お化けは光に弱いなんて誰が言った(2)
「じゃ、そろそろ行こうか」
肝試しの最終組。私と知らない男子はみんなが懐中電灯を持って進んでいった先を歩き出した。暗くて、ただ波の音だけが聞こえる。海から吹く潮風が少し冷たくて、思わず身震いしてしまった。
「怖いの?俺がいるから大丈夫だよ」
いいえ、潮風が冷たくて寒いんです。それは勘違いなんでやめてください。怖いのは当たってるけど。今は隣のあんたも怖いよ。
どれだけ歩いただろうか。砂浜に足を取られながらも進んでいくと、ようやく目的地の場所まで着く。目的地には、すでにみんなの名前が書かれていて、私は、自分たちの前に行った時村と深田さんの名前の隣に自分の名前を書いた。その隣に男子も名前を書いていく。そして、それを写真に収めて、来た道を戻る。そのために振り返ったその時。ふいに後ろに手を引かれて、そして私の手を引いた手は私から離れていき、支えをなくした私の身体は思いっきり砂浜へといく、どんっとしりもちをついてしまった。何事かと思って手を引いた男子を見ると、私をまるで肉食獣のような目で見下ろしてた。
嫌な予感は当たったのだ。
「‥‥なに、」
振り絞って出た言葉は、あまりにも覇気がなくて弱々しかった。それを怖がっていると思った男は、にやりと口元を上げた。それはあまりに不気味で、思わず顔が引きつってしまった。
「怖いか?」
「別に」
そうは言い返すけれど、いまだに見下ろされた体勢のままで私は動かない。ずっと私を見下ろす瞳を見ていると、また嫌な笑みを浮かべて私の方へ一歩近づいた。同じ分だけ離れたかったけど、しりもちをついて、おまけに後ろは海で、私の逃げ場はどこにもなかった。私の足元まで来た彼はしゃがみこんで私を見る。
「なに、」
「ほんっとにきれいな顏してんな。鳴かせたらどんな声出すんだろうな?」
「え、は、ちょ、やめ」
嫌な笑みを向けて、その体は私を押し倒した。ひんやりと冷たい砂浜が背中にあたった。ぱしゃりと冷え切った波が私の髪をかすめる。耳にはねた水が当たって、波がそこまできていることを感じさせた。しっかりと両腕を固定させられ、身体に馬乗りになられてしまって、まったく身動きがとれない。ぐっと近づけられた顔から顔をそらすとくくっという笑い声が聞こえた。
「俺たち最後だからな。誰ももうここにこねぇぜ。ゆっくり楽しもうぜ、直ちゃん」
「え、ちょ、触んないでっ!」
手を頭の上にまとめ上げられて、片方の手でしっかりと固定させられる。相手は空いた手で私の腹部をいやらしく触った。その嫌な感触に目をつぶっていると、上から声が降ってきた。
「感じてんの?」
「んなわけ、ないでしょ!とっとと上からどいてよ!」
私の声など無視して、行為は続けられる。その手はどんどん上へと行き、ふくらみにまで手を滑らせる。
「夜でも肌の白さがわかるよな」
そう言いながら、手はじらすかのように何度も谷間を行ったり来たりする。
「直ちゃんって細身の割に胸あるよね。いつも制服着てるとわかんなかったけど、こうやって水着来たら意外とね」
「やあ、触んないで!‥ん、」
手は水着の上からやんわりとそのふくらみをもんでいく。若干の力の強弱をつけて、彼は巧みに手を動かす。その刺激に漏らした甘い声に、唇をかんで我慢する。それを愉しそうに見る彼を睨みつけると、彼はまた愉しそうに笑った。
「いいね、その顏。すっげぇそそるわ」
そう言って、彼は私の水着に手をかけた。その時だった。ざっという砂を蹴る音がして、彼の後ろから声が聞こえてきた。
「なにしてんの」
それは気持ちを感じさせない、抑揚のない声。だけど聞き覚えのある声。彼が振り返った瞬間、彼は私の上から吹き飛んだ。いや、吹き飛んだというよりは、なにか鈍い音がして、そのあとすぐに重たい体が横に倒れた。軽くなった体をそのままに、前を見ると、肩で息をする時村が立っていた。倒れた彼を見る時村のこめかみには、肌寒い風があるにもかかわらず、汗が流れていた。
「と、き、むら?」
起き上がって座ったまま、時村を見れば、時村は隣で倒れる男から私を見た。男は「うぅ、」と唸りながら体を起こそうとしていた。
「雪瀬、」
名前を呼ばれて彼から目を時村に向けると、時村は私に手を差し伸べていた。私はその手を迷わずとった。その手はぐいと、時村の方に戻って行き、その手につかまっていた私の身体も同じ方向に吸い込まれるように向かう。ぼすんという効果音がピッタリくるような、そんな感じに私の身体は時村の腕の中におさまってしまった。
…ていうか私、抱きしめられてる?
「時村、てめぇ!」
起き上がった彼は、殴られたんだろう右のほほに手をあてながら、私を腕の中に入れた時村を睨んだ。
「睨まれてもなぁ。いけないことしてたの、どこの誰だって話じゃん。これ、警察にいってもいいんだよ?つかまるの、どっちだろうな?」
なんて嫌な脅し方。ちらりと見た時村の顏は勝ち誇ったようだった。その顏に見惚れてしまったのは、仕方ないと思う。だって、私を助けてくれた人の顏が、とてもきれいに見えたんだもの。




