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君の隣を先約します。  作者: ゆきうさぎ
<第5章>
32/83

お化けが光に弱いなんて誰が言った(7)

「悪いな、風呂まで借りて」

「いいよー。パンツ、乾いてたー?‥って、」


お風呂から上がってリビングに入ってきた時村をキッチンから出て見やれば、上半身裸で、肩にバスタオルをかけて立っていた。頭からかぶっているため、少しだけ伏せめがちになっているせいで、長いまつげが強調される。今日散々見てきた、麗しく逞しい身体は、やはり改めてみると赤面ものだ。


「あんたなんて格好で入って来てんのよ!?」


投げつけたクッションは、タオルで前が見ずらくなっている時村の胸あたりにあたって床に落ちた。


「あ、悪い。ついクセで。ってか別にいいじゃん、今日飽きるほど見たでしょ」

「私があんたをずっと見てたみたいな言い方しないで!」


見てたけど!

なんならその体と顔で勝手に遊んでたけど!


「え~、けっこう熱い視線感じてたけどな~?」

「自意識過剰なのよ!なんでもいいから服着てよ!でないと追い出すわよ!」

「追い出されたら俺捕まっちゃうんだけど」

「あんたなんて捕まっちゃえばいいんだ!」


お縄を頂戴されちゃえばいいんだっ!


「‥てかさっきからなんか甘い匂いするんだけど、なんかしてたの?」

「甘い匂い‥て、ぁあ!」


そうだ、私ったら、こんな奴のせいでオーブンの前離れちゃったじゃない!焦げたらどうしてくれんのよ!

半ばけっこう無理やりに時村にせいにしつつ、私はキッチンにあるオーブンをそっと覗きこむ。ふわっとふくらんでいるオーブンの中にあるものにホッと胸をなでおろしていると、隣からにょっと顔が出てきて、オーブンの中を覗いていた。


「なに作ってんの?」

「秘密ー。もう2分くらいで出来るから、出来てからのお楽しみ!さ、焼きあがるのもすぐだし、お酒でも選ぼうか」


私は作ったつまみのうち、温めなくちゃならないものを温めて、もう一度机の上に並べていく。居酒屋並みによくできたつまみだと、我ながら感嘆していると、オーブンが焼き上がりを知らせた。その音に用意していた紙を敷いたバスケットに鉄板に並ぶそれらをとんぐで優しく入れていく。ほのかなメープルの香りが鼻をかすめて、甘い匂いが部屋いっぱいに広がった。


「おまたせー」


がさっとバスケットを置けば、時村はバスケットの中を興味津々とばかりに覗いた。


「なにこれ?」

「知らない?スコーンっていうお菓子。本当はチョコチップとか入れて作った方がおいしいんだけど、今日はチョコチップなかったからメープルとナッツで作ってみました」


と、解説して、まだ熱々のスコーンを手に取ってパクリ。やっぱりあったかいうちに食べた方がスコーンは美味しい。うん、上出来。


「食べてみ?」


食べさしだったけど、時村に渡せば、時村は少しだけ戸惑ってからスコーンをかじった。口元についた食べかすを舌でぺろりと舐めて出来立てのスコーンを味わう。


「あ、うまい。もうちょっと甘いかと思ってた」

「でしょ!男の子に合わせて、ちょっと甘さを控えめにしてみたの!よかったぁ、成功して」


よし、これでうまい酒が飲める!

私はてきとうにお酒を取って缶を開ける。それにつられた時村も手前にあったチューハイをあけて手に持った。


「これ、なんて言うべき?」


乾杯の言葉、どうしようか。


「んーと、じゃあ二次会楽しみましょう?」

「2人だけどね?」

「でもまぁ二次会には変わりないだろうが」

「そりゃそうだけど。こんなことなら、始める前に美弥くらい声かけとけばよかった」


あいつのことだから、呼んだらすぐにでも来ただろうに。…いや、でも逆にいない方がよかったのか?あいつに変な情報掴まれたらこっちの身が危ないか。


「まぁ、どんだけ飲めるかわかんないけど、とりあえず、乾杯」

「ん、乾杯」


かんっと音が鳴って、お互いののどに微炭酸のそれを通す。少し前に感じたのどが焼けるような感覚を再度感じて、それを流すように、自分が作ったおつまみたちを次々と口の中に入れていく。つまみがあるとこんなにも酒が進むのかといいたくなるほど、酒の摂取量は増えていく。頭もだんだんぼーっとしてきて、これが酔うってことなんだと、回った頭で意外と冷静に考える。


「雪瀬、お前ちょっと飲みすぎじゃね?お茶か水飲むか?」

「‥ん、いい。だいじょぶ、」


そう言ってつかんだのはなんだったのか。手の先のものに視線を落とすと、それは私以外の指で。その指から先を上に追っていけば、私を驚いたように見る時村と目が合った。


「……?」


小首をかしげて時村を見れば、あからさまに顔をそらされた。ちょっと傷つくんだけど。


「なんつー顏してんだよ、///」


時村が口元を手で覆いながら何かを言ったみたいだったけど、そっぽを向かれている状態で、なにも聞き取れなかった。


「欲情させんな、ばか」


今度はこっちを向いてそう言って、時村は私のおでこにでこぴんをした。スリッパじゃないだけまだましだけど、それでも痛いものは痛い。


「~~~~~~~っ!」

「手加減なんてしてないから痛いだろ」


ふんって鼻で笑いながら、時村はチューハイをぐいと飲み干した。いい飲みっぷりだ、なんてことを考えていたら、急に体が宙に浮いたような気がした。いや、身体が宙に浮くわけないじゃん。


「って!?時村あんたなにしてんの!?」

「っせぇ。耳元ででかい声でしゃべんな。俺だって酔ってて声響くんだよ。でもって暴れんな。落とすぞ」


いや、落とすって!?ここ階段だから落とされたら困るんですけどぉ!?ていうか、なんで私、お姫様抱っこされてんのぉお!?


「お前このままいったら下で寝そうだったし。それにそれ以上酒飲まれても厄介だし、な」

「だからってこんなの!」

「だーかーら、うるさいって言ってんだろ。ちったぁ学習しろ。お前の脳みそは飾りか」

「うわ、毒舌」

「改まって言われると照れるな」

「ほめてない!」

「本気で落とすぞ。つーか雪瀬部屋どれ。自分で開けて」


時村にそう言われて、私は自分の部屋まで案内して扉を開ける。部屋、きれいにしといてよかった、なんてちょっぴり考えてみたり。

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