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召還失敗(1)

不定期連載です。




 目覚めよ、という声がして僕はゆっくりと目を開いた。


「おお……? 成功した……可能性も無きにしもあらず」


「賢者様ッ!? なんで疑問系なんですの!?」


 ガヤガヤとうるさい。

 何となく見ると、小汚い中年のオッサンと鎧姿の何者かが並んで立っていた。


 鎧の方は凄い。全身を覆う金属鎧で、兜まで被っている。お陰で顔が全く見えない。

 そのせいで知り合いかどうか判断が付かない。

 だが鎧を着た知り合いはいないので多分知らない人だろう。オッサンの方も知らない人だ。

 

 だらしなく髭を生やし、ひょろりとした体格のオッサン。ザ・もやしと言ったところか。

 胸の前で両手の指を揉むようにしながら、隣に立つ鎧に向かって何やら言っている。

 

「だって姫様、初めて使う魔法なんですもん。ぶっつけ本番ですし、わしとしても成功してるかどうか判断出来ないんですよ」


「何でそんな弱気なんですの!? あなた、この国一番の魔法使いでしょう!?」


 恐るべき事に、全身に銀色の鎧ちょっと痛めの女の子がキャンキャン吼える。

 その声に圧倒されるように、薄汚れた白衣を着たオッサンがあたふたと言葉を返していた。


「ええと、そのう……。そりゃ使い慣れた魔法なら九割の確率で成功しますよ? でも召還魔法なんて初めての魔法なんですもん。成功例が無い以上、検証しようが無いわけで……」

 

 汗を拭いながら言葉を続けるオッサン。鎧の子は無言でそれを聞いていた。

 どうも立場は女の子の方が上らしい。あるいは、そういう設定なのかもしれなかった。


「しかも、召還魔法が使えるのはこれ一回限りですよね? べらぼうに貴重な魔法石が必要ですし……。あ! そう言えば、触媒に使った真竜の魔法石は消費されていますね。これなら魔法自体は発動してますよ。……多分」


「多分……?」


 冷やりとした、凍えるような温度の声が返される。

 ヒステリーってやつだろうか?


「……っ! だから、検証しようが無いって言ってるじゃないですかー……。普通、魔法っていうのは何度も実験と検証を繰り返し、客観的なデータを作成してから……」


 泣き出しそうな声のオッサン。汚い髭面が歪み、さらに汚くなっている。

 少女は苛立たしげに舌打ちすると、視線を僕へと向けた。


「勇者様!!」


「お、おう?」


 釣られて返事をすると、少女は少しホッとしたような雰囲気になる。

 全身鎧に包まれた異様な姿で、声だけが透き通っているのが逆に不気味だった。


「あなた様は、勇者様で相違ございませんね?」


 勇者。確かに僕はそう呼ばれていた。

 ……何で僕の事を知ってるんだ?


 見覚えの無い二人のコスプレイヤーの、しかもかなり気合が入っている方(どうみても本物に見えるけど、鎧なんてどこで買ったんだ?)から問われ、多少不安を覚える。

 

 こんなガチのコスプレをするような、頭のネジの外れた奴は知り合いには……知り合いには沢山いるけど、ニューカマーってちょっとドキドキだね。まあいっか、と一人納得しながら答えた。


「ええ、まあ一応。そういうあだ名っすけど」


「あだ名?」


 小鳥のように首を傾げる鎧の子。傍に立つムサいオッサンが捕捉するように言う。


「称号という意味でしょう。ダルム殿が騎士団長でありながら、同時に剣将軍と呼ばれるような」


「ああ、なるほど」


 納得したのか、少女は誰にとも無く呟いた。


「王国騎士団長、ダルム=ゲィル=サザーランド様は剣一本でドラゴンを倒し、それから剣将軍と呼ばれるようになったのでしたわね。勇ましい事ですわ。では勇者と呼ばれるには? どれほどの事を為せば、人々から勇者と呼ばれることになるのかしら……」


 うっとりとした口調で設定を語る少女。

 しかしドラゴン殺しの剣将軍ダルム? そんなアニメあったかしらん?

 聞き覚えが全く無い。独自設定だとすれば、この娘は相当のツワモノと言わざるを得ない。


「うふふ……。筋肉バンザイですわ」


「筋肉バンザイ!?」


 思わずツッコんでしまった僕に、鎧少女は不思議そうな顔を返した。


「あら? 英雄譚に筋肉はつきものですわよ、異界の勇者様。……そう言えば、勇者様はほっそりしておられますわね。痩せマッチョなのかしら?」


「知らない人から筋肉を評価されてる!? こんな時どうすれば良いか分からない!」


 何で僕はいきなり筋肉を評価されてるんだ!? それも、鎧を着込んだ変態女から!!

