青い春なんてあってないようなものでしょ。(6)
甘い甘い、この上なく甘いひと時を元彼と過ごして、団のテントまで戻る。しかも一緒に。周りからなんでだ、どうしてだと言われても、それは団が同じだからとしか言いようがないわけで。そこをわかってきゃーきゃー騒がないでほしい。だいたい、甘いひと時を元彼と過ごすのもどうなんだって話なんだけど。
「あんたたち別れたあとでも騒がれてんの?」
テントに戻った私たちに声をかけたのはほかでもない美弥なわけで。顔は明らかににやついていて。どう見ても今の状況を楽しんでいた。‥やっぱり友達、考え直した方がいいのかもしれない。
「あ、それともより戻したとか?」
「戻してないよ」
「え、そうなの?なんで?谷口君それでいいわけ?」
おっと。なんでそこにこいつが出てくる。まさかとは思うけど、美弥って陽斗がまだ私のこと好きなの知ってた?
「別に付き合うつもりはないよ。直って鈍感だし」
「あーね、そういうこと。なーんだ、やっぱり直ってそうなんだ」
私の知らないところで会話は続いていく。話題は間違いなく私なのに、話についていけないのはどうしてだろうか。こういうの本当にやめてほしい。
「谷口、」
「時村か。どーした?」
「借り人の招集かかってる。お前も確か出るだろ」
陽斗に話しかけた時村はなんだか少し機嫌が悪い。さっきまでは全然そんなことなかったのに、今はむすって可愛い顏が台無しになってる。
「美弥、時村なんであんなに機嫌悪いの?高坂にいじめられた?」
「まぁそういう年頃なのよ」
「どういう年頃だよ、それ」
「青い春を過ごしてるんだからいいじゃない」
「…なにそれ。青い春なんてあったかな、」
「そうね、あんたはどこかに落としてきたかもね」
はぁ、なんて物憂いなため息をこぼして美弥は借り人競争に出る人が集まる場所を見つめた。美弥の目線の先を同じように目で追えば、ひときわ目立つ2人の姿があった。
「いーなー‥やっぱり私も借り物出るべきだったかなー」
「あんた、さっきから思ってたんだけど、借り物じゃなくて借り人だからね。借りるのはものじゃなくて人!なんで2年間も同じ競技やってて覚えらんないのよ。それに、あんたは借りる側じゃなくて借りられる側なんだから、ここで大人しく座ってなさい」
美弥にそう言われて、私は座りこそはしなかったものの、大人しく借り人競争を見ることにした。ピストルの音がして、昼いちの競技が始まったことを知らせる。走者はいくつかの障害物を越えて100メートルの距離を走り、白いボックスのところまで行く。その箱からお題が書かれた紙を1枚引いて、自分の団の中からそのお題に沿った人を借りて戻るという単純なルール。ただ、問題はそのあとにあって、走者がゴールしたあとに、紙と借り人が一致しているかどうか、生徒会の審査が入るのだ。この時、たまにお題に「好きな人」とかが含まれており、学園名物・全校生徒を前に大告白なんてものが行われたりする。
「あ、次、谷口君みたいよ!」
美弥の言葉に顔を上げれば、確かに陽斗がラインにいて、クラウチングスタートのポーズを静かにとっていた。ピストルの音が鳴って、陽斗は走り出す。誰よりも速くて、誰よりもきれいに走るすがたに、また惚れそうになっているじぶんがいることに気が付いた。
「はー‥やっぱかっこいいわ」
なんて言葉を漏らしてしまうほどだ。
「より戻しちゃえばいいじゃない。谷口君だってあんたのことまだ好きなんだし、あんたが言えば問題ないじゃない。なにをそんなにこだわってんのよ。あんないい男、その辺に転がってないわよ」
「わかってるって。でも、私も陽斗もわかってるから。今以上の関係にはなれないことくらい。なったとしても、あの時となにも変わらないってこと、気付いてるから」
「ほんと、お前って無駄に大人びてるよな」
「だよねー‥って、先生!?」
なんでこんなところにいるの!?ていうか話聞いてたの!?でもって美弥は!?
「加藤なら借りられた。だから代わりに話聞いてやってんだ」
「そんなの頼んでないんですけど」
「なんで雪瀬ってそんなに大人びてるかな。もっとガキっぽくてもいいのに」
「だからもうその話いいです。ていうか余計なお世話です」
「もっと馬鹿みたいに真っ直ぐでがむしゃらでいいんじゃないのか?そんな見切り早くつけちまったら、本当に手に入れたいものも手に入らなくなるぞ」
出た、高坂の必殺技・無視、からのゴーイングマイウェイ。聞く耳持たずってやつだ。
「ガキはガキらしく、もっと無頓着で無茶苦茶で格好悪くていいんじゃねぇの?そんな大人の真似事みてぇに、いろんなもん我慢して、なんでも知ってるみたいにふるまうよりか、よっぽどいいんじゃねぇの?」
「‥先生がいろんなもの我慢してるように見えない」
ていうか、どっちかっていうと、先生我慢してないじゃん。それって先生がまだ子供だってこと‥?
「余計なことは考えんな。とにかく、雪瀬はもう少しガキっぽさを身につけろ。大人の真似事なんかしたってろくなことねぇんだから」
「そんなこと、言ってられる年でもないよ、私」
「はー‥だからガキじゃねぇって言ってんだよ。後先見たって、これだけはめ外せる時なんてないんだからよ、もう少しわがままに生きたっていいなじゃねぇの」
「でも先生みたいな大人になりたくないもん」
「てめ、人が諭してやってんのに」
そんな安売り宗教、こっちから願い下げだ。




