし。もうやんなっちゃう。
「あ、やっと来た!2人も控室入ってちょうだい!」
入ってちょうだいと言っておきながら、私と美弥の手を引き、控室に連れて行かれる。部屋に入ると、もうどれが誰だかわかんないほどの、変わりよう。
「化け物ばっか、」
「こら!女の子なんだから化け物はないでしょ!」
いやいや、だって魔女にデビルに吸血鬼にミイラ男まで、あ、女か、いるんですけど。これのどこが化け物じゃないって言えるんだ。
「2人も化粧落としちゃって!こっちでメイクするから」
万全体勢で待ち構える衣装係にため息を投げかけ、私は言われた通り化粧を落とした。部活以外ですっぴんになるなんて初めてかもしれないなんて考えながら丁寧に落とし、椅子に座らされる。あとはもう、衣装係に任せるしかなくて、嫌々と言いながらも、学園祭の準備は着々と進んでいった。
「最後は、」
はい、と渡されたカラコンを目に入れて、きれいな金糸のウィッグをかぶる。なぜか私は個室で準備するように言われていたから、周りにはメイクを担当した子しかいなくて、私を見て感嘆ともとれるため息をこぼしていた。
「誰これ、」
初めて見た鏡に映っていたのは、まぎれもなく別の人間で。だけども、それは疑いようもない自分で。自分でもこれが自分だなんて信じられるわけがなくて。化粧をした女の子を見ると、女の子はほほを少しだけ赤く染めた。
‥いやいやいや!ほほとか染められても私困るから!
「どこからどう見ても、美男子な吸血鬼です。誰もを惹きつける、高貴で品のある感じでお願いします!」
と、言われても、だ。私に品を求めるのは大いに間違っていることは思わないのか。
「ささ、みんなのところに行ってください!みんな絶対驚きますよ!」
そう言われ、私の背中を押したその子の目はキラキラと輝いていて、まるで本物の吸血鬼を見ているかのようだった。そんな彼女に後押しされ、控室から教室に移動する。教室の扉を開けると、一斉にこっちに視線が来て、しばらくの沈黙が生まれた。
どーしようもなく、いずらい。
「…直?」
近くにいた奈津子が、私に話しかけてきた。でもその聞き方は、本当に私だと認識していないようで、どちらかというと、おそるおそるといった感じだった。
「あ、奈津子おはよ」
「やっぱり直!別人かと思った!」
「これはもう別人でしょ、ほんとに。この前より数段と男前になったじゃないの。ウィッグとカラコンでここまで変わるのね。これは女の子たちが離さないわよ」
美弥は相変わらず楽しそうだ。
「美弥もこの前より可愛くなったね。赤色の髪ってのもけっこう似合うじゃん」
そう言ってウィッグだろう赤というよりはワイン色に近い綺麗な髪に触れた。いつもならここでなにかリアクションを起こす美弥が何も言わないから、どうしたのかと顔を覗けば、耳まで真っ赤にして私から目をそらした。
「‥嘘、」
「直、そんな口説き文句は言っちゃだめでしょー。今の直はどこからどう見ても男の子なんだから!下手にその辺の女の子に同じことしてみなさいよ。みーんなゆでだこになっちゃうから」
ゆでだこって、んな馬鹿な。
「今日は女の子のお客さんが多そうだね~」
奈津子は鼻歌を歌いながら、席に戻っていく。それとほぼ同時に、私がさっき開けた扉が開いて、振り返った先には我らが担任、高坂の姿があった。私を見て目を丸くした高坂はなにも言わずに、ただ無言で私を見る。そんなにこの格好が似合わないか。
「…転入生なんて聞いてねぇぞ、俺は」
これがどこかの芸人だったら、勢いよく転げるところなんだけど。どう見ても高坂はぼけているようには見えず、本気で私だと認識していなさそう。
「違うよー!よーく見てよ。先生のお気に入りなんだから!」
「‥雪瀬か?」
「お!さすがお気に入りだとわかるもんだね」
それもどうなんだ?高坂のお気に入りなんて、そんな響きの悪いものないんだけど。
「これはまたイケメンに化けたもんだな。元がいいとここまで変わるもんなんだな」
「さらっととぼすようなこと言わないでくれる?」
「でも俺的には女の格好されてる方がよかったんだけどな?」
この変態教師め。
「まぁいいわ。とりあえずお前ら席座れ。ショート終わらねぇと文化祭もできねぇしな」
高坂はそう言ってみんなを座らせる。私もみんなと同じように席に着く。ちらりと見た美弥の顏は、少しはましになったみたいだけど、それでも顔は赤かった。