 人生の不条理を噛み締めていると、冴えないもやしのオッサンがうんうんと肯いているのが視界に映った。


「そうですね、人を筋肉だけで見るのはナンセンスです」


「賢者様!!」


 鎧女からの咎めるような声。

 その声にビクッと震えながらも、オッサンは何とか気丈に振舞っていた。


「その……やはり、人の進歩は魔法であると思うんですよ。人と他の動物の違い、それは魔法の有無です……よね? ですから姫様におかれましても、獣じみた筋肉より、洗練された魔法の強さこそを尊ぶべきかと……」


「あら? それは剣将軍様を侮辱されているのかしら?」


「い、いえ! そのような考えはありません! ……その、なんというか、一般論としてですね」


 ごにょごにょと言い訳するように、身を小さくするオッサン。

 情け無いの一言である。


 しかし今はそんな腰抜け野郎を哀れんでいる場合では無い。

 もっと可哀想なのは、そんな腰抜けと変態鎧に絡まれている僕だ。


 どうして僕はこんな奴らに話しかけられているのか?

 僕のあだ名を知っているとは言え、見ず知らずの変態と楽しく会話する気にはならない。

 ……そもそもここは何処どこだ? 今さら気付き、辺りを見回す。


(……どこだここ? セット? どっかのアミューズメント施設?)


 眺め、疑問を新たにする。

 壁は古びたレンガに見えた。それほど大きく無い部屋の四方をレンガが囲んでいる。


 天井はかなり高かった。採光用の窓にガラスは無く、吹さらしの風が入り込んでいた。 床もレンガだ。床には円形の奇妙な文様が描かれ、中世RPG風な雰囲気を醸し出している。

 なんだこの模様? どっかで見た事あるような……。


「魔法陣……?」


 そうそう、魔法陣に似ている。

 具体的に詳しく知っているわけじゃないけど、雰囲気っつーか。

 得体の知れない規則性で描かれた模様って言ったら魔法陣しか無いでしょ。


「よくご存知ですわね。勇者様の世界にも魔法があるという事かしら?」


「そのようですな、姫様」


 鎧女とオッサンが何やら勝手に話を進めている。

 うん、しかしこいつらはどういう設定で会話してるんだろう?

 そして、どうしてその会話の端々に僕が入れられているんだろう?


「ええっと、すみません。イマイチ状況が分からないんですけど、ここ何処どこですか?」


 恐る恐る声を上げる。

 正直に言えば「お前ら誰だよ?」と言いたいところではあった。


 こっちはあんたらの事知らないし。

 でも、さすがにそれは角が立ちそうだしなぁ……。


「ここはイズ王国の首都、イズラですわ。正確には王城の一角ですわね」


 えへん、と金属鎧で胸を張る。

 そんな動作にいちいちとガショガショ音が鳴った。


「はぁ。イズラ? 王城? ええと、シャレ抜きで本当に教えて欲しいんですけど」


 いつまでファンタジーごっこを続けるんだこいつら?

 ポカンとした表情を浮かべていると、鎧女はこちらから視線を外し、オッサンの方を向く。


「伝承によれば勇者様は異界から呼ばれるとありますわね?」


 尋ねられたオッサンは、意味深そうに瞳を鋭くした。


「そうですね、伝承の通りであれば彼は異界から来たはずです。今の彼の反応は、まるでイズ王国なんか知らないって感じですね。……おお、ちょっとずつ検証が進んで行く! まあ主観的な検証ですから? まだまだ不確実性が山積みなんですが。そもそも伝承自体が検証に値する資料なのかどうか……」


「いいえ、検証なんか必要ないですわ! 何故なら、私の目は誤魔化せません! あの方の筋肉はまさに勇者肉! 異界から召還された勇者様に間違いありませんですことよ!」


「ですから姫様、一般的に言って筋肉は判断材料には……」


 妙にテンションを上げる鎧女と、常にローテンションの白衣のオッサン。

 無視され、ポリポリと頬を掻きながら思う。


 関わり合いにはなりたく無いけど、無視ってのもキツイなぁ……。

 あと、勇者肉って何だよ? やっぱ関わり合いにならない方がいいよなぁ。 

 

 この後に待ち受ける激動の日々。

 そんな事に気付けるはずも無い僕は、束の間の平和を享受していた。





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