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第9話

 次の日からクリストフェルを揺さぶる活動を始める。


 ある時は、廊下ですれ違いざまに――


「殿下、婚約破棄の件、陛下に報告はされましたでしょうか?」

「いや、まだだ」


 ある時は、図書館で隣に座り――


「殿下、報告はされましたか?」

「まだだ」


 ある時は、授業中にノートに書いて口パクで――


(殿下、報告はされましたか?)

(まだだ)


 ある時は、男子寮の殿下の窓から見える位置でプラカートを持って――


【殿下! 報連相!】


 さすがに最後のプラカードには返事が無かったが、ここ二日はクリストフェルに陛下への報告の有無をしつこくストーキング……もとい催促をしている。

 教室でクリストフェルに話しかけようとしたら側近に睨まれる。側近には、オリビアがまた恋愛狂を発症してクリストフェルにつきまとっていると思われているかもしれない。誤解を招きそうな行動はしたくない。でも、こちらも時間がないのだ。

 クリストフェルに手を振り、声を掛ける。


「殿下、報告はされましたか?」

「オリビア! 分かったから、やめてくれ。本日、父上には急遽謁見の申し込みをした」

「左様ですか! 素晴らしいですね。感謝いたします!」


 グッと小さく両手でガッツポーズをとる。

 陛下の婚約破棄の承認さえ下りれば、公爵がどんなにギャーギャー言おうとも取れる手段が無くなる。

 なんなら公爵が怒り狂って、私を僻地に送ってくれないかな~。田舎でのんびりニート生活。そんな、スローライフなんて最高でしかない。うん。第一希望が僻地の領地、第二希望は放逐だね。

 放逐はシンプルに手元に資金がないから困るけど、まぁ、前世は一般人だし平民になるのも悪くない。

 正直、クリストフェルのオリビアへの行いを許した訳ではない。だけど、状況を考えてみれば……ほんの十五、六歳にオリビアのすがる思いを包み込めるはずもない。私を婚約者として失ったら、強力な後ろ盾を失う。クリストフェルには、それだけでも十分な仕返しだと思っている。


 次の日、気分良く寮の部屋を出る。クリストフェルは、昨日婚約破棄の件を陛下に報告しているはずだ。

 教室に着き、クリストフェルを探す。いたいた。え? なんでそんな気まずそうな顔して目を逸らすの? おい!

 昼食前にクリストフェルに声を掛ける。


「殿下、お話があります」

「いや、その私も今日は――」

「殿下!」

「分かった。分かったが、場所を変えよう」


 クリストフェルに諦めたように返事をされ、渋々という感じで生徒会の執務室に連れてこられる。クリストフェルは生徒会の副会長だ。会長は第二王子だ。

 執務室には初めて入ったけど、豪華だね。どうやらここはクリストフェル専用の執務室らしい。ここ、本当に学生の生徒会? 贅沢すぎるでしょ。

 クリストフェルに案内されたソファに座れば、すぐにメイドがお茶を運んできた。メイド付きって……本当に贅沢だね。 

 今日は王子の取り巻き隊はおらず、オリビアの記憶では久しくクリストフェルと二人きりだ。

 クリストフェルが、メイドの出した菓子を勧めてくる。


「オリビアはこのような菓子が好きだっただろう? これは、巷で人気なクリームパフと言うものだ」


 オリビアは子供の頃から何度かクリストフェルと会っていた。その時には必ず大量のお菓子を食べていたが、何も菓子が好きだから食べていたのではない。普通にお腹が空いていたからだ。パフを一口食べ眉間に皺を寄せる。

 ああ……やはりそうか。オリビアの味覚はクリームを受け付けないようだ。


「大変美味しゅうございます。それで、早速本題なのですが、陛下へのご報告はいかがでしたでしょうか?」

「うむ、伝えたぞ」

「それで、陛下はなんと?」

「父上は私の判断に任せるとのことだったが……母上が反対されてな。少し様子を見ることになった」


 満面の作り笑いを顔面に張り付け、内心舌打ちをする。

 腑抜け王子め。お使いもろくに出来ないのか? でも、クリストフェルの母親が反対するのは予想していた。

 クリストフェルの母親の第二妃は侯爵家の出だ。何侯爵だったか……そうそうマクウェル侯爵家だ。侯爵家の勢力はそこそこだが、王妃ほどではない。第二王子は王妃の息子で、第一王子は前王妃の息子だ。三人の王子の力関係は第二王子がやや優勢なのだ。だからこそ、ランカスター公爵家との繋がりは固めておきたいはずだ。


「様子を見るとは、婚約を続けるという事でしょうか?」

「私も不満だが、仕方ない」

「何をおしゃっているのですか? ピンク……リリアン様にはなんとお伝えするつもりですか? 彼女にも私にも失礼じゃないでしょうか?」

「……リリアンなら分かってくれるはずだ」


 おいおい、頭がお花畑か? リリアンもこんな腑抜けのどこがいいのだろうか。決して腐った奴ではないが、これは王の器ではない。オリビアもこいつの何に惚れたのだろうか?

