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君の隣を先約します。  作者: ゆきうさぎ
<第1章>
4/83

お見合いですか、いいえ、説教です(4)

先生の言葉に、なんだか少し、胸がちくりと痛んだ気がした。


「別に‥まだ行きたいとこもしたいことを見つからないだけ」

「…お前もう3年生の夏休み前だぞ。お前の学力ならだいたいの大学に入れるんだからしっかりしろよ」


そんな言葉、担任に言われなくても散々進路指導課の先生に言われてきている。言われなくてもわかってはいるんだ。いつかは自分の進路を決めなければならないって。でも、なにをしたいかもわからないのに、進路なんて決められるわけがない。これはただの屁理屈だろうか。ただの私の言い訳なんだろうか。


「で、お前はどういうことだ、凛久。未定の理由を聞こうか」

「俺だってしたいこととか何も決まってないし?なんなら大学に進学するのもどうかって考えるくらいだしなー」


呆気にとられた。こんな進学校にいながら、周りがみんな大学に進学すると言っているの聞いていながら、隣にいるやつは、進学するかどうかすら迷っていたとは。


「だってさ、そう思わね?進路指導の先生はさ、大学に行けばやりたいことなんていくらでも見つかる、だから今はこの大学を目指してみなさいって言って、名の知れた大学のパンフレット渡してくれる。けどさ、大学に進んだからってやりたいことが見つかるかなんてわかんねぇじゃん。だいたい、そこでやりたいことが見つけられるんだったら、今もう見つけて猛勉強なりなんなりしてると俺は思うわけよ」


それは正論ではあるけれど、邪論でもあるような気がした。


「またそういう正論染みたことを‥」


そうは言うものの何も言い返さないところを見ると、さしずめ当たっているのだと思う。だいたい先生は、普段私たちの進路についてなにも言わない。好きなように、思うようにすればいいと、いつもそう言ってきた。


「…だから俺は嫌だったんだよ、進路希望を学年主任に見せるの、」


先生は大きなため息をついて、前髪をかきあげた。そして結んでいた青色のネクタイをぐいっと緩めてシャツのボタンを2つはずした。その仕草が半端なく色っぽかったのは、先生が年の離れた人だからなのだろうか。


「え、これ増田も見たの?」


増田、とはこの学年を束ねる学年主任であり、この高校と自分の知名度を上げようと日々奮闘している厄介な先生のことだ。


「本来は凛久は桃井先生が指導しなきゃならねぇのに、俺とお前が従兄弟だってどっかから情報を得たみたいで、俺に押し付けてきやがった。まぁ、雪瀬のことで話をしろって言われたのもあったけどな」

「…え、先生たち従兄弟なの?」


初耳なんですが。

私は先生と美少女の顏を交互に見る。従兄弟だから当たり前と言えば当たり前なのだが、似てない。共通点は顏がいいということぐらいだ。


「あ?知らなかったのか?俺と凛久は従兄弟だよ」


そういわれて合点した。今朝から今の今までどうしてこの美少女のことを名前で呼び、この美少女もこんな態度をとっているのか。


「まぁ、ばれたらばれたでいろいろと厄介なんで人には言ってないけどな」


なんてことを言ったが、じゃあ今さらりと言ってもよかったのだろうか。もしかして、すんごい口軽いんじゃないだろうか。


「てかこいつ誰?朝からずっと思ってたんだけど」

「あ、私もずっと思ってた。あんた誰?」

「……お前ら他人に興味を示さないにもほどがあるだろ。なんで隣のクラスなのにお互い顔も名前も知らねぇんだよ、おかしいだろ。雪瀬、こいつはさっきも言ったが俺の従兄弟の時村凛久。こんな顏だが正真正銘の男だ」

「こんな顏は余計だ」

「で、凛久、」


あ、先生ガン無視。


「こいつは俺のクラスの雪瀬直。こいつもこんな顏してるが正真正銘の女」


だから余計だっつの。


「で、お前ら2人ともいつも朝っぱらから問題を起こす問題児ってわけだ」


説明をし終えた先生は先ほど私たちの前に出した進路希望調査の紙をシュレッダーにかけるとさっきまで座っていた椅子に座りなおした。

‥いいのだろうか、シュレッダーなんかにかけちゃって。あれ、絶対あとで増田に怒られるんだ。


「なんでお前らそう朝から血の気盛んなんだ?」


低血圧の俺にはわからん、というが、こっちだって朝は静かに過ごしたいものだ。誰も好きであんなことをしているわけではない。


「兄貴にはわかんねぇよ。鬼気迫るがたいのいい男どもに朝から追いかけ回される俺の気持ちなんて」


うん、想像しただけでもおぞましいな、それは。


「俺からしたらいつも女どもに追いかけ回されてるあんたの方がよっぽどましだと思うね」

「女も女でなかなかに鬼気迫るものあるよ?女の子のあきらめの悪さ、すごいからね?つーか、中には男も混ざってるし」


ちょっと男女の比率が違うだけで条件は一緒だ、うん。鼻息荒い男どもか地の果てまで追い続ける女どもか。‥どっちもどっちだな。


「よかったな、気持ちが分かち合える友達ができて。さ、友達もできたところで仕事にかかろうか」

「「仕事?」」

「当たり前だろ?俺が本来ならこれにあててる時間をお前らの進路指導に割いたんだから。ほらこれお前らでパソコンに入力しちゃって」


ぽいと渡されたのは、全校生徒の半分のもう半分の名簿。つまりは全校生徒の4分の1の名簿。と、綺麗な数字で書かれた中間考査、抜き打ちテスト、小テスト、期末考査の点数の一覧表。


「じゃあ俺職員室のほうにいるから、終わったら呼んで」


先生はひらひらと手を振って部屋から出ていく。その後ろ姿を見送ったあとに、ぱらぱらと紙をめくるとみんなの点数が記載されている。


「…いいのかこれ」

「いやだめだろ」

「ですよねー‥」


でもやるしかない私たち。私と美少女、もとい時村はパソコンに向かって無言で入力を始めた。

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