夏に恋は必要ありません(5)
「ありがとう、榎本君」
「旬でいいよ。雪瀬って意外と喋りやすいやつだったんだな」
なんかそんなこと奈津子にも言われたような気がするんだけど。普段の私にみんなどんな印象持ってんの?そんなに悪い印象持ってんの?
「3年になって初めて同じクラスになったから、俺あんまり知らなかったんだけどさ。雪瀬って美人で男前な顏してるんだけど、すっげぇクールで何考えてんのかわかんねぇし。怖いっていうか、大人びてるっていうか」
「それ、奈津子にも言われたんだよね。名前呼ぶのも怖かったみたいなこと言われたし。美弥とばっかつるんでたからってのもあるんだけど」
そう思うと、私の世界ってすっごく小さかったんだね。
「確かにな。でもさ、高坂とからむようになってから雪瀬って変わったと思うよ」
「変わった?」
高坂と絡み始めてから?それって、私が頻繁にぱしられるようになってからじゃない?
「いい意味でだって。なんつーか、人間らしくなったっていうか、よく表情が変わるようになったっていうか。最近みんなで言ってたんだよ。雪瀬って表情あんなに変わるやつだったっけって。今日なんか、笑顔でいるから。俺、雪瀬の笑顔って初めて見た気がするもん」
いやいやいや、私ちゃんと笑ってますから。人をサイボーグみたいに言わないでよ。…あ、違うな、冷血漢か。
「普段、人形みたいなんだもん。笑ってるっていっても微笑む程度だし、今日みたいな笑顔、学校じゃめったに見ないよ」
「よく見てんなぁ」
なんか呆れるよ。
「別に好きとかそんなんじゃないよ。ただ、お前って一目引く存在だからさ。どうしても目が行くんだよな」
「あ、そ。別に好かれてもって感じだけど、言ってくれてありがとう」
「…雪瀬って変わってるよなー」
「それ、この前誰かにも言われた」
ちらりとその誰かを見た。男女入り乱れた中心にそいつはいた。隣には私に見障りだと言った縦巻きガールがいた。さっきと同じように、当たり前のことのように腕に触っている。さり気に胸を強調しているように見えるのは私だけだろうか。あれが言われるモテテクというやつだろうか。
「さすがだよなー。美少女なのに女にももてるんだもんな」
「そうだねー」
なんだか複雑になって、それくらいしか返すことができなかった。
「栗原、時村の落とすのに必死だよな」
「そうだねー。…‥て、」
さっきまで話していた声と違う声が聞こえてきた。そうだねなんて返しちゃったけど、びっくりして榎本君の方を見ると、榎本君が2人いた。
「‥ドッペルゲンガー?」
「「双子だよ!」」
あ、はもった。やっぱドッペルゲンガー。←
「ドッペルゲンガーって。君、天然?」
「あ、顏一緒だけど、雰囲気全然違う!」
「雪瀬それ失礼じゃね?本人前にしていうことじゃねぇだろ」
同じ顏なのに、本当に全然違う!
「ねぇ、どんなふうに違うの?旬ってどんな感じなのかな?」
ふわりと同じ顔をした人は言った。
「どんなって言われると困るけど‥、そーだなー…爽やかだよね。サッカーとかバスケとかスポーツがすっごく似合うっていうか。でもって、ちょっとクールな感じもするよね。人のこと言えるかって話だけど」
短髪で、クールで、切れ長の瞳で、でも笑顔は可愛らしい。絶対モテるじゃん。
「じゃあ俺は?」
「えー‥一言で言うと王子様って感じだよね。見た目、優しそうっていうか紳士的っていうか。まぁ、実際はそうでもなさそうだけど?」
ミディアムくらいの長さの髪にパーマかけてて、ふわっとしてて、同じ切れ長の瞳なのに優しそうに見える。おそらくこっちもモテる。イケメン兄弟か、くそ。
「あれ、ばれちゃってる?」
「だって榎本の双子だろ?そんなのわかるじゃん」
「え、それって俺が優しくないってこと?」
「そんなこと言ってないじゃん。でも優しそうで紳士的なわけないじゃん」
「雪瀬さんてけっこう言うね。それは見ため通りなんだね。あ、俺は旬の双子の弟の准」
旬と准か。なんか紛らわしいね。つーかどっちも榎本君じゃん。何て呼んだらいいかな?‥フルネーム?
「准でいいよ、俺のことは」
「俺も旬でいいよ。榎本って呼ばれたら、どっちかわかんねぇしな。それよか、准さっきあっちにいなかったか?」
旬があっちと指差したのは、時村がいる方を指さした。准はそっちを向いてから嫌そうな顔をした。
あ、この顏が本性ってか本音の表情なんだろうな。
「だってさー、あっち女の子みーんな時村に夢中なんだもん。面白くないじゃん」
「まー確かにそうかもしれないけど。時村はすげぇ嫌そうに相手してるみたいじゃん」
「愛美のアプローチがすげぇんだもん。あれはドン引きだぜ?見てるこっちが不快になるっての」
王子様はすっごく口が悪いようです。そしてあの縦巻きガールは愛美という名前らしい。初知り。
「深田なぁ。少し前まではお前の横にべったりじゃなかったか?」
縦巻きガールは深田というらしい。深田愛美。可愛らしい名前してるなぁ。
「それだよ。まぁ愛美みたいなのはこっちから願い下げだし、いつ言おうか迷ってたくらいだし。時村には同情はするよ」
「なら助けてやれよ」
「よく言うよ。愛美のあの肉食獣みたいな目見たら、話すのやめようって思うから」
「間違いないか。ほら、肉と野菜焼けたからもってけ」
「お、サンキュ。旬の皿は?お前食ってないだろ」
「あーと、いいや、お前ので食うわ」
なんつーか、仲良い兄弟だな。ちょっぴりうらやましいかな、うん。




