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君の隣を先約します。  作者: ゆきうさぎ
<第6章>
38/83

青い春なんてあってないようなものでしょ。(5)

「よーし、みんな今日は頑張るわよー!!」


美弥が団長を押し切って仕切っている、そんな朝から始まった体育祭。私たちの団は始まりこそ好調だったものの、途中からその勢いも停滞して、今は3位に居座っている。


「もう少し頑張らないとだめね」


そう感じながら迎えた昼休み。順位は相変わらず3位で。1位や2位との差はそんなにないんだけど、どうしてもこの差を埋められないのだ。みんな二枚目なんだから。


「頑張るったって、この後にある種目って言ったら選抜のものばっかでしょ?あとは借り物とか」

「そーなんだよねー。選抜って得点高いし、みんな選りすぐった人ばっか出してくるからなかなか勝てないのよね」


当たり前だ、それが選抜ってもんでしょーが。つか、私たちだっておんなじだし。選りすぐって出してんじゃんか。


「お、こんなとこにいたんだ」


窓に寄りかかって座っていた私の頭から降ってきた声に耳を傾ければ、時村と高坂がいた。学校ではなかなか見ないツーショットだ。また鍵でも忘れたんだろうか。


「え、てか探されてた?」

「谷口がな」

「‥谷口君が?」


私を?なんで?そんな捜されるようなことしてないんだけどな。なんだろーか。


「行くの?」

「えー‥そんな捜されるようなことした覚えないしなー。わざわざ私の方から行くのもどうかと思うんだけど。でもまぁ行ってみる」


本当はあんまり行きたくないんだけど。なんていう気持ちはしまって、椅子から立ち上がる。その様子を3人とも見ていて、「なに?」と教室を出る前に聞いてみた。


「俺、どこにいるか知らねぇよ?」

「ああ、それなら大丈夫。いるとこわかってるから」


そう言ってから教室から走った。

懐かしい感覚なような気がした。あの時は、まっすぐ、お昼を持って、あるいは鞄を持って、彼のいるあの場所で走って向かった。彼に会いに行くこの感覚が好きで、早く会いたくて、よくあの場所まで急いで行った。向かったのは、人がはけた後のグラウンドで。その先にある部室等の、その上にある小さな小さな屋上とは呼ぶには小さすぎるそのスペースに、彼はいつもひとり寝ていた。うまいこと影に入って、それでも出てしまった足や腕が真っ赤になっていたこともしばしばだった。


「ビンゴ、」


身軽にその場所に行けば、彼はあの時と同じように影に入って眠っていた。その寝顔はあの時となにも変わっていない。とてもきれいな、それでいてあどけない彼の寝顔。この顏を見るのがすごく好きで。

‥そして、


「やっと来た、」


この寝起きの掠れた声で、寝ぼけ眼で私を呼んでとらえる瞳が、たまらなく好きだった。そう、あの頃の私は、彼に、谷口君に、谷口 陽斗(たにぐちはると)という男に、全力で恋をしていた。


「用があるなら自分から来なさいよ」


こんな炎天下の中呼び出して、どういうつもりだと聞いてやれば、彼は大きなあくびを返した。


「起きたら探しに行こうと思ってた。来たのはお前の勝手だろ」


彼は、こういう男だった。クールな外見を裏切らない、そんな性格。一度、どうしてそんな冷たいんだと聞いたことがあった。彼はその時、中途半端な優しさは余計に傷つけるだけだと、そう言った。まぁ、だからと言って、冷たい態度とって、こんな言葉浴びせなくてもいいと思うんだけどね、私は。きつい言葉を言って女の子に泣かれるのも嫌なくせに直そうとしないって、どうかとおもうんだよね。ただのわがままじゃん、それ。


「起きたらって、あんた私が来るまで起きた試しなかったじゃん」


一度、行く予定をしていたが、部活の話し合いがあってここに来れない時があった。申し訳ないなんて思いながら、部活が終わって帰るときに謝ろうとしたらいっこうに校門に来なくって。まさかと思ってここにこれば、静かな寝息を立てて寝てるこいつがいた。それでよくもまぁ、そんなことが言える。


「お前と別れてからはちゃんと起きるようになったよ。授業日数とか足りなくなるし」


…別れてからは、か。

自分で言ったのに、なんだか相手の言葉に傷ついたりして。私って馬鹿だ。


「なんでもいいからこっち座れば?お前、日に焼けるの嫌ってただろ」


そんなぶっきらぼうな優しさが好きで仕方なかったなんて、今になっても言えない。

私は言われたように、日陰に入って腰を下ろした。が、ここで問題。こんな炎天下でちょうど日は真上にあって、影なんてものがその辺にあるかと言われればないわけで、たとえあったとしても小さいわけで、どーしてこんな暑い中、影に入るためだけにくっついて座らなきゃならんのだ。それも別れた男と。


「……で?何の用?人をこんなとこまでこさしといて、なにもありませんでしたなんてそんなオチいらないからね」


そんなことされたら殴っちゃうかもしれない。


「俺がそんな冗談言うタイプに見える?」

「暑いと人って何するかわかんないから」

「その辺の気違いと一緒にすんな」

「で?なんなの。言わなきゃ戻るよ?」

「‥‥……」


えー‥なんでそこで黙るの。


「あのさ、」

「うん。」


なんでもいいから早く用件を言え。暑い。溶ける。気化する。


「俺、やっぱお前のこと好きだわ」


なんだよ、用件って。私が好きってそんだけかよ……って、


「はい?」


お前のこと好きだわって。好きだわって。なに、言ってくれちゃってんの、この人。これも暑さのせいですか。


「…自分からフッといて何言ってんの、」

「だよなー。そう言われると思ってた」


谷口君は掠れた声で笑う。その横顔はやっぱり綺麗だけど、どこか寂しそうだった。そんな顔しないでよって言いたいけれど、口から出る言葉はそんなに優しくない。


「別に付き合ってなんて言わねぇよ。ただ、まだ好きだって伝えたかっただけ」

「なにそれ、ずるいじゃん。あの時、なんにも言わずに別れたいってだけ言ったくせに。どんだけ辛かったか知らないでしょ、」

「うん、ごめん」

「ごめんじゃない。なんでそんなとこだけ中途半端なわけ」

「でもさ、直のこと嫌いになって別れたわけじゃなかったから。だからさ、俺のこと避けないでほしいんだ」


…あれ、ばれてたの。


「あんなあからさまな避け方されたらちょっと傷つくな、俺でも」


だから、そう言って、谷口君は私の頭をそっと撫でた。いつにもましてその優しい手つきに大人しく撫でられてしまう。


「たに、「陽斗」‥え、」

「陽斗でいい」


いや、さすがにそれは遠慮したいんですけど。周りの女子からの目がすっごくすっごく怖いので。陽斗なんて呼んだ日には血祭りにあげられそうなので。


「呼ばなきゃキスするって言っても?」

「相変わらずせこいっつーかずるいっつーか」

「だってこうでもしなきゃ直してくれないんだもん」

「……ばか陽斗」

「ん、」


陽斗は満足そうに笑って、私のほほにキスをした。

…しないって言ったじゃん、この嘘つきやろう。






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