夏に恋は必要ありません(3)
「はぁ‥」
これで何回目のため息だろうか。美弥に強制的に渡された水着を着替えて、その姿を鏡で見ながらまたため息。
「やっぱ私センスあるわ。直、すごい似合ってるじゃん」
それ、私をほめてんの?自分をほめてんの?
美弥に渡されたのは、茶色と白色のストライプの水着。首元で結べるようになっていて、上下揃いで確かに可愛らしい。ショートパンツもあって、それは淡い紺色のデニム生地でそれも可愛い。センスは花丸だ。
「つーか、美弥また水着買ったの?」
美弥の水着姿を見て思わず呆れた声が出た。美弥はオレンジ色の水着を着ていて、セパレートなんだけど今はワンピースみたいになっていた。相変わらず、胸を強調してるみたいけど。
「去年はちょっと色っぽさで攻めるんだー!とか言って黒と白のシックな感じの水着買ったんじゃなかったっけ?」
去年の夏前くらいに画像を携帯に送られてきたのを思い出す。確かに似合わないことはなかったけれど、顔が可愛らしい美弥にはちょっと似合ってなかった。なんか、背伸びした中学生みたいな感じだった。
「去年はねー。あれはどうかしてたわ」
「どうかしてたって、」
「今年は元気っ子で可愛らしいを売りにすることにしたの!どう、こっちのが似合うでしょ?」
「‥や、似合っちゃいるけど」
「けど?」
元気っ子にその胸の強調いるかぁ?いろんな意味でアンバランスなんだけど。
「ま、いいじゃない。とにかく出よう。みんな待たせてるし」
美弥に手を引かれて一緒に更衣室を出た。視界に映った浜辺では、すでに着替えた男女が海の中に入って遊んでいた。キャッキャという声が聞こえてきて、遠くの方から美弥を呼ぶ声が聞こえてきた。美弥はその声に「はーい」と大きな声で返事をして「行こう?」優しく微笑んだ。
「高校最後の夏休みくらい、クラスとか学年の子たちと仲良くするのもいいんじゃない?絶対いい思い出になるから」
「むしろそうなることを期待するけどね」
「もう。ほんとにひねくれてるんだから」
ぷうっとほほを膨らませた美弥のほほを押して空気を抜くと、お互い笑ってみんながいる砂浜へと向かった。あまり気乗りしていなかったけど、ここにきて初めて、本気で楽しもうなんてがらにもなく思った。
「揃った揃った!お!さすが学園1の美少年だけあるな!」
それはほめ言葉だろうか。
「時村もさすが学園1の美少女だけあるよな」
それは明らかにけなしてないだろうか。美少女が男物の水着。…猥褻物陳列罪だ。
そう思いながら時村の方を見ると、周りの男子と打ち解けたのか、年頃っぽい笑顔をして話していた。体つきも、いい具合に均整のとれた体で、引き締まっていて、すごく魅了されたけど、でもなにより、顏とのギャップが半端なくて、それがかなり残念だった。だって、手で顏かくして見た身体ってすっごいいい男って感じなのに手、どけたら女の子じゃん、逆に身体かくして顔だけ見たらすっごい美少女なのに、身体見たら男じゃん。ショック!
「雪瀬さんってスタイルいいね」
ひっそり時村で遊んでいた私に声をかけてきたのは、さっき私と時村に水着に着替えるように声をかけてくれた女の子だった。名前も知らないし、急に声をかけられたからすごく反応に困った。そんな私のことを察してか、女の子は「成瀬だよ」って言ってくれた。
「成瀬さん?」
「あ、奈津子でいいよ」
奈津子は私にも美弥にもないような笑顔でふわりと笑った。
「私のことも直でいいよ」
「本当に?」
奈津子は驚いたように答えた。その驚きに驚きながら首をかしげると、奈津子はなんでもないように理由を話してくれた。
「雪瀬さんのこと名前で呼んでるのって、この学年で美弥だけじゃない?だからみんな雪瀬さんのことを名前で呼んでいいのは限られた人だけなんじゃないかって言ってて。それで気軽に呼べなくて」
なんじゃそら。確かに私を直と呼ぶのは美弥だけだけど、それは美弥が中学からの付き合いっていうだけあってそんなプレミアがつくものじゃない。バスケ部の子は私のこと、ゆきって呼んでたけどさ。
「そんなの気にしなくていいよ」
むしろ気にされるとこっちが困ります。
「そ?じゃあ直って呼ばせてもらうね」
奈津子は笑って、そしてなんだか嬉しそうだった。そんな奈津子を見ていたら、こっちまで嬉しくなってしまって、私もつられて笑った。
「お、直、新しい友達できたんだ?」
笑い合っている私たちの姿を見た美弥は、にやにやしながら私と奈津子の間に割って入った。
「あんたに関係ないでしょ」
「あー、照れてるー。かーわいー」
「ちょ、美弥、」
「奈津子、こいつ見てたらわかると思うけど、けっこう不器用な子だから。友達なんかになったら苦労するよ?けっこう口悪いし、きついし」
「‥あんた私のなに知ってんだ」
「え、全部?」
「それ、私より知ってない?」
なんだか怖いです、美弥さん。最近ますます怖いです。
「ま、私、情報通だから、基本的になんでも知ってるよね」
「美弥って敵に回したら厄介なタイプだよね」
奈津子はのほほんとした口調で言って笑った。言葉自体は、まったくのほほんとしてなかったけど。




