3階層 ー月の国ー
「おうおうマジか…。」
俺が渦を通って次の階層に移動した。
そして、俺が辿り着いた先に広がっていた光景は…
戦場だった。
◇◆◇
「報告!報告!前線付近の上空に正体不明の渦のようなものが出現し、人型の何者かが落ちてきました!言語を用いて『自分は敵じゃない』と言っています!」
「人型だと?」
1人、戦場から送られてきた兵からの経験のない事態が起きたという情報。
今出現した人型の者が新たなる敵かそれともまた別の存在なのか。
迅速な対応が求められるこの状況。
どうするべきか。
「…アリュール、どう思う?」
「…拘束可能なら牢屋に入れて様子を見るべきだと思います。」
「なるほど…そうだな、よし。ではそのように手配しろ。」
「はっ!」
◇◆◇
と、いうことで俺が敵か味方か見分けるために牢屋にぶち込むらしい。
大変不満である。
だがやっぱりこの世界にきたからには仲良くやっていきたいしいざとなったら手助けできるような場所も確保しておきたい。
なので大人しく捕まることにした。
エレボス様のこの寛大なお心に感謝しろ!
そして今に至る。
「では、この牢屋だ。」
「おお、ここが…。」
そこに広がっていたのは石で囲われた部屋に簡素なベッドとトイレらしきものが置かれた狭いものだった。
正直俺はいまワクワクしている。
王族だった俺は牢屋など入った経験がないからである。
「…何をニヤニヤしているんだ。早く牢屋に入れ。」
「あ、はい。」
顔に出てたか。
そんな訝しげな顔しないでくださいって看守さん。
ベッドに座り、これからについて考える。
まず、投獄生活がどんなものかを把握する。
次に、今の戦争(見た感じ第2階層にいたモンスターと同じ相手だった)の状況を把握。
それらを確認した上で次にどう動くかを決めよう。
DAY 1
囚人は、朝7時に起床させられて朝食タイム。
そのあとマラソンタイム。
さらにそのあと昼食タイム。
その次に自由時間が与えられて運動タイム。
そして夕食タイムが終えられて就寝だ。
ただ、昼食を食べている時に囚人のリーダーみたいな人に絡まれた。
「テメェ、新入りだな?俺への挨拶はどうした?」
「ええっと…ちわーっす?」
「…舐めやがって…!」
そう言って、そいつは振りかぶった。
まあまあ…悪くないな。
「けどっ!」
「うお!?」
飛んできた拳を軽く受け流しそのまま取り押さえる。
「技術もスピードも足りてない。あるのは腕力だけだ。」
俺は拳を構える。
「ふっ!」
腹に1発ぶち込んだ。
「ぐぁっ!」
吹っ飛ばされてく。
ちょっと力入れすぎたかも。
「…」
みんな、さっきまで「あーあーコイツ舐めた態度とっちゃうからリーダーにコテンパンにされるんだよ。」
みたいな表情で見てたのに今じゃスッと目を逸らして静かに俺から離れてく。
寂しいな…。
いきすぎた力は争いを生む…!
なーんてね。
他のやつが同じ絡み方してきたらまたこうするからな。
DAY2
「…なんか用?」
昨日、殴り飛ばしたチンピラが話しかけてきた。
「昨日は失礼しやした!まさか新しく入ってきた奴がここまで強き方とは!」
「お、おう…。」
「自分は、アントレと申しやす!あなた様が来るまで、ここで頭はってやした!よければ、自分をあなた様の子分にしていただけませんでしょうか!」
「…えーっとね…。」
昨日からの反省速度。
子分になりたいと思うまでの速度。
この2つのせいで俺はいま軽く混乱しているんだが1つだけ思ったことがある。
こいつ面白いな。
こいつのノリに合わせてみようかな。
「ふっ、わかった。じゃあ俺のことは今日から兄貴と呼べ。」
「はい、兄貴!」
マジおもろいな。
DAY3
アントレのおかげで俺はこの国の状況を知ることができた。
まず始めにこいつらがずっと戦ってきた相手は数年前から急に襲撃してきた神獣らしい。
襲撃されて始めの方は襲撃頻度も少なく平和だったらしい。
しかし段々と襲撃頻度と敵の強さが強化されていき数年が経った今ではこの国の国土も減り他にもあった国々はここ以外全て滅んだらしい。
大ピンチじゃん。
ただ、今はこの国をおさめているソレイユという国王(女性)が神獣たちを抑えてくれているらしい。
「…。」
思ったより大ピンチでびっくりだ。
牢屋で遊んでる場合じゃねぇ!って思ったけど冷静に考えて襲撃が来るタイミングもわからない俺が脱走しても何の役にも立たない。
手詰まりだ。
俺は日を改めて考え直すことにした。
DAY4
「アリュール様!?なぜこのような場所に!」
「囚人と面会しにきた。君は変わらず仕事をしていてくれて構わない。」
「わ、わかりました…。」
コツコツと俺の牢屋に近づいてくる足音がする。
「…どちら様で?」
「この国の王子をやっている。アリュールという者だ。君に、聞きたいことがあってここにきた。」
「…へえ、王子か。」
なんでこのタイミングで…。
