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君の隣を先約します。  作者: ゆきうさぎ
<第3章>
17/83

友達は悪魔のようで魔女でした(5)

緊急事態です。非常事態です。隣に美少女が歩いています。

もう一度言います。緊急事態です。


「‥…」


終始無言なのはやめていただきたい。送るといったなら、なにか喋れ。この沈黙、たえらんねぇ。


「雪瀬ってさ」


私の名前を言葉にして、時村は言葉を区切った。なにかと思えば、時村は空を見上げていた。つられて見上げれば、空には珍しく星空が広がっていた。なんだか、久しぶりに空を見上げたような気がした。


「きれー」


自然とこぼれた言葉だった。星空が見えた次の日は天気がいいんだっけ。そんな本当か嘘かわかんないことを思いながら見上げる。ふと、隣を見るといたはずの美少女がいなくて、後ろを振り帰ると、止まって空を見上げる美少女がいた。


「行くよ、時村」

「え、もうちょいいいじゃん」


時村は全くその場所から動かない。誰かに見られたらどうするんだ。頼むから帰りに一人で見てくれ。


「昔よく実家で天体観測したんだ」


懐かしそうに時村は言った。


「天体観測って」


この辺、星って見えるのか。空見上げりゃビルしかなんですけど。


「俺んち、住宅地でさ。空、よく見えたんだ。だから、友達とかといつも望遠鏡覗いてた」


なんだその歌詞のワンフレーズみたいな少年期。


「最近空見上げてなかったからなー。やっぱ久しぶりに見るといいな、星空って」

「天体観測が好きなんて変わってるね。てか意外」

「そうか?」

「うん。それ、噂になったらみんなから天体観測デート誘われるかもね」

「それはさすがに遠慮したいな」


ハハ、間違いない。私と一緒に星空を見てくださいってか。‥あ、俺とか。


「ね、そろそろ進んでもいい?まだ見るなら私ひとりで帰るけど」

「あ、悪い」


時村は謝って私の隣に並んだ。当たり前のように私の隣に並ばれたけど、これでよかったんだろうか。夏休みってみんな遅くまで遊んでるからなー。これで誰かと鉢合わせなんかでもしたらシャレになんない。夏休み明け早々、ふるぼっこだわ。


「オーナーが雪瀬も一応誘っといてって言われたんだけど、」


唐突にそう言われて、首をかしげたけれど、さっきの話を思い出して「ああ」とひとり納得した。つーか一応ってなんだ、一応って。先生といい、そのオーナーといい、失礼じゃないか?まぁ確かに、中性的な顔立ちだから男の格好したらどっちかわかんないときあるけどさ。さすがに傷つくよ、花の女子高校生なんだから。


「客引きには加藤だっけ?のほうが適任らしいんだよ。男客にはああいう可愛らしい顏の方がよってくるって」

「確かに美弥は可愛いけどねー」

「でも雪瀬も顔はいいからさ。客寄せにはなるって言ってた」

「それ、言っちゃダメでしょ。顔で店員選ぶってどーかと思うよ」


まぁイケメンだからっていって女の客がわんさかいたけど。今以上に集客してどうすんの。なに目指してんだ。


「丁重にお断りしといて」

「そういうと思ってた」


くくっと笑って時村は携帯を取り出した。何かと思えば、どこかに電話をしだして、「やっぱりだめでした」とどこか楽しそうに言って電話を切った。その笑顔はいつか見たいたずらっ子のような笑顔だった。


「なに」

「いや?オーナーと賭けてただけ。誘ってみて、おっけーならオーナーの勝ち。断ったら俺の勝ち。で、雪瀬は断ったから俺の勝ち。時給アップだ」


‥呆れた。なにで賭けてんだ。


「しょうもないって思うだろ?けっこう真剣なんだぜ?もう一人の子は明日、片岡、あ、噂のイケメン店員な。あいつが誘ってみるんだと。賭けの内容は今のと一緒」

「ふつう逆じゃないの」


バイトの子入れたら時給が上がるんじゃないの、それって。


「まぁいいじゃん、細かいことは。よかったー、断ってくれてー。もしオッケーなんかされたら俺の時給下がるとこだったんだよね」


生活かけてんだな。


「あ、私の家ここだから。ありがとうね、送ってくれて」


緊急事態には変わりないけど。一人でまっすぐ帰るより、倍ほど時間かかったけど。


「いや。こっちこそごちそうさま。明日もよろしく頼むわ」

「やっぱり作らなきゃだめ?」


すっごく、すーーーーーーごく、面倒なんですが。


「頼むわ。明日6時ごろ迎えに来るわ。じゃ、また明日」

「え、ちょ、」


また言い逃げられた。本日2度目の言い逃げ。そろいもそろっていい度胸してんな。いつか毒盛ってやる。覚えてろ。


「……ほんとに、」


厄介ごとを受け入れてしまったなんて考えながら、家の中に入った。相変わらず真っ暗の家の中を進んで、リビングの中に入る。電気をつけるとお、人の姿はなくて、静まり返ったリビングが私を迎えた。ため息をこぼして、冷蔵庫にあった麦茶を取り出してコップに注いだ。のどに一口通してから、冷蔵庫の中にある食材を見た。晩ご飯を最近あの家で作って食べるようになってから、家の食材が全くと言っていいほど減らない。挙句の果てには、野菜室に入ってある使いかけの野菜は状態的によろしくない始末だ。


「まじか」


しなしなになった白菜の葉の部分を見てまたため息。これはこれで深刻な問題だ。家の食物があの家のせいで腐りだしている。どんだけ豪華な朝ごはんと昼ご飯を作らなきゃならないんだ。朝からもりもり食べるなんて、男子高校生みたいな生活できない。

ほんとにもう、どーすんだよ、これー。


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