夏に恋は必要ありません(1)
夏休みもあと少しといった頃。家でくつろぐ私に携帯が着信を知らせた。誰かと思って画面を見れば、美弥からだった。合コンからの誘いかなにかだと思ってシカトを決め込んだが、あまりになり続けるので観念して電話に出た。向こうから聞こえた美弥の声はうるさく、そしてその周りもなんだかうるさかった。なにごとかと思って美弥の言葉に耳を傾けた。
「直、今晩ひま?」
「今晩?」
ひま、といえばひまだが、そうじゃないといえばそうじゃない。だってあいつらに飯を作らなければならない。給仕係に任命されちゃったから。先生がご飯作るの完全に放棄しちゃったから。なおかつ、何でか知らないけど、先生今珍しく実家に帰っちゃってるから。
「そ。てか暇じゃなくてもあけて」
そう。こいつはこういうやつだ。他人の予定など聞いてるようで聞いてないのだ。美弥に聞かれた時点で、予定は白紙になる。
「相変わらず強引」
「そうでもしないと人が集まんないから」
‥人が集まらないから?え、集まらないから?
「あんた何する気?」
「夏といえば?」
え、夏といえば?え、なんかすっごい話飛んでない?私のさっきの質問どこ行った?何する気かっていう質問の答えは夏といえばなのか?
「3,2,1、はいアウトー。直は強制参加ね」
「……」
なんも言えねぇ。強硬すぎてなんも言えねぇ。もう頭抱えたい。
「夏といえば、海!バーベキュー!花火!肝試し!でしょ!?」
「あー‥全部ですか」
夏の風物詩、オールスター勢揃いですね。ていうか、全部するつもりですか、それ。ボリューミーですね。仮にも私たち、受験生なんですが。
「5時に学校に集合ね!」
「え、ちょっと待って。5時は無理かも」
「問答無用!」
美弥はそう言い切ってぶちって電話を切った。声が聞こえなくなった携帯を見つめて、ため息が出た。問答無用って。本当に私の意見丸無視じゃないですか。そら小学校の通信簿で行動力◎、協調性×ってされるわけだよ。
「しかも集合場所が学校ってあたりね」
どこでバーベキューなんてするんだか。あの子最初に夏といえば海って言ったけど‥まさか、ね。
なんて考えてから、今日の晩ご飯のことに考えをシフトする。5時に学校ということは、4時過ぎにはあいつの家に行ってご飯を作らなければ間に合わない。と、すると、3時半頃に家を出なければならない。とりあえず電話‥。
「‥番号知らない」
なんてこった。家の番号どころか携帯の番号すら知らない。おまけにアドレスも知らない。何で知らないん、私!そりゃあ、連絡することもないからいらないって考えたけど!いや、なんなら今でも考えてるけど!不便じゃんかぁ!
「仕方ない、家まで歩いて行くか」
ああ、手間が増えた。別にこれといった予定もないからいいんだけど、‥なーんか憂鬱だよなぁ。
「とは言うものの、まだ出る時間にしては早いし。…寝よっかな」
昨日、遅くまで勉強してたから実は眠たいのだ。どうせ今日は寝させてもらえないのだから、寝だめなんてできないのは知ってるけど、今寝ないよりは断然ましだろ。
私はソファに横になって、だんだん重たくなるまぶたをゆっくりと閉じた。
どうしてこうなったのか。
いや原因はわかっている。私が目覚ましをかけずに昼寝なんてしたからだ。いや、寝る前はこんながっつり寝ると思ってなかった。まさか、夕方の4時に目が覚めるなんて思いもしなかった。寝る前の悠長に過ごしていた自分が恨めしい。なんてことをどれほど思ったところで、時間が前に戻ることはなく。私はただわちゃわちゃと家の中を駆け回った。
----ピンポーン、
‥ピンポン?
は、来客?……‥無視っ!
今そんなのにかまってらんない!とりあえず準備!行く準備!遅れたら美弥様の雷が落ちる!ああぁぁ、時村のご飯間に合わないぃぃ。
----ピンポーン、
だから無視だって。留守だっての!
----ピンポーン、
ピンポーン、
ピンポ「うっさい!留守だって言ってるでしょ!…って時村ぁ?なんでここにいんのよ」
玄関の扉を開けると、私服姿の時村が立っていた。時村は笑いながら、私に挨拶をした。
「留守っつって家から出てくるやついるか?」
「あんたが何回もインターホン押すからでしょ!」
私準備でばたばたして…って準備!
「今何時!?」
「えっと‥20分だけど」
「うわ、やばい!遅刻しちゃう。時村あんたとりあえず中入って!」
中入ってと言っておきながら、私は時村の腕をぐいと引いて時村を家の中に入れた。
「雪瀬、今日バーベキュー行くんだろ?」
「ふえ?なんで知ってんの?」
「俺にも連絡来たから。保留ってことにしといたんだけど。雪瀬が行くなら俺の飯ないし俺も行こうかと思ってさ。連絡先知らないから連絡の取りようないし、どっちにしろ俺の家に来ると思ってたんだけど来ないから、寝てんじゃないかと思って迎えに来た」
おーおー、立派な推理力だこと。だいたいあってるよ。その通り過ぎてなにも言い返せないじゃないか、コノヤロウ。
「準備できた?」
「できたってあんた何してんの?」
さっきまで私が寝ていたソファに座りこむ時村は私の携帯と時村の携帯をくっつけてなにかをしていた。いや、なにかって携帯同士をくっつけてすることなんて1つしかないいだけど。
「なにって赤外線。連絡先、お互い知っておいたほうがなにかと便利でしょ?」
…いや、便利かもしれないけど…。もう夏休みおわるんだけど。必要、あるかなぁ?
「さ、とりあえず行こうか。時間厳守、遅刻厳禁、なんでしょ、確か」
時村は私に携帯を手渡すと、わざわざ手を引いて私の家を出た。




