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君の隣を先約します。  作者: ゆきうさぎ
<第2章>
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好きな花は桜ですが、なにか(6)

どうしてこうなったのかと聞かれれば、ことの成り行きとしか言えなくて。誰のせいだと言われれば、断りきれなかった自分のせいなわけで。ようはすべて自分が招いた結果というわけで。絶賛自己嫌悪中なのである。


「このキッチンに女の子が立つ日が来るなんて思わなかったわ」


私だって、人の家のキッチンにこんな形で立つことになるなんて思いもしなかったよ。誰も好きで高坂家のキッチンに立っているわけではない。本来ならば、見慣れた自分の家のキッチンでおいしい自分好みの冷やしうどんを作っているところだ。


「で、なに作ってくれんの?てか雪瀬って本当に料理できるの?」

「失礼ね。これでも料理の腕だけは本物よ」


だてに中学のころからキッチンに立ってないんだから。これでも一応料理研究家なんだから。


「じゃあ安心だな。兄貴が帰り遅いって聞いたときはどうなるかと思ったけど大丈夫そうだな」


時村はそう言って冷蔵庫からお茶を取り出して2人分いれて、片方を私に差し出した。それを受け取ってから、私は部屋を見渡した。さすが社会人というか、なんというか、かなり広い。おそらく2LDKではないだろうか。


「ねぇ、冷やしうどん食べたいって言ってたけど、冷蔵庫にちゃんと食材とかあるの?」

「さぁ?飯は全部兄貴に任せてるから。俺が作るのって朝飯のトーストくらいだし」

「呆れた。高校生なんだからご飯くらいつくりなよ。冷蔵庫、勝手に覗くからね」


私は勝手に冷蔵庫を開けて中身を確かめる。まぁわかってはいたけど、思っていた以上に冷蔵庫の中身はない。しっかり揃えられているのはお酒くらいだ。高校生と一緒に住んでるとは思えないほどの量で、時村も一緒に飲んでいるんだろうなんてことを考えさせる。


「時村、好き嫌いは?」

「ない。だいたいのものは食べられる。あ、兄貴はねばねばしたもの無理だ」


‥どっちが子供なんだか。

私は頭の中でメモをして、冷蔵庫を閉じた。とりあえず中身も覚えたし、メニューもなんとなく思いついたし、とりあえずないものを買い出しに行かなければ。


「あれ、出かけるの?」

「いろいろ足りないからね。買い物に行くの」


だいたい、冷凍庫も覗いたけどうどんなかったし。うどんなかったらどうしようもないでしょ。


「あ、じゃあ俺も行く。待って、今準備するから」


時村は準備と言って、制服からラフな私服に着替えて私が待つ玄関まで来た。普段制服姿しか見ないから初めて見た時村の私服姿は新鮮だった。ただ、制服もだけど顏に男のかっこうに合わなかった。まあ言ったら気悪くするから言わないけどさ。


「この辺のスーパーはあっち」


この辺に土地勘のない私を気遣ってか、時村は丁寧に道を教えてくれた。たまにすれ違う人に、時村は挨拶をしていく。私と違って、かなり愛想がいいみたいだ。


「あ、あれ。へぇ、今日は鶏肉が安いんだ」


あたりを見渡す時村を見ながら、私はスーパーに入っていく。夕方という時間帯ということもあって、店の中は主婦層が多かった。その中で制服姿の自分はなんだか浮いているような気がしたけど、これしか服がないと考えると、仕方ないかなと考えてしまった。


「さて、」


私はさっき頭の中に浮かんでいたレシピを思いだす。個人的に今日の気分はさっぱりなので、時村たちには悪いが、私の気分に合わせてもらう。野菜コーナーから回っているため、私は時村が持ってくれている籠の中に細ネギを入れた。それに続けて大葉も入れた。うん、これでもだいぶさっぱりしてる。そのあとにうどんを入れて、ささみ肉を手に取った。


「ささみなの?」

「そ。ヘルシーでしょ」


さっぱりといったらやっぱりささみはいるでしょ。


「あとはこれかな」


私はかごの中に梅干しをいれた。これがアクセントになるんだもんね。というか、夏と言えば梅干しでしょ。これだけは外せない。


「あ、あとついでにトマトと、‥バジルと、」


と、放り込んで気づく。私の家で作るわけではない。ちらりと後ろを見れば、携帯を触る時村と目があった。時村は首をかしげて私を見てきた。特に何も考えていないといった感じだった。そんな時村に少しほっとしてから、私たちはレジに向かった。途中時村がお酒が欲しいなんてふざけたことを言ったけど、私は私服を着てるし、時村も未成年だしということでなんとか丸め込んで買わずに済んだ。そんなに買った覚えはないんだけど、袋に詰めてみれば、けっこうな重量になってしまった。


「持つよ」


時村は私が持っていた荷物をさらりと取って持ってくれた。


「‥なんだ、優しいとこあんじゃん、」

「なんか言った?もう行くよ?」

「なーんでもない」


ちょっとだけ見直したとか、どきっとしたとか、そんなのは言ってやんない。だって、なんか言ったら調子乗りそうだし。なんたって高坂の従兄弟だもん。


「久しぶりに飯が期待できそうだ」


帰り道、時村はなんだかうれしそうだった。


「誰も口に合うなんて言ってないけどね」

「俺が言えた立場じゃないけど、兄貴の料理も男料理だからさ、味云々じゃないんだよね。とりあえず食えたらいいかなってとこもあったし」

「確かに言えた立場じゃないよね、あんた。居候させてもらってる上にご飯まで作ってもらってるって」


まかない付きのただの宿ってどんだけいいとこ住んでんだよ。従兄弟じゃなかったら追い出されてるよ。


「ちゃんとそれ以外のことはしてるって。掃除と洗濯と風呂と。飯以外は俺がやってるから」


当たり前だろ、それは。それもしないで住まわせてもらってるんだったら、高坂の懐のでかさに感服だよ。

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