夏に恋は必要ありません(4)
「おーい!こっちでビーチバレーしよーぜ!」
海岸でビーチバレーを頭の上にあげて、男の子が私たちを呼んだ。男の子の声にみんな海から岸に向かったから、私も一緒に岸に向かった。
「俺、スイカ割りしたい」
「は?俺今ビーチバレーしようって言ったよな?」
なんとういうか、協調性のかけらもない。高校生にもなって、自分のしたいことだけ言うって保育園児かよ。
「ビーチバレーだ!」
「いーや!スイカ割りだ!」
‥そして不毛だ。
「よーし!こうなったら功利主義的考え方だ!」
うん、それ多数決だよね。なーんでそんな難しい言葉使ったのかな。
「別に時間あるしどっちもしたらいいんじゃないの?」
ふいに隣から聞こえた声にちらりと右の方を見れば、美少女が立っていた。
「あんた、空気読めないって言われたことあるでしょ」
でもって、なんで当たり前なことのように私の隣に立ってるんだ。縦巻きガールが私を睨んでるじゃないか。
「じゃあビーチバレーが先だな」
「は?スイカ割りに決まってんだろ」
不毛な争いパート2。なんなら、さっきより不毛な気がする。つーか、ほんとにもうどっちでもいい。
「よし!次こそ功利主義的考え方で‥!」
好きだな、功利主義。最大多数の最大幸福な。
「ビーチバレー、暗くなったらできないし、先にそっちからすれば?」
ああ、もう、なんであんたはそうやって‥。
「‥時村お前そっちのコート入れ!俺はこっちのコートに行く!」
ほら怒っちゃったじゃん。激怒プンプンまるだ。つーか、そんなに多数決取りたかったのか。功利主義的考えに基づいて。
「あーあ、ほんとに男子って子供なんだから。あ、はい。これ直の」
隣に来た奈津子はビーチバレービーチバレーを始めた男子を見てカラカラと呆れた風に笑った。そして手にしていた肉の刺さったくしを渡してくれた。どうやら、バーベキューの方がいい具合に出来上がってきたみたいだ。それにも気づかず、男子はひたすらビーチバレーをする。それも、6対6。明らかに数がおかしい。なにも言わなかったけど。
「ほあちょー!」
「あだー!」
「うらぁぁぁ!」
うん、お前らなんの格闘技してんだ。つーか、何の競技してんだ。
「まだまだぁ!」
「行くわよ、こずえ!」
「消える、アターック!」
「ぐはぁ!」
…‥こずえ?消えるアタック?‥アタックナンバー1?
ばかだ。こいつら間違いなくばかだ。
「みんなー!もうお肉やけたよー!」
縦巻きガールがワントーン高い声でアタックナンバー1ごっこをする男子たちを呼んだ。まぁ、みんなって言いながら、けっこう時村のこと見てたけどね。
「よし、いったん休戦だ!」
「腹が減っては戦はできんっていうしな!」
なんて言葉を言いながら、男子たちはバーベキューをしている場所まで歩いて行く。その後ろ姿を目で追っていると、ふいに自分に影ができて、そちらを見ると、ビーチバレーで汗をかいた時村が立っていた。汗をかいたせいか、なんだか色っぽく見えた。
「いかねぇの?」
時村は向こうを指さして言った。「行く」と小さく言うと、時村は「行こうか」と言って、一瞬だけ私の手を引いた。
「とき、「時村くーん!早く来ないとお肉なくなっちゃうよー?」
さっきまで向こうにいた縦巻きガールが、気付けば時村の後ろにいた。可愛らしい笑顔を振りまきながら、その子はそうすることが自然だとでもいうように、時村の手を引いた。時村は縦巻きガールにとまどいながら、ちらりと私の方を見てから、先に行ってると告げて行ってしまった。残されてしまった私と縦巻きガールは、知り合いでもないため、ただ気まずい雰囲気が流れる。私の前にいる縦巻きガールの表情はわからない。
「あんたうざいんだけど」
「え?」
「だからうざいって言ってんの。時村君の隣うろちょろしてさ。ほんと、迷惑なんだけど」
あれ、これって牽制ってやつ?
「ちょっと顔がいいからって調子に乗らないでよね。あんたみたいな男みたいな顔したやつ、時村君が好きになるわけないでしょ」
「男みたいな顏は傷つくなぁ。これでも中性的な顔立ちしてるんだけど」
ハハって、自分でもびっくりするくらい、乾いた笑い声が出た。別に気にしてなかったし、わかっていたことだけど、言葉にされてこんなふうに言われると、さすがにぐさってくる。
「時村君は渡さないから」
あんたのものじゃないくせに、なんて。
「だから彼に近づかないで」
彼女でもないのになんの独占欲だ、なんて。
「目障りなのよ」
まるで自分ならあいつの隣にいていいなんていう考えなんて。―――馬鹿みたい。
縦巻きガールは言いたいことを言ったからか、私をきつく睨んでから、みんなのところへ向かった。そのあと、少し間をおいてから私もそこに向かった。バーベキュー独特のにおいの元へと行くと、奈津子が皿と箸を渡してくれた。
「直なに飲む~?」
奈津子はクーラーボックスの中をあさりながら私に聞いてきた。
「なんでもいいよー。奈津子に任せる」
だってなにがあるかわかんないし。
私は美弥に促されて一緒に皿の中身を取りに行った。網の上にはお肉やら野菜やらが焼かれている。ちらりととんぐを持つ男子に目をやれば、屋台にいるお兄ちゃんみたいだった。
「お、雪瀬。何食べる?」
なんて聞きながら、その子は私の皿にいろいろ入れていく。私のリクエストは受け付けないらしい。ならなんで聞いたんだ。
「雪瀬、嫌いなものは?」
「あー、あんまりないよ。だいたいのもの食べられるよ。ありがとうね、えーと‥」
「榎本だよ。榎本旬」
あ、名簿で見たことある。名前の旬って字がちょっと変わってるなって思ってた子だ。こんな爽やかな男の子だったんだ。