 落ち着いて、子供を叱るようにクリストフェルに語り掛ける。


「リリアン様へはどのように説明されるのですか? まさか、私が婚約破棄をしてくれないとかいう戯言は言わないで下さいませ」

「オリビア……本当にどうしたのだ? ここ数日のそなたは以前とは別人ではないか」

「誰かに思いっきり叩かれ、目が覚めたのですよ」

「……それは、悪かった」

「殿下。済んだことはもう良いのです。お詫びをしたいなら、婚約破棄をしてください。陛下の承認があれば、直ぐにでも可能のはずです。このまま、中途半端でにされますと本当に私と結婚しなければならなくなりますよ? そんな事態になったら、リリアン様はどうするのですか? 臣下に下げ渡すのですか?」

「そんな事はしない!」


 クリストフェルがテーブルを叩くと、紅茶のカップが揺れる。ソーサーにこぼれた紅茶から目を上げ尋ねる。


「では、妾ですか? 彼女を第二妃にするにはクリストフェル様が王にならない限り不可能ですよ。何年後になるのでしょうかね? その間にリリアンさんは、お婆さんになってしまうのでは? 今のままでは、完全に妾コースですよ。妾として城にリリアンさんを仕舞うのは酷だと思いませんか?」

「くっ」


 ほらほら、婚約破棄しないと、お前の大好きなリリアンたんがつらい目に遭うんだぞ。いいのか? それでいいのか?


「もう一度、父上と話してくる」

「それが、よろしいかと存じます。そういえば、二日後に王妃様主催の薔薇のお茶会がありませんか? 他の妃も毎年参加されると聞いております」


 薔薇のお茶会は王妃主催の王宮の恒例行事で、参加者は主に既婚者の女性の催しだ。もちろんオリビアは参加したことがないが、これはゲームのシナリオの知識にあった。

 クリストフェルが神妙な顔で尋ねる。


「なんだ? 参加したいのか?」

「ちげぇよほほほ――失礼いたしました。私などが参加可能な行事ではございません。その日は、どの妃も忙しいのではないかと……薔薇のお茶会は女子のみの催しでございます故に」


 なんで私がここまで説明しないといけない……自分で気づいてくれ。

 クリストフェルがハッとして言う。


「そうであるか! その時に父上に密かに謁見すれば良いのだな!」

「第二妃様の忙しい朝に謁見を行えば、陛下と水入らずに語らえると存じます」

「そうだな。オリビアの助言、感謝する」

「いえいえ、全ては殿下ご自身のお考えですよ。それでは、私はこれにて失礼させて頂きます」


 立ち上がり臣下の挨拶をして部屋を退室する。王子はアホの子だね。アホの子は煽ておけば良いだろう。お腹も空いたし、食堂でおいしご飯でも食べようっと。

 廊下を歩いていると、クリストフェルの一番の腰巾着と鉢合わせてしまう。


「オリビア様、また殿下を困らせているのか?」


 よくクリストフェルの周りにいるので、顔は覚えたけど……名前が分からない。さっさと去るか。


「ご機嫌麗しゅうございます。それでは、失礼させて頂きます」

「いや、オリビア様にはお話があります。クリストフェル様のことを思うのなら、婚約者を続けるように縋ってください」

「は?」

「せめて来月まで……」


 ボソッと腰巾着が言うのが聞こえた。

 ああ……一か月後の婚約破棄を使った、オリビアと婚約破棄しても公爵の後ろ盾を得る作戦を思いついたのはこいつか。

 今は相手するだけ無駄だろう。淑女の礼をして立ち去る。

 歩き始めると、焦りながら腰巾着が私を止める。


「ま、待て!」

「嫌です」

「なんだとっ!」

「何故、公爵令嬢の私が、まだ爵位も継いでいない令息の指示に従わないとならないのかしら?」


 名前は知らないけど、学園に通っているこの年齢なら、爵位はまだ継いでいないはずだ。


「それは! いや……失礼いたしました」


 口元を引き締めながら頭を下げた腰巾着を見下ろしながら言う。


「そうですわよね? では、失礼しますわ」


 こんな策士に関わっていたら、また王の椅子取りゲームに参加させられそう。無視が一番だ。

 さて、こんどこそ食堂へ向かおう。


「オリビア様!」

「ウァ、トーマス……」


 食堂に入る直前で息の上がったトーマスに手紙を渡される。


「オリビア様、公爵様の呼び出しでございます」


 次から次へと……でも、外出許可はまだとっていない。申請すらしていない。


「トーマス。学園の外出許可は早くて明後日です」

「公爵様が学園にオリビア様の外出許可を早める申し出をされました。明日の朝にはお出かけする事が可能です」


 明後日に朝ならまだしも、明日の朝じゃ困る。ここは裏技をかますか。フラッとしてバタン作戦だ。


「あら……眩暈が……」


 急に倒れた私を、焦ったトーマスが学園の医務室に抱えながら連れて行く。

 オリビアの身体に入ってから数日、気が張っていたことに空腹もありトーマスの腕に中で本当に意識を手放してしまう。


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