友達は悪魔のようで魔女でした(2)
私は美弥の悪魔みたいな笑顔に耐えきれず、ここ数週間の出来事を洗いざらい話した。あ、洗いざらいと言ってしまえば嘘になるけれど、高坂と時村の関係と私と高坂の関わりを省いたすべてを美弥に話した。まぁ、だいたい話したことになるんだけど。ただ高坂が出てきてないってだけだし。
「なるほどねぇ。どーりで最近、時村と仲が良いわけだ」
「そんなことないけど」
「そんなことあるわよ。よっぽどのことがない限り、あるいは自分に害がない人でない限り、他人に興味を示さないあんたが、明らかに仲良くしたら自分に害がある人物と仲良くしてるんだもん。中学からの付き合いの私からしたらスクープのなにものでもないわよ
ふんと鼻を鳴らしてから、美弥はソファに深く座り込んだ。
「ついでに聞いとくと、‥高坂先生とは何にもないのよね?」
…鋭い。というか勘がいい。本当、人の何見て普段生活してんだか。
「なんでそこで高坂の名前が出てくるのよ」
「最近、先生直のことばっかり指名して職員室に連れ込むからに決まってんでしょ」
美弥ちゃん、言い方に気を付けようか。職員室っていう単語がなかったら勘違いされてもおかしくないからね?
「直がお気に入りなのはわかるけど、なーんか最近怪しいのよねー」
「怪しいって、雑用しかしてないよ。それに私がまだ進路決めてなかったり、三者懇の日程出してなかったりしたから、それ聞き出すためだったりして」
「ちょ、三者懇って‥」
「ま、もちろんやってないけどねー。やっと諦めてくれたっぽいし」
肩をすくめて言って美弥を見れば、どこか心配しているような顔をして私を見ていた。なんだかしんみりとした雰囲気になってしまったけど、ケーキを運んできたウェイターさんの声にその雰囲気は消えてしまった。
「フルーツケーキのお客様、」
「あ、はい。‥‥あ、」
私の前にフルーツケーキを置こうとしたウェイターさんを見て、目と目が合った。思わず口からはまぬけな声が出た。私と目が合ったウェイターさんは動けずにただずっと私を見ている。
「あら、時村くんじゃない」
美弥が発した言葉に我に返った時村は、美弥を見て首をひねった。どうやら、美弥を知らないらしい。けっこう有名なんだけどね、彼女。そういえば、時村も人を覚えないんだったか。
「あ、私直の友達の加藤美弥っていうの。よろしくねー。時村君ってここでバイトしてるの?」
美弥は指を組んだ手の甲に顎を置いて、時村を見上げた。時村はケーキを丁寧に置いて首を縦に振った。
「ふうん。じゃあここで働いてるイケメンアルバイターは時村君のことか」
まあ、確かにそうだろう。まぁ、イケメンって顔じゃないけど。だって私のほうがイケメンだし。
「ああ、それなら俺じゃねぇよ」
「え、違うの?」
美弥は驚きながら答えて、周りをきょろきょろ見渡した。それにつられて私も見渡してみるけど、イケメンと言われるような顔立ちをした人はいない。
「あいつ今日バイト入ってないからいないよ。確か明日の10時から入ってたと思うけど」
時村は一緒に持ってきたコーヒーと紅茶をケーキ以上に丁寧に机の上に置いた。
「制服姿もいいけど、そういう格好もけっこう似合ってるね」
黒のスラックスに黒のエプロン、そして白のカッターシャツを着た店の服装を見た美弥は笑顔でそう言った。うーん、やっぱり、紳士的なお兄さんより落としやすそうな時村にシフトチェンジしたのだろうか。
「そうかな、ありがとう」
時村は照れるでもなく、邪険に扱うでもなく、抑揚のない声でお礼を言うと、伝票を置いて戻って行った。その後ろ姿を見送った私たちはケーキに目を落として食べ始めた。
「ウェイトレスの格好の方が似合ってたよね」
さっきの姿を思い出していたら、ふいに出てしまった言葉に美弥は爆笑しだした。けっこう抑えて笑ってくれたみたいで、他のお客さんの迷惑にはならなかったけど、美弥はしばらくヒーヒー笑いっぱなしだった。
「あー、お腹痛い。急に笑わせないでよ」
美弥は目尻にたまった涙を人差し指で拭いながら、思いだしたのか、まだ笑っている。
「あんたそれ失礼でしょ」
「そういうあんただってヒーヒー笑ってたじゃない」
どっちが失礼なんだか。
「まぁあんたが言いたいこともわかるけどね。確かに顔だけは美少女だからね」
美弥はそう言って紅茶にミルクと砂糖を入れてかき混ぜる。スプーンを置いて紅茶の入ったカップを口元に近づける仕草はすごく様になっていた。やっぱりこいつも黙っていれば可愛い。
「あ、てかそれ本当に広げないでよ?広げられたら私の方が困るから」
「わかってるわよ。さすがの私も友達売らないわよ」
「とかいって有名スイーツ店のケーキが欲しいって言って私と他校の男子デートさせたの誰よ」
「あれはもう時効よ、時効!そんなささいなこといつまでも根に持たないでよ」
「時効は時効でも、友達売ってることには変わりないからね?」
間違いなく売ってるからね。本当にスイーツに目がないんだから。
「でもあの男はだめだったわね。顔だけってああいう男のこと言うんだろうね」
「それ知っててイケメン好きって言ってるあんたって、」
「だーかーら、見てるだけなら害はないからよ。ブサイクは視界の暴力なんだから」
「そういうあんたは言葉の暴力だからね」
イケメンなんて、一握なんだからね。