「ああ。君はエレボスというらしいな。よろしく頼む。それでは、早速質問だが君は何者なんだ?」
「…。」
さて、どうするかね。
本当のことを話すか。
隠す必要もないが話す必要もない。
「…これを話したらあんたは何をくれるんだ?」
「!…そうだな…俺の欲しい情報全てをくれたら君をここから出してあげよう。」
「いらないな。」
「…なに?」
「そんなもん、いらないな。俺は別にここを今すぐ脱獄したいわけじゃない。」
「じゃあ、何が欲しいんだ?」
「そうだな…。」
雰囲気に合わせて他のものを要求したはいいけど欲しいものなんてないぞ。
こまったな…。
あ、そうだ。
「その他人行儀な話し方、やめてくれないか?」
「話し方…?そうか…。そんなものでいいのか…わかった、質問だ。」
こうして、質問が始まった。
質問の内容は渦に関してや神獣に対してのことだ。
渦に関しては少しわかるが神獣に関しては俺もよくわかってないから答えられるものはあまり多くなかった。
「そうか…じゃあ、最後に。」
「おう、どんとこい。」
「お前は、何者なんだ?」
「何者か…か。」
なんて言えばいいんだろうな。
俺も正直自分がどの立場にいるのかがわからない。
「そうだな…俺は、別の世界の魔族というものだ。」
「別の世界…さっきお前が言っていた渦というものか。」
「ああ。そこの世界にあった『ダンジョン』っていうとこからきたんだ。俺はそこのダンジョンを攻略しる途中なんだ。そのダンジョンが変わっててな。世界を救うことで先に進めるダンジョンなんだ。」
「世界を救う…俺らの世界もその中に含まれてるってことか?」
「ああ、そうだ。」
「そうか…。」
それからアリュールはしばらく考え込んで途中から看守が用意した席を立った。
「また明日、ここに来る。」
「そうか。あ、果物とか持ってきてよ。」
「…ああ。」
あれ、聞いてくれるんだ。
DAY62
「お、きたきた。」
「よっ、今日は酒持ってきたぞ。」
「おお〜!」
アリュールが来始めてから50日以上経った。
あれから毎日くるようになったアリュールとはだいぶ仲良くなって、友達になれた。
「うまいなこれ!」
「だろ?高いんだぜ。」
しばらくして酔ってくると、だいたいアリュールは愚痴を言い始める。
「最近、神獣を姉貴が抑えるのもきつくなってきた。姉貴も俺を頼ればいいのに…。」
姉貴とは、この国の国王のソレイユのことらしい。
アリュールとソレイユの両親は早々に死んでしまったらしい。
その結果【陽光】の特性を受け継いだソレイユが王の座につきアリュールは王子という形になったらしい。
「ソレイユさんは【陽光】で味方全員を強化してるんだよな。それってやっぱり負担がすごいのか?」
「ああ。寿命を削ってやっている。でもどんなに対策したって敵は強くなってくし頻度も増えていく。最近じゃこうやってここに来ることも難しくなってきた。」
「ソレイユさんに何かしてやれないのか?」
「なにかしようにも姉貴の【陽光】がなくちゃ俺たちは死人が増える。なにも手助けできない。」
「…俺はいつ釈放されるんだ?釈放されたら助けられる。」
「…前から随分と状況が変わったせいで簡単に釈放できないんだ。囚人を釈放するっていう行為が市民の不安を煽ってしまう。みんな、不安でいっぱいなんだろうな。」
「…。そうか、無理言って悪い。」
「いや、いい…。」
DAY125
「緊急事態!緊急事態!」
突如牢屋に振動が伝わってきた。
これは…戦闘音?
「城の城壁が突破された!看守は避難しろ!牢屋の扉は開けてある!囚人もここから避難しろ!」
「な!?」
「どういうことだよ!」
「どこに逃げろってんだよ!」
囚人が騒然とする中、アントレが叫ぶ。
「静粛に!」
すると、騒然としていた囚人がシンとした。
「兄貴、どうしますか?」
「…そうだな…。」
コイツらの避難経路の確保、俺の武器の確保、戦況の把握。
これらをやればいいんだな。
よし。
「アントレは避難経路を確保してコイツらを避難させ次第自分の安全を確保して。俺は…親友を助けに行ってくる。」
「わかりました!」
◇◆◇
「おっ、ここっぽいねー。」
牢屋の地下にある武器庫らしきところにたどり着いた俺はすぐに師匠から授かった刀と目があった。
「あったあった。」
牢屋にある間もずっとこの刀の気配は感じ取ってたから意外とすぐ見たかったな。
さて、まずは地上に上がって状況把握をしに行きます。
地上に駆け上がった俺はまず最初に空を見た。
「これは…」
月と、太陽がぶつかり合っている。
「いや、それより!」
俺は戦場に飛び込んだ。
◇◆◇
アリュールは、危機に瀕していた。
この襲撃が始まって1番初めにアリュールは最前線に立った。
1番多くの敵を討ち1番多く敵の攻撃を受けた。
それでもアリュールの実力は頭ひとつ飛び抜けていたためなんとか戦場に立てていた。
しかしアリュールの中には焦燥があった。
明らかに姉の【陽光】が弱まっている。
(早く、倒さなければ…!)
