表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君の隣を先約します。  作者: ゆきうさぎ
<第1章>
3/83

お見合いですか、いいえ、説教です(3)

放課後。

グラウンドには部活動を行う生徒の声が飛び交い、校内では吹奏楽部が練習をしている。教室にはみんな帰っちゃって、私だけが残されていた。


「終わったか?」


私の席に座りながら、先生は肘をつきながら言う。その姿にかっこいいななんてことを思いながら、先生が書いた字を消していく。さすが現代文の先生というだけあって、字はすごくきれいだ。


「先生、筆圧濃くない?」


黒板、チョークのあと消えないんだけど。これ、3往復目だよ。


「そこまでしねぇと後ろまで見えねぇんだよ。だろ?」

「あー‥まぁ確かに、そうなんだけど‥」

「だろ?そうとわかったらとっとと消せ」

「はいはい、わかりましたよー」


私は言われたとおり、黒板に書かれている字を消していく。全部消し終えたところで、汚くなった黒板消しをクリーナーできれいにして机に戻った。


「なに?」

「雪瀬ってさ、惜しいよな」

「…は?」


なにが惜しいんだ。そしてなんでそんなにまじまじと見られなきゃならない。そんなに見つめられても何も出ないぞ。というか、気まずいだけだからやめてほしいんだけど。


「お前男だったら相当モテてただろうな」

「余計なお世話だ」


私だって、自分が男だったらとどんなに願ったか。だって女の子にモテたって意味がない。私にそういう趣味はない。別にモテたいとかそういう思いはないけれど、どうせモテるなら男の子にモテたいものだ。


「可愛くなろうとか思わないわけ?」


それこそ余計なお世話だ。


「この図体で可愛いはないだろ」

「でもあいつ‥凛久はでかいけど可愛いだろ」

「顏がな」


主に顏がな。他は何一つ可愛くないけどな。


「あの子にかっこよさを求めないのと一緒で、私に可愛さを求めないで。だいたい、ジャニーズ系の中性的な顔、女子にしては高い身長、なんでもそつなくこなす運動神経、男以上にサバサバした性格、こんだけ揃ってて可愛いなんて言えないでしょ」

「お前よくそれ自分で言えるな」

「言えるわよ、事実だもの」


私はふんと鼻を鳴らして、先生の隣の席に座って日誌の書き出す。自分より前に日直をしている人の自由記述欄には、たいがい女子の先生への告白が書かれている。


「でも凛久は背もあるから男前にも見えるだろ」


後姿はね。


「可愛い男前とかこの世に存在しないし」


そう吐き捨てて、日誌にサラサラと今日の教室での出来事を書き記していく。特になにもない、とりとめのない一日。受験生にもなれば、少し前までばかをしていた男子でさえも、休み時間でも机にかじりついて勉強をしているのだ。


「あ、雪瀬お前は謝罪も書いとけ」

「は?」

「今日はすいませんでしたって」

「書くかボケ」


代わりにボケって書いといた。そうしたらなんか、少しだけ気が晴れたような気になった。


「よし、書けたか?」


私が日誌を閉じたのと同時に先生は席から立ち上がり爽やかに笑った。ああ、かっこいいなんて思いながら私はいすにかかっているリュックを背負った。先生に日誌を渡して帰ろうと回れ右をしたとき、私の手を後ろから掴まれた。


「お前、なんか忘れてないか?」

「へ?日誌出したじゃん…あ、」

「思い出したか。お前は放課後俺のところに来いって言ってあっただろ。まさか、忘れたなんてことないよなぁ?」


今朝は神様に見えた先生がなんだか今は悪魔に見える。

私は先生に腕をひかれながら不本意ながらも職員室へと行くことになった。コーヒーのにおいで充満している職員室に行くと、部屋の扉の前に今朝一緒に怒られていた美少女がいて、「遅い」となぜか先生より偉そうに言った。先生はそれに「悪いな、こいつがとろかったから」と、さらりと私のせいにして美少女も連れて職員室の隣の進路相談室に入れられた。初めて入る進路相談室は大学の情報ファイルで壁が埋め尽くされていた。


「そこ座れ」


先生に促されて、私は先生の正面に座って、そしたら隣に美少女が座った。先生が遅れてきたのが相当気に入らないのか、さっきからかなりご立腹だ。


「お前らなんで今日ここに呼ばれたかわかってるか?」


先生は腕を組みながら、少し怒ったように言う。怒られる理由なんて山ほどあるけれど、おそらく今朝のことで怒られるのだろう、なんて簡単に考えていた。


「な・ん・だ・この進路希望調査は?あ?」


…‥そっち?

先生は机の上に2枚のB5サイズの紙を置いて指をさす。指されたのは、なにも書かれていない空白の紙で。そういえば未記入で提出したような、という遠い記憶が頭の中をかすめる。が、これがどうしたのかと、私は紙から先生へと視線を移す。


「これがどうしたなんて不思議そうな顏してんじゃねぇ。お前もだ凛久!なにが未定だ、あ?進路希望に未定なんてあるか!?」

「だって先にあることなんだから未定じゃん」


うわ、捻くれた正論持ち出したよ。そういうの屁理屈って言うんだ。


「屁理屈言ってんじゃねぇ!なんのための希望だと思ってんんだ?雪瀬もなんで空白なんだよ?え?ちゃんと親と相談して決めて来いって俺言わなかったか?それともお前も凛久と一緒で未定か?」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