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君の隣を先約します。  作者: ゆきうさぎ
<第6章>
42/83

青い春なんてあってないようなものでしょ。(9)

「表彰状、第1位、緑団」


緑色の鉢巻をつけた団長が、校長先生からトロフィーを受け取っている。その姿を自分の教室の窓からぼーっと見つめる。

…結局、1位にはなれなかった。時村の応援とも罵声ともとれる声を受けて、とりあえず死ぬ気で走った。これ以上はないんじゃないかってくらい本気で走った。ぐんと、距離は縮められた。ほとんど並んだと言ってもいいくらいだった。


「負けちゃった、」


ほぼ同着だったのに。相手の方が少しだけ身体が入っていたからって言われて、私たちは逆転優勝できなくて、2位のままで終わってしまった。で、それが悔しくて悔しくて、表彰式をひとりボイコット。


「さぼり3匹目めっけ」


うしろから聞こえた声を振り向く気にもなれず、私は相手が隣に来るまで待った。


「どーしてうちの団にはこーんなにサボり魔が多いんだ?」


隣に来たその人を見上げれば、さっきまできていたパーカから着替えた先生だった。


「今沈んでんの。どっかいって」

「誰よりもきっつい言い方するなー。お前、凛久より言い方きついぞ」


なんて、言葉に傷ついた素振りも見せずに、どっかいってと言ったのに、先生はどかっと椅子に腰を下ろした。その姿を見てると、もうなにも言えなくて、私は固まったままため息をこぼした。


「あ?やっぱ泣いてんだ?」

「うるさい、黙れ、茶化すくらいならどっかいって」

「凛久にもそれ言われたな。ま、あいつは消えろって言ったけどな」


わざわざ私がオブラートに包んであげただけじゃん。さすがに先生に消えろなんて言っちゃダメって思ったからだし。


「友達なら言ってる」

「そりゃ友達がかわいそうだな」

「……何の用。連れも戻しに来たわけでもなんでしょ」


窓の外の校長の長話を見ながら聞いてみる。さっき2人校舎から走って行ったのは、おそらく高坂に追い出されたサボり人。おそらくっていうか、間違いなく、時村と陽斗。


「大人びてるけど、やっぱ雪瀬も子供だな」

「なに、急に」

「勝ち負けにこだわって泣くあたりが」

「泣いちゃ悪いの」

「でもまぁ、人前でわーわー泣かれるよりは大人か」


センセー、言葉のキャッチボールをしてください。いつまでもゴーイングマイウェイしないでください。会話になってないです、これ。


「雪瀬も泣くんだな」

「脈絡ない会話ならしない」


泣き顔見られたあげく、こんなに振り回されるなんてたまったもんじゃない。


「そう怒んなって。でもさ、本当に。俺、雪瀬って泣かない人だって思ってたもん」

「人をロボットみたいに言わないでよ」


ちゃんと喜怒哀楽持ってるから。


「だからホッとしたっていうの?まぁ人前で泣かないから、泣かない人と同じなんだけどな。なんで泣かねぇの?」


高坂は「なぁ、」と言って私をじっと見た。私は一度高坂の方を見てから、目が合ったその目をそらした。目尻にたまった涙を拭って、鼻をすすった。もう一度、高坂の方を見た。高坂はじっと、私の方を見ていた。…これ、絶対目合わせてなんか言うまでそれしてくれないやつじゃん。


「雪瀬、」


高坂は私の手をつかんで自分の方に向かせた。強いまなざしを前から感じて、顏をどうしてもあげられない。


「セクハラで訴えますよ」

「…ほう?いい度胸してるな。なら既成事実作るしかないか」


はい?キセイジジツ?

先生はグイッと私の身体を自分の方に引き寄せた。座っている先生の方に私は倒れこむように引き寄せられて、落ち着いた先は先生の足の間で。


「っ、」


あと数センチで先生の唇にキスするところだった。ほんとに、寸でのところで止まって、先生からは舌打ちが聞こえてきた。


「今舌打ちついた」

「もう少し踏ん張りきかなったら、完全にこっちに倒れこんだのにな、残念」

「変態教師」

「手つかんだだけでセクハラ呼ばわりされちゃあたまったもんじゃねぇしな。同じセクハラなら楽しまねぇと」


こいつ、本当に教師か。これでいいのか。こんなんでも教師になれんのか。こんなセクハラまがいなことする変態でもいいのか。


「わかったから離してよ。変態教師に捕まることほど不安なことない」

「ひどい言いようだな」


高坂はそう言って、簡単につかんだ腕を離してくれた。強引なくせに、簡単に離してくれたから、少しだけ不思議に思って、高坂はを見た。


「なに、続きしてほしかったか?」

「望んでないから」


調子のんな。

べぇって舌を出してやれば、高坂は苦笑して私の頭を撫でた。それが気持ち良くて、私はその手をどかさずになされるままにさせた。


「セクハラはどこいった」

「これはいい」

「どんだけ都合のいいセクハラなんだよ」

「うるさい」


頭撫でられるの弱いんだよ、仕方ないじゃんか。セクハラなんて、受け取る人の気持ち次第なんだよ。受け入れれば、なんでもセクハラにならないんだから。勝手なもんだな、本当に。


「元気出たみたいだな」

「‥え、」

「男どもは泣いてようがなんだろうが、蹴ってでも外に行かせたけどな」


…蹴ったんだ。ご愁傷様。


「さすがに泣いてる女を外に追い出すなんてことはできねぇわ」

「生徒を女扱いしないでクダサイ」

「じゃあ蹴られたかったか?」

「女生徒を男扱いしないでクダサイ」

「わがままだな、おい」

「女の子は気難しいの!なんでもいいから先生は頭撫でといて!」

「……なんで上から口調なんだよ、」


そう言いながら、頭を撫でてくれる先生に少しだけ身体を預けてみたり。


「…(食われてぇのかよ、)」


なんて思ってるなんて、そんなの知るわけもなく、私はしばらく高坂に頭を撫でられていた。





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