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絶望逃避行  作者: 月影 真
第二章
3/8

私の人生1

「魔王城に招待ねぇ。構わないけどかなりの距離があるはずだよ。」

「ご心配なく。我々魔王軍は常に『鍵』を持っていますので。」

「鍵?」

「ええ。これがあれば瞬時に魔王城へ行くことができます。さあ、わたしの手を掴んでください。」

グリルが穏やかに手を差し出す。

俊明はわずかに眉をひそめ、恐る恐るその手を握った。

「開け。」

その言葉と共に俊明の視界は真っ白に包まれた。

そして、気がつくと目の前には漆黒の巨大な城が建っていた。

「どうぞこちらへ。」

グリルは正門と思わしき大きな扉を開け静かに手招きをしている。

中に入ると2人?の兵士がやって来た。

片方には紫の角と蝙蝠のような羽が生えており、もう一方は爬虫類のような見た目をしている。

「おかえりなさいませグリル様。その御方が…例のですか?」

爬虫類が口を開く。

「ええそうです。わたしが魔王様の所まで案内します。あなた達も無理はしないように。」

「はっ。」

「では死神殿わたしについてきてください。」

城の中は魔王城という名に似つかわしくなく、内部は明るく温かな光に満ちていた。

すれ違う魔族達も皆和気あいあいとしている。

長い廊下を渡りいくつかの階段をのぼった先にはとても豪華な扉が待ち受けていた。

「こちらが我が王がいる部屋です。」

そしてグリルが扉を3回ノックする。

「グリル・チキンです。死神を連れて参りました。」

と言うと中から「入れ。」と少し低い男の声が聞こえてきた。

グリルが扉を開けるとまず目についたのは大きな玉座に座った黒い肌に白い模様があり、純白の長髪に赤茶色のねじれた角を持った男だった。

その左右には赤い肌に赤い角そして赤い蝙蝠のような羽を持った女、全身茶色の鎧に身を包んだ男(?)、そしていかにも魔女というような服を着た青い肌の女がいた。

「よく来てくださった死神殿。まずは我々から名乗りをあげましょう。」

「まずはわたしから。魔王軍四天王『黒き暴風』のグリル・チキン。」

とグリルが軽やかに宙を舞い、玉座の隣に立つ。

「同じく『黒き豪炎』のベリー・タルト。よろしくね♡」

艶やかに笑う赤い女。。

「同じく『黒き流水』のゼー・リー。…わたしは認めませんよ。」

青い魔女が小さく呟く。

「オナジク『黒き大地』ノ、ミック・スナッツ。」全身鎧が声を響かせる。

そして黒い男が玉座から立ち上がる。

「そして我こそが魔王マシュマロ・チョコディップである!」

と高らかに叫んだ。

「死神殿、そなたの名は?」

「僕の名前は三浦俊明。」

「ではトシアキ殿この度そなたをここへ招待した理由はただ一つ。ぜひ魔王軍に入ってほしいのです。」

「なぜ僕なんだい?」

「なぜもなにもそなたはコロッモにて100にものぼる人間の命を奪い、挙げ句の果てには勇者までも退けた。そんな素晴らしい人材を見逃すなんて到底できませんよ。」

「なるほど。でも君らは誤解しているよ。まず僕が人を殺めるのは人間が憎いからじゃない。それに勇者とも戦ってすらいない。」

「ふむ、分かりました。噂に尾ひれがついていたようですね。ただ一つ聞かせていただきたい。憎悪でないならなぜそなたは人間を殺していたのですか?」

「…苦しみから『解放』するため。」

「解放?」

「世界にはたくさんの『絶望』や『苦しみ』がある。僕にはそれが見えるんだ。だから『解放』を望むものも現れる。僕は彼らの思いに応えているだけだ。」

玉座の間に短い沈黙が落ちる。

「解放の為に生きる…それは楽しいのですか?そなたにとって人生とはそんなものなのですか?」

「人生ねえ…僕にとって人生は『我慢』だ。物心ついた時からそれは始まり時にはそれに押し潰されそうになる。でもほんの少しの休息でそれは癒えまた『我慢』が始まる。…そしてそのループはほんの些細なことで容易く崩れる。崩れたらもうおしまいだよ。」

「…そなたの価値観は一理ある。だが我はその我慢のループの中で『楽しい』を見つける。これが、これこそが『人生』だと我は思う。『楽しい』の無い人生なんてつまらん。故に無理にでも探すのだ自分の『楽しい』を!」

「…。」

「なあトシアキ殿。何故我がわざわざ人間の国を滅ぼしそこに城を建てたと思う?」

「…なぜだい?」

マシュマロは窓辺に歩み寄り、外の光を見上げた。

長い白髪が光に透ける。

そして勢いよく大窓を開け放つ。

「太陽を見るためだ!」

まばゆい光が玉座の間に降り注ぐ。

「我々魔族は長年人間共によって地下に封じられていた。日の光を浴びることが出来なかったのだ!だからわたしは太陽を手に入れる為に戦争を始めた。我は人間を絶滅させるつもりだ。そのためには戦力が要る。だからそなたを誘ったのだ。」

