お見合いですか、いいえ、説教です(2)
「と、言われましても、こいつらも一応受験生ですから。勉強させないと困るんですよ」
先生は笑いながら、鬼教官を見る。その笑顔はどこか勝ち誇ったかのように見えた。
「それとも、工藤先生はこいつらの遅れた分を指導してくださるんですか?」
うわ、痛いとこつかれてやんの。ざまぁみやがれ。
「雪瀬もいい加減にしろ。お前が問題を起こすたびに俺が上から叱られるんだぞ」
あ、怒られちった。
「とりあえず、工藤先生は職員室へ行っていただけますか?先ほど教頭先生が捜してらしたので」
先生は嘘か真かそんなことを言って、このサウナから鬼教官を追い出すと正座する私と美少女を見た。
「…で、今日は何人伸したんだ?」
「私伸してない!」
そんな手荒な真似、さすがに追いかけられても女の子にはできない。
「雪瀬じゃねぇ。隣で寝てるこいつだ、凛久ぅ!」
先生はどこから持ち出したのか、スリッパで美少女の頭を叩いた。そりゃあもう、スパーーンって気持ちのいい音が響くほど。
「…いってぇ!なにしやがるこのハゲ教官!…て、あれ。なんで兄貴がここにいるんだよ」
……あにきぃ?て誰よ。ちらりと先生のほうを見ると、先生は無言で持っていたスリッパを振り上げ、美少女の頭を再び叩いた。
「学校では先生って呼べって言ってるだろ!」
…さっき自分もこいつのこと名前で呼んでたじゃん。自分のことを棚に上げてよくもまあ。
「いってぇ!本気で叩くなよ!てかなんでここに兄貴がここにいるんだよ?」
美少女は頭をおさえながら涙目で先生を睨む。
あー、うん、すっごい可愛い。そのアングルすっごくいい。
「ああ?助けにきてもらっといてなにでかい口たたいてんだよ?」
「別に助けてなんて頼んでねぇし。だいたい今授業中だろ!とっとと教室戻れよ!」
あ、それ言っちゃいけないんだ。
「ほう?じゃあ俺の授業も受けねぇで生徒指導室で居眠ってんのはどこのどいつだ?あ?」
完全に墓穴掘った。ばかだ、こいつ。
「でもって雪瀬。お前、今日がなにかわかってんのか?」
おっと、火の粉が。やっかい、やっかい。
「あー…日直とかいうやつですかね?」
いや、取りに行こうとしたんだよ?職員室入ったらみんな追いかけてこれないから、そのまま走りこもうと思ってたんだけどね?現実、そんなにうまくいかないのよ。
「お前明日も日直な」
「え、それはひどい」
「文句なら工藤先生に言え」
…言えねぇ。口が裂けても言えねぇ。
「とりあえずお前ら教室もどれ。どうせすぐ終わるからゆっくりでもかまわねぇ。んで、放課後俺んとこ来い。放課後になったら全速力で来い。これはお願いじゃなくて命令だからな」
高校教師に命令ってあるのか。というか、生徒に対して命令なんてしていいのか。お願いという名の命令なのか。
そんなことを考えながら、生徒指導室から出て、教室まで歩き出す。そんなにゆっくり歩いたつもりはないのだが、気付けばチャイムは鳴っていて、1限の終わりを校内に伝えていた。
「あ、おかえりー!見たよー、工藤に引っ張られて生徒指導室に連れてかれてるところ。あんたも災難だったね」
と、気の毒そうな言葉のわりに、親友の美弥の口元は弧を描いていた。なんとなくわかっていはいたが、私の親友は面白がっていた。それもすっごく。
「てか、その汗なに?尋常じゃないんだけど。‥まさか、あんた生徒指導室で工藤先生と、」
「ばかな考えやめてよ。冷房も効かないし、閉め切ってたから、部屋が蒸し風呂状態だっただけ」
熱中症にんらなかっただけましな方だ。
「高坂先生が呆れてたよ。また上から怒られるって」
「いいじゃん、どーせ1回だけなんだし。私なんてさっきまで工藤に怒られてたのに、放課後また高坂先生に怒られるんだから」
なんで2回も怒られなきゃならんのだ。そりゃいっつも反省なんかしてないけどさ。
「えー、いいなぁ。放課後、高坂先生と一緒にいられるなんて!」
「はあ?ただ怒られるだけだよ?
なにがいいわけ?怒られた挙句、「本来ならこの時間にこの仕事をしていたんだ」とか言って、自分の仕事押し付けてつくるんだよ?雑用までさせられて帰んなきゃいけないとかありえないでしょ。
「雑用でもいいじゃない。高坂先生はみんなの憧れなんだから。あんた、言っとくけど高坂先生の人気って半端ないんだから」
いや知らねぇし。知りたくもないし。なんなら代わってやるよ。
「去年のバレンタインなんか先生の机の上チョコだらけだったんだよ?…て、あんたも一緒か」
まぁな。毎年すごいからな、チョコの量。
「あ、そうだ、これ日誌」
「ありがとう」
日誌を受け取ると、さっき先生に言われた言葉を思い出した。
…明日も日直かぁ。