そう思い、アリュールが一歩踏み出した時、渦から寒気がした。
「!…親玉か…!」
アリュールが目を向ける先に現れた敵は、狐の姿をしていた。
9つの尾を持ちその先端には火がともっていた。
『……操』
その化け物は一言、呟くとアリュールは体の自由を失いその場に崩れ落ちた。
「!?なんだこれは!?」
他の兵士は完全に呑まれて操られてしまっているがアリュールはまだ抗っていた。
結果、精神状態だけは正常な生殺し状態になったわけだが。
「やめ…やめろ!」
そして、アリュールの虐殺が始まった。
◇◆◇
「アントレ!今どうゆう状況だ!簡潔に!」
「兄貴!…アリュール王子が暴走して虐殺中!国王は現在意識不明です!」
アリュールが…。
「……わかった」
アリュールが暴走……明らかに敵の能力だ。
国王が意識不明ってのは前からアリュールが無理してるって言ってたもんな。
この倒れたタイミングを狙ってきたのかもしれない。
全て起こり得ることだ。
そうだ、。
だから。
だから。
だから。
ガァンと自分の頭を殴る
「…落ち着け、俺。」
焦燥、怒り、混乱全部抑えろ。
焦るな。
焦るな。
まず、やるべきは国王の安否確認?
援軍としての参戦?
医療班への支援?
いやそもそも戦場から市民は逃げ切れてるのか?
待て。
落ち着け。
いや、違う。
「そうだ、違うよな。」
市民の避難はアントレ達に任せたんだから信じろ!
医療班は今俺が行くべきじゃない!俺が行っても何もならない!
援軍としての参戦をしつつ俺にはやるべきことがあるだろうが!
友達を、助けるべきだろうが!
何を迷っているんだ俺は!
アイツが今苦しんでんだ!
助けなければ!
「アリュール!」
俺の目に入ったアリュールは血だらけで、ボロボロで、泣いていた。
ギギギと不自然な動きでこっちを見てきたアリュールはこっちを見た。
「逃げて、…くれっ…。」
「ーーっ!」
俺は、気がついたら刀を抜いて駆け出していた。
「【夢実桜】」
夢実桜は、エレボスがよく使う技であるが習得するのに1番時間のかかった技である。
夢実桜は自身を強化状態に入れる技であり、全部で
『蕾』
『開花』
『満開』
の3つの状態があり開花、満開状態はその状態に入るのには一定時間が要求される。
故に本来なら夢実桜発動時は余儀なく蕾状態から開始される。
しかし、友が意識のある状態で支配された上で泣いている姿を見て怒りに包まれたエレボスは心臓の鼓動が早くなり体温が上がり真力の体の循環が早まっていき既に暖まっている状態にある。
その上で無理矢理体を叩き起こしたエレボスは開花状態に入った。
「くっ!」
しかし、そのエレボスの動きも止まってしまう。
なぜなら狐の化け物が操っているのは助けようとしている友だから。
「もう、いいんだ…。」
「あぁ!?」
「もう、充分だ。」
「んだと?!」
「みんな、死んだんだ…。みんな、俺のことを助けようとして死んだ…!もういいんだ!俺にもう殺させないでくれ!いいんだ見捨てて!」
「…」
「早く俺ごとこの狐を殺してくれ!俺はもう…」
「うるせぇよ。」
アリュールは驚いたように目を見開いた。
「さっきから思ってもないことごちゃごちゃ言いやがって。お前のことなんざよくわかるよ。姉のことが心配なんだろ?死にたくもないだろ?」
「ならお前が言うべきことは違うだろ!俺にちゃんと言いたいことを言え!」
「俺は!お前の友達だろうが!」
「ーーっ!」
「さっさと言え!」
「ーー……姉上を…俺を!助けてくれ!」
俺はその言葉を聞き、安心して歩み寄る。
「ああ、任せろ。」
さあ、反撃を開始しようか。
1話に1階層やるのは大変無謀であることが判明したのでこれからは少しずつ分けて投稿しようと思います




