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君の隣を先約します。  作者: ゆきうさぎ
<第5章>
29/83

お化けは光に弱いなんて誰が言った(4)

「さっきから思ってたんだけど、あんた何持ってんの?」


私がいる反対側の手に提げられた、少し重たそうな白い袋。歩くたびにがさがさいうそいつは静まり返ったこの空間ですごく存在感を示していた。


「これ?これはクーラーボックスに入ってた余った酒。みんな家に親がいるから持って帰ったらばれちゃうから持って帰れないって言ってさ。だからもらって帰ってきちゃった」

「きちゃったって、あんた教師と一緒に住んでんじゃん」


呆れた。教師と一緒に住んでるのにお酒持って帰るなんて。そんなことしたら、みんなお酒飲んでたことばれるじゃん。そんな赤信号わたりたくないんですけど。


「兄貴は反面教師だから」

「‥呆れた」


いったい自分の従兄弟をどう思ってんだか。仮にも従兄弟を反面教師だなんて。


「それに未成年でしょ。飲んだら怒られるに決まってるじゃない」

「それ、飲んでる雪瀬には言われたくない。今日バーベキューに来たやつみんな同罪だろ。一人でも裏切ったら芋づる式でメンバーすぐに見つかるぜ?」

「ていうか、よくお酒なんて買えたよね。年齢確認されなかったんだ?」

「あー、ほら、メンバーの中にひとり老け顔のやついるから。俺と違って」

「あんたは童顔すぎるのよ」


美少女なんて言われるのもそこなんだから。


「そういうお前もどっちかっていうと年上っぽい顔してるよな」

「それは私が老けてるとでも?」

「年相応って言ってんの」

「いや、言い方的に老けてるって言ってるからね?」

「綺麗って周りから言われる顏してるんだから仕方ないんじゃねぇの?大人びてるってプラスに考えとけよ」


やっぱり老けてるって言ってんじゃん。どーせ私は老け顔ですよ!


「でも本当に先生に怒られないの?」


そんな大量のお酒、さすがに冷蔵庫に入れておいたら先生に見つかっちゃうと思うんだけどな。それとも今日飲み切っちゃうとか?いや、それは無理か。


「兄貴帰ってくるまでもうしばらくあるから。帰ってくるまでに飲み切っちゃえば問題ないだろ」

「うわ、一人酒?寂しー」


なんて、そんな言葉を言わなければよかった。そう思うのは、時村の次の言葉のせいで。


「じゃあお前が一緒に飲んでくれる?」


それはまるで悪魔の囁きのような、そんな言葉で。頭の中で危険を察知して赤いランプが鳴り始める。


「いやー‥それはちょっと、」

「一人酒は寂しいって言ったのお前じゃん」


いや、確かに言ったけども。誰もだから私と飲みましょう、なんてそんなこと、これっぽっちも言ってない。あんたと飲むくらいなら、一人酒してる方が安全です。


「お酒は20からって言うし、」

「お前今日飲んでたじゃん」

「あれは周りに流されただけで、お酒飲んだのだって今日が初めてなわけで、」


案外飲みやすくて、チューハイが思った以上にすすんだのは認めるが。意外とお酒飲めるんだなんて気が付いたりもしたけども。それとこれは話が違うわけで。いろいろと理由を連ねてみるけれど、真っ直ぐ射抜かれたその瞳にはどれも諸刃なわけで。気が付けば、時村を家に上げていた。

……なーんでこんなことになったんだか。

リビングに上げた時村に、ソファに座るように言って、キッチンからグラスを2つ持ってきて机に置いた。時村とは向かいのソファに座りこんで、机に並べられたチューハイをじっと見つめた。袋からはけっこうな量の缶が出てきて、あきらかに2人では飲み切れない量だった。


「飲み切れなかった分は俺が持って帰るよ」

「まぁ、飲み切れないと思うけどね。あ、なんか食べる?あるものでよかったらなんか作るよ」


ただし11時過ぎてるから、この時間帯に食べたら太るけど。って時村が気にするタイプでもなさそうだけどね。


「そーだなー‥希望を言うと、酒のあてになるようなもんを食べたい」

「おっさんか」

「だって、ちょうどお腹もすいてきたし、けっこうがっつり食えそうなんだもん」

「太るよ?」

「いいよ、気にしてないから」


やっぱり。確かにあんたはもう少し太った方がいいよ。今に折れそうな足してるもん。……美脚だけど。


「わかったー。じゃあてきとうになんか作るからそこで待ってて」


キッチンに入って冷蔵庫を開ける。案の定、というか、なんというか、冷蔵庫には食材が山ほど入っていて、今すぐに調理しないと傷みそうなものが多かった。私はとりあえず卵を4つ取り出して器に割りいれる。


「やっぱ手馴れてるんだな」


私が片手で器用に卵を割っていく姿を見ながら、時村はつぶやくように言った。そりゃ人の家のキッチンで散々飯作らされてますからね、なんて嫌味は呑み込んで、卵をといて熱したフライパンの上に乗せた。その間に野菜室から取り出したごぼうをささがきにして、水の中に浸していく。その合間に卵をくるくるして、卵焼きを丁寧に作っていく。ホカホカと湯気をまとった卵焼きがお皿の上に並べられる。我ながらいい出来だと思った。そのあとに、なんて都合よくあったのか、鶏のもも肉を一口大に切って、下味をつけて揚げる。そのあとにごぼうもあげてから揚げを作った。あっという間に3品が出来て、ふと視線を上げると棚にあった塩昆布とペンネが目に入った。

…なんでうちってこんなにものが揃ってるんだろう。

時々嫌になる、なんて考えながら、棚にあるものに手を伸ばした。‥が、棚の中の籠の中にあるそいつらは、あと10センチほど届いていない。身長はその辺の女子よりもある方なだけに、手が届かないなんてことがあるとそれなりにショックを受けたりする。

…‥ああ、でも本当に届かない。

と、半ばあきらめた時だった。後ろから手が伸びてきて、私が取ろうとしていた籠ごと取って「はい」と渡してくれた。


「ありがと、」

「どういたしまして」


時村はふわりと紳士的に微笑んでソファに戻っていく。なんだか、その優しさにときめいてみたり。……って、少女漫画かっ!

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