青い春なんてあってないようなものでしょ。(3)
「つーことで、雪瀬。お前今から面談。そこ座れ」
「なぜ!?」
高坂は座れと言っておいて、ぐいっと腕を引っ張って引いた椅子に座らせた。うーん、ビバ強制。
「あ、先生これ。さっき順番決めたから受け取っといて」
はい、机の上に紙を出すと、先生はその紙を手に取って目を通した。上から順番に名前を見ていって、下までいったときに、あるところで止まってちらりと私を見た。
なんだよっ!
「雪瀬2回も走んの?」
「あー‥それね。そ。16人必要なんだけど、15人しかいなくって。お前が走れって言われた」
男子が走った方が断然速いと思うんだけどね。谷口君とかすごい足速いしさ。でもまぁ、しおには逆らえないよね、やっぱ。
「ふうん。で、凛久にバトン渡すんだな」
「そ。時村アンカーだからね。盛り上がりはすると思うよ」
「盛り上がりすぎるんじゃねぇか、これ。ま、問題さえ起こさなかったら俺は何してくれてもいいけどな」
「放任主義」
「寛大って言え」
「よく言い過ぎでしょ」
どんだけよく言うつもりだよ、この先生は。
「で、本題だ。雪瀬、お前志望校どうするつもりだ?もう秋なんだけど。そろそろ決めねぇと、このままいくと雪瀬ニートだけど」
「ニートって言うな。ちゃんと働くし。フリーターだし」
「いばるな、ばか。進学校で、そんだけ頭が良くてフリーターなんて、その辺のクズとなんらかわんねぇぞ。大学いかねぇなら、ちゃんと就職しろ。でなきゃ俺が卒業なんかさせねぇ」
いつになく真剣な顔をして高坂は言った。なんだか、久しぶりにそんな表情を見たような気がした。いつも、授業中でも茶けてるくせに。先生ってずるい。
「残念ながら、高校は卒業は出来ちゃうんだな」
「2学期の国語の成績やんねぇ」
「外道か」
「なんとでも言え。そこまで言ってんだ。雪瀬、そろそろどっちかに決めろ」
「……時村は?」
ふいに口から洩れた言葉にはっと高坂を見た。目が合った高坂は、なんとも複雑な表情をしていて、なにを考えているのか読み取ることができなかった。
「あいつは‥多分このままいったら進学するんじゃねぇかな。まだわかんねぇし、あいつのクラスの担任が何て言うかだけどな。でもまぁ、俺がニートやフリーターなんてさせねぇし、そんなもんするくらいなら家から追い出すし」
高坂は私じゃない、もっと遠くを見ながら言った。時村だって、進路が全く決まってなくて、屁理屈を並べていた。将来のことなんてわかんないじゃんって言って。あれ、夏休み前の話なんだよね、よくよく考えれば。成長してないなぁ、自分。
「で?今のところどう考えてんだ?」
「どうって聞かれると正直困るよね。あの時と何にも変わってないもん」
「変わってないんじゃなくて、考えないだけだろ」
ごもっともです。なんか、全部見透かされてるみたいで嫌だ。
「少しは考えたよ。美弥にもどーするんだって聞かれたし。でもさ、考えたって答え見えないんだよね。やりたいことも、叶えたい夢も、行きたい学校もないんだもん」
「まさしく宝の持ち腐れだな」
「それ、美弥にも言われた」
あんたなら、ちょっと手を伸ばせば、なんだって手が届くのにねって。どう足掻いたって手が届かない人だっているのにって。でも仕方ないじゃん。したいこと、見つからないんだもん。
「将来の夢もないのか?」
「ないね」
「即答かよ。もう少し悩めよ。女の子だったら、保育園の先生とか美容師とか言いそうだけどな」
「そりゃ言う子だっているよ。美弥はジャーナリストかカメラマンになるんだって言ってたし」
でもそれって、将来設計していったら、安定とかしないじゃん。って美弥に言ったら、安定か自分のやりたいことのどっちかを取るってなったら、絶対にやりたいことのほうを取るって言い返されたんだよね。
「どうしてもね、安定を求めちゃうの。一時は安定を求めて公務員かなって考えたよ?でもさ、最近公務員ですら安定じゃないでしょ?なら、なにになったって私が求めてる安定なんてないんじゃない?そう考えたらさ、なんでもよくなったっていうか、どうでもよくなったっていうか。別に堕落した人生を歩みたいなんてこれっぽっちも考えてないけどさ、どうしてもやる気がでないんだよね。見よう見真似でみんなと同じように受験勉強はしてるけどね」
「お前腐ってんな」
「それは言い過ぎでしょ」
「大学行ってみなきゃわかんねぇぞ?」
「行ったらやりたいことが見つかるって?それ、少し前も時村言ってたけどさ、大学行って簡単に見つかるくらいなら、もうすでに見つけてるんじゃないの?」
「雪瀬といい、凛久といい、なんでそんなにひねくれてんだ?もっと物事素直に受け止めとけば楽なことたくさんあっただろ。じゃあ、わかった。今志望校を決めろなんて言わねぇ。だから進学するのか就職するのか、それだけ決めろ」
究極の2択ですね。
「そんな悩むようなことじゃねぇだろ。どっちするんだ?」
「…じゃあ‥進学」
「進学でいいんだな?」
「いいよ。まだ遊びたいし」
「こら。大学は遊ぶ場所じゃねぇぞ。俺の教え子に落ちこぼれなんぞいらねぇからな」
「落ちこぼれって‥まぁ、せいぜい頑張りますよーだ」
本当によかったのか?なんて考えだしたらきりがないからだけど、どこか満足そうな高坂を見てると、なんだか、少しだけ、ほんのちょっとだけ、むかつく。