その瞳は炎のように揺れていた。

「…どれだけ言われようと僕は戦争には参加しない。僕はただ『解放』するだけだ。」

微かに震えた声で俊明は言う。

「…分かった。ではコロッモまで送ろう。」

「いいや、大丈夫だよ。このまま歩いて行くよ。そっちの方がより多く救える。」

「では近隣のナポリタン王国まで送ろう。」

「ありがとう。」

「そうだ。…いや、やっぱりいいよ。」

「?どうしたのだ、トシアキ殿。」

「なんでも無いよ。ただの見間違いだよ。」

俊明は最期に、ほんの少し振り返った。

魔王マシュマロ・チョコディップが全身を覆うほどの『絶望』を纏っているのを確かに見た。

だがそれをそっと胸の奥にしまった。

彼にはまだ生きる意志があると、そう思ったから。


光骸正義はダグラスに抱えられながらコロッモの大通りを通っていた。

「降ろしてくださいダグラスさん!アイツを捕まえないと!」

「バカヤロウ!あんなのとやったらすぐに殺されちまうぞ!」

「そんなはずなは無い!」

「お前には見えてなかったのか?あの禍々しく恐ろしいオーラが。」

「そんなの無かったですよ!」

そんな口論をしているといつの間にかコロッモ領主邸に到着した。

ダグラスは止まらずに邸宅に入りヴァルター達がいる部屋まで入って来た。

「どうしたのですか?」

ダグラスの異常な行動に驚きながらもヴァルターが問う。

「バケモンだ!路地裏で人を殺してるやつがいた。そいつはとても邪悪なオーラを放っていた。『暗黒龍』と同等、いやそれ以上だ!」

その言葉を聞いて部屋の空気が凍りついた。

「だから俺がアイツを捕まえて来ます。今ならまだ間に合う。」

正義がそう言った。

その目は血走っており冷静とは言い難い。

「ひとまず落ち着いてくださいセイギ様。行くのなら一人でなく、我々も共に行きますから。話をお聞かせください。」

その言葉を聞いて正義は少しだけ落ち着きを取り戻す。

「…倒れている人を見つけたんです。その人の胸には刺し傷があった。だから路地裏の奥へ進んだ。そしたら別の人を殺してるやつがいたんです。そいつは俺と同じ日本人で、でも沢山の人を殺していて…だから俺はアイツを捕まえないと…!」

「…なるほどのう。しかし『暗黒龍』以上のオーラとは一体?」

ルーザーが聞く。

「それは俺から話そう。セイギには見えていなかったようだからな。…そいつを見てから息が詰まりそうだった。まるで心臓をわしづかみにされているような、少しでも手を出せば殺られるのはこっちだと。そう思わせるほどのヤバさだ。」

「それが『暗黒龍』以上だと?」

「ああ、俺はヤツの討伐隊に入っていた。アンタもだろ?あの時も死にそうだった。でもな、今回のは格が違う。」

部屋に重い沈黙が落ちる。

「…ではこのコロッモに『暗黒龍』以上の脅威がいる。コロッモ伯爵、この事を国王様及び各王国領へ知らせてくれますか?」

「ええ、今すぐ知らせましょう。ついでに偵察隊も出します。」

「よろしくお願いします。」

「今すぐ行かないのですか!?」

「今向かっても彼がそこに居るとは限りません。それに話に聞く通りなら今の我々は彼には勝てません。」

「でも——」

「でもじゃない!あなたは今、私達の命を預かっているんですよ!その事をあなたにはよく考えていただきたい!」

「…。」

唐突なヴァルターの怒鳴りに皆唖然としていた。

そしてヴァルターは少し表情を柔らか。

「確かにいきなり呼び出して私達を救ってくれなんて都合が良すぎます。ただ我々はあなた様に命を預けている、この事を覚えて頂きたいのです。」

「…ごめんなさい。ちょっと自分勝手過ぎました。」

正義が深々と頭を下げる。

「いえ、こちらこそいきなり怒鳴って申し訳ございませんでした。」

「全くしょうがないやつらじゃ。」

「フフフ、いくつになっても男の子は変わりませんねえ。」

「そんで?取り敢えずは様子見ってことで良いのか?」

「ええ、今は偵察隊の報告を待ちましょう。」

—その夜。

正義はなかなか寝付けずコロッモ邸宅の中庭を彷徨っていた。

「眠れませんか?」

後ろからヴァルターが声をかける。

「ええ、アイツのことがやっぱり気になってしまって。」

「私も同じです。良ければホットミルクをお持ちしましょうか?」

「ああ…お願いします。ねえヴァルターさん。」

「はい、なんでしょう?」

「あなたは死ぬことは解放だと思いますか?」

「ふむ、難しい質問ですね。確かにそれは人の本質をついているかもしれません。しかし私はそれが最善だとは思いません。死は解放をもたらすが生は『喜び』をもたらす。私はそう考えています。」

