友達は悪魔のようで魔女でした(1)
うだるように暑い夏休みが始まった。受験生ということもあり、高校3年生は最初の1週間は補習がある。そのため、夏休みが始まったといっても、半日は学校にいることになり、「夏休み明けに会おうね」と言い合った友達と対面している。
「なーお!今日帰り新しくできたケーキ屋さん行こうよ!すごい美味しいって評判らしいよ」
4限目の授業を終えてすぐ、隣の席の美弥はルンルンで声をかけてきた。これでも彼女も同じ受験生なのである。
「そんなこと言って、本当はそこのアルバイトがかっこいいとかいう件でしょ」
こいつはイケメンが好物なのだ。まぁ可愛い容姿をしてるからモテないわけじゃないし、告白だって1年生の頃からそれなりにされてきている。ただ、さっきも言ったが、イケメンが好物なのだ。彼女にとって、イケメンでない男の子からの告白は拷問らしい。どんな拷問だよって一度突っ込んだら、耐え難い苦痛だって返された覚えがあるが、彼女にとってブサイクは耐え難い苦痛に相当するようだ。
「あ、ばれた?」
ほらみろ。
「そこのアルバイトのウェイターさんがね、もうすっごくイケメンさんらしいのよ!確かにケーキも美味しいらしいんだけど、そのウェイターさんを見に来る女の客が半端ないんだって!ね?だから一緒にケーキ食べに行こうよー!」
「却下」
「なんでよ」
「なんでも」
「なんでもじゃ理由になってないし」
「いいの、とりあえず行きたくない」
「だからなんでよ」
「なんでも」
「あっそ。じゃあいーもん、直が時村君にご飯作ってあげたって言いふらしちゃうもん」
「!?‥え、ちょ、」
何で知ってるんですか。最重要機密事項なんですが。トップシークレットってやつなんですが。
「私がこの学園の色恋事情について知らないことはないのよ、直」
だからお前なんでそんなに知り尽くしてんだよ。もしかして盗聴器‥
「失礼ね、盗聴器なんて物騒なもの使わないわよ。私は足でかせぐほうなんだから」
「え、それってストーカー‥「なにか?」
あーもー、姐さん怖いです。すっごく黒いです。背中から黒いなんか出てきてます。
「で?行くでしょ?もちろん」
「…卑怯」
「なんとでも。私の情報網をなめてたあんたが悪いの。さ、早く行こう。店、いっぱいになっちゃう」
私はため息まじりに返事をして、先に教室を出た美弥の背中を追った。下駄箱のところで追いついて、そこから並んで、新しくできたケーキ屋さんまで行った。ケーキ屋さんの近くまで行くと、その姿が見えてきて、店の中は女性客でいっぱいだった。
「うわ、だだ混み」
店の中は、人、人、人。
「おかしいなー。空いてる昼時を狙ってきたのになー」
美弥はそう言いながら、店の扉を開けた。美弥に続けて中に入れば、スイーツ独特の甘い匂いが鼻をはすめて、レジに立っていたお兄さんと目があった。
「2名様ですか?」
ふわりと王子様のように笑いかけてその人は私たちを見た。なんだかその王子様スマイルが、少し前に見知ったメルヘン野郎とかぶってしまった。
「あ、はい。あの‥席、空いてます?」
美弥の声はいつもより可愛らしく、そして少し控えめのトーンに変わった。どうやら、目の前のお兄さんは美弥のイケメンの基準をクリアしたらしい。うん、ご愁傷様だな。
「ええ。少し奥まった席になりますけども、そちらでよろしければすぐに案内させていただきます」
物腰柔らかにそう言われて、美弥は私の意見など聞かず、勝手に「大丈夫です」と答えた。どうやら噂のイケメンアルバイトよりも、紳士的なウェイターさんの方がお好みのようだ。
「どうぞ、こちらになります」
そう言われて案内されたとは本当に少し奥まった席で、外も見えなければ、ほかの客もあまり見えない、いかにもカップル専用席だった。メニューを見せられ、私はコーヒーとフルーツケーキを、美弥は紅茶とマンゴーのショートケーキを頼んだ。
「あの人、かっこよかったよね!」
「ほんと、あんたって無類のイケメン好きよね」
イケメンならなんでもいいのかと思ってしまう。いや、まぁなんでもよくないから今彼氏作ってないんだろうけど。
「ばかね。イケメンは目の保養じゃない。私、受験期の間だけでもこのケーキ屋さん通おうかな。家までの帰り道だし」
「太るよ」
ただでも部活やめて筋肉が脂肪に変わってきてるっていうのに。これ以上太る原因作ってどうするんだよ。ストレスでケーキやけ食いが目に見えてるって。
「あ、で、本題」
「?このケーキ屋のイケメンアルバイター?」
「うん、それもだけど、いったんその話からは離れようか」
「?」
「じゃあ話すことなんだけど、みたいな顔やめてくれる?私があんたをどんな話題を餌にここに連れてきたと思ってるの?」
「……あ、」
そうだ、最重要機密事項の漏洩だ!事件だ、事件!
「あんたそれ誰から聞いたの」
「なんで聞いたと思うかな。私は足でかせぐ方だってさっき言ったじゃない」
「言ったけど、足で簡単に情報がかせげるわけないじゃん。その場にでも居合わせでもしないと、ってまさか、」
「はい、その通り。いや、こっちがびっくりしたわ。たまたまお母さんに牛乳買ってきてってバイト帰りに言われて立ち寄ったスーパーに仲良く買い物する高校生がいて、それがまさかうちの学校の制服で、誰かと思えば、私の隣の席の直ちゃんで、隣の男の子は我が校の美少女で。こーんな偶然ってあるんだなーって」
ほんと、そーんな偶然ってあるんだねー。
「で、もちろん、説明してくれるんだよね?」
だから、その可愛らしい超絶ブラックな笑顔、怖いです。




