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一人百物語 2

よびごえ

作者: 犬猫夜行
掲載日:2026/07/20


知人の多田さんの話。

多田さんは中学生の頃、よく夢遊病の様な状態になった。

とはいっても普通の夢遊病の様に眠ったままただあちこちをふらふらと歩く、というのではなかった。何故か毎回台所の、扉を開けた冷蔵庫の前に正座して、何事かをブツブツと言っているのである。

そのたびに途中ではっと自分で気づいたり、ご両親にたたき起こされたりしていた。

自分が何を言っていたのかは覚えていない。今なら心療内科等、相談するところはあるが、当時はそんなところは無かった。これには本人もだがご両親も困っていた。

ある晩、物音に気づいてお父さんが起き出してみると、やはり多田さんが扉を開けた冷蔵庫の前に座っていた。

ああまた、とお父さんが近づくと

冷蔵庫の方から声がした。

多田さんの声ではない。

冷蔵庫の中から、しわがれた男の声で


<おーい>


という呼び声が聞こえていた。

<おーい>

冷蔵庫の中から誰かが呼び声をあげ、多田さんが声の方に向かってぼんやりとした半笑いの表情でうんうんと頷いていた。

お父さんは多田さんにどかどかと歩みより、多田さんを冷蔵庫の前から引きはがすと

「馬鹿野郎!うちの子に構うなっ!どっか行けッ!」

と冷蔵庫の中に向かって怒鳴った。冷蔵庫の中は何の変わりもなく、声もしなくなった。

それ以来、多田さんが冷蔵庫の前に座る事はなくなった。

冷蔵庫は数日後に買い替えたが、声がする事はもう無かった。

ただ冷蔵庫を替える時、冷蔵庫を置いていた床板が何故か真っ黒に変色している事に気づいた。

床板も後で張り替えたが、板が腐ったり焦げたりしている様ではなく、ただ墨が染み込んだ様に板の中まで真っ黒になっていたという。






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