「…俺は自分が間違ってるんじゃないかって怖かったんです。アイツの言うことが合っているかもって思ったんです。」

「この事については間違いも正解もありません。それにあなた様はあなた様なりに考え、人々の為に尽くそうとしている。それをどう責められましょうか。」

その言葉を聞いて正義は少し安堵の表情を浮かべた。

「もし良ければ『暗黒龍』について聞かせてくれませんか?」

「ええ、勿論ですとも。」

そう言いヴァルターは少し目を瞑り。

「あの龍が現れたのは300年ほど前だと言われています。蛇の様な胴体に漆黒の鱗を持つ150メートル程の巨龍です。彼はこの300年で26個の国を滅ぼしました。」

「26も!?」

「はい、そして『暗黒龍』の討伐隊が組まれたのが40年前。1万人規模の大所帯でした。各地の猛者達が集まり一つの目標を掲げて彼に挑んだ。結果は『暗黒龍』を討伐する事に成功しましたが生き残ったのは僅か99人のみでした。」

「…。」

「そしてその生き残り達を99英雄と呼び二つ名と領地が与えられました。有名な方だと『地割れ』、『賢者』、『森羅万象』や『無双』等です。」

「ダグラスさんやルーザーさんも討伐隊に入ってたんですね。」

「ええ、彼らは本当にお強い。それに『森羅万象』もまたお強いのです。彼は当時16歳という最年少で英雄になったのですから。」

「僕の一つ下じゃないですか!凄いですね。」

「はい、しかし彼らも時代の流れにはついてこれなかったのです。今存命なのは99人中7人です。」

正義にはその7という数字がとても重く感じた。

「そうなんですか…あ、そうだ。ヴァルターさんは【イレギュラー】って知ってますか?」

「【イレギュラー】?申し訳ございません。私は存じ上げません。」

「実は召喚される前にアストリオンに【イレギュラー】に気をつけてって言われたんですよ。」

「ほう、時空神様から直接…。」

「俺はアイツが【イレギュラー】なんじゃないかって思っています。」

「なるほど、しかし彼の様な異界の方々を我々は『ヨグソトースの遣い(ウィスパリング・ワン)』と呼んでいます。」

「ウィスパリング・ワン?」

「はい、我々が信仰する三柱以外の神がこの世界に連れてきたもの達です。」

「へー。じゃあ【イレギュラー】って一体?」

「こればかりは分かりません。なんせ神の話ですからね。」

「そうですね。取り敢えず今日もう寝ます。ありがとうございました。」

「いえいえこちらこそ。では、おやすみなさい。」

「はい、おやすみなさい。」

次の日の朝、正義はやけに清々しい気分で起床した。

心なしか命の指輪が汚れている気がする。

取り敢えず朝食でも食べようと食堂に向かうと仲間達が暗い顔をしていた。

「何かあったんですか?」

正義が問う。

テーブルの上には新聞が置いてあった。

そこには大きく“コロッモに死神現る!!”と書いていた。

「こ、これって…!」

「確かにそれもそうじゃが問題はその下じゃ。」

ルーザーが静かに言った。

正義が記事の下の部分に目を向けると“『森羅万象』辺境の村で死す。”と。

「え?『森羅万象』って確か『暗黒龍』討伐の…。」

「はい、その通りでございます。」

「英雄がよりによって他殺なんて…!」

ダグラスが惜しむような口調で言う。

「これは少し警戒したほうが良いでしょう。」

イザベラが冷静に言った。

「なるべく駆け足で魔族領へ向かったほうが良いですね。」

ヴァルターの言葉に皆が頷く。

「セイギ様これからはかなりとばして魔族領まで行きます。それでもよろしいでしょうか?」

「はい。それが人々の為になるなら。」

「ありがとうございます。では早速次の目的地、北。トリニク領へ向かいましょう。」


ナポリタン王国と魔族領の国境沿いに俊明はいた。

ここから『絶望』を頼りにまた西へ向かおうとしていた。

近くに村も無いただの平原。

動物一匹も俊明には近づこうとせず独り孤独に歩き続ける。

そんな平原を300メートルほど歩いたところで。

『やあ、俊明君。はじめましてだね。』

時が止まったような気がした。

背後から流暢な“日本語”が聞こえてきたのだ。

俊明は「君は誰だい?」といつもの様に問おうとした。そこで違和感に気づいた。

僕は今まで()()()()()()()()

『早速二つの違和感に気づいたね。』

とっさに振り返るとそこにはグレーのパーカーに下は黒い短パンそして裸足にサンダルを履いている。

顔はフードを深く被っているのでよく見えないが薄ら笑いを浮かべているのが分かる。

おそらく若い男だろう。

『君が気づいたのは“自分が未知の言語を話していたこと”と“それに違和感を覚えなかったこと”だ。』

「…。」

恐ろしい程に彼からは何も感じない。

『答えとしては君が話していたのは何語でもない。思ったことが相手に分かるように自動翻訳されていたのさ。そしてその事に違和感を覚えないようにプログラムされたんだ。この世界に来た時に。』

「なんでそんなことを知っているんだい?君は…誰なんだい?」

『僕が何者か?そんなことは重要じゃない。ただ、周りからは【イレギュラー】。そう呼ばれているよ。』

